「血湧き肉躍る!」
若い情熱が爆発する作品
「血湧き肉躍る」という言葉があります。これは全身に活力がみなぎる時とか、試合に際して震えるような興奮を覚える時に使ったりしますが、ブラームスのピアノ協奏曲第1番ほど、この言葉を実感させる作品はありません。
この作品、とにかく音の厚みと湧き上がる情熱が凄く、内容的にはピアノを主役に据えたシンフォニーといってもいいほどで、ブラームスの持ち味が強く出た作品となっているのです……。嵐のように開始される第1楽章冒頭のティンパニの轟きから、その気迫に圧倒されます。続く悲しげな表情を湛えた第2主題も印象的な部分で、曲は様々な変化や発展を増し加えながらドラマチックに、ある時は詩情豊かに展開していきます。
第2楽章の叙情的で深い瞑想を想わせる第1主題は音楽詩人ブラームスの面目躍如と言っても過言ではありません。中間部のピアノのカデンツァは敬愛していたシューマンの夢幻的な響きを随所に感じさせるのですが、全体として音楽はブラームス流のしっとりとした味わいに満ちているのです。
演奏がツボにはまると
恐ろしいほどの感動を受ける
第3楽章フィナーレは、口ずさめるような第1主題がピアノによって奏されると、俄然音楽の見通しが良くなり、荒ぶる魂が全開のまま一気に突き進んでいきます。 ピアノとオケの絡みも絶妙で、充実した中間部から怒濤の勢いで輝かしいフィナーレを迎えるあたりはこの曲の最大の聴きどころでしょう!
後年の第2番に比べると、作品としての完成度は一歩も二歩も譲るかもしれません。しかし、若書きの作品であるにせよ、この曲は全体的にエネルギーやパワーに満ちあふれており、聴いていてワクワクドキドキする瞬間が多いのも確かです。協奏曲にありがちな、奇をてらうとか、これ見よがしの外面的な演出効果ではなく、「内なる声の叫び」であることが魂のカタルシスをもたらすのです!
また、ピアノ協奏曲第2番が熟成した作品であるため、誰がピアノを弾き、指揮したとしてもある程度の演奏になるのに比べると第1番は決してそうはいきません。1番はピアニスト、指揮者、オーケストラの楽員共々、作品に対する相当な思い入れや愛情がないと薄っぺらな音楽になってしまったり、音楽そのものが崩壊してしまう恐れを多分に含んでいるのです。ある意味怖い作品ですが、それだけに演奏がツボにはまると、恐ろしいほどの感動を受けたりもするのです!
指揮者主導のザンデルリンク盤と
ピアニスト主導のルービンシュタイン盤
演奏でまずおすすめしたいのが、エレーヌ・グリモー(ピアノ)、クルト・ザンデルリンク指揮シュタッカーペレ・ベルリン(エラート)です。何といってもザンデルリンクの指揮の凄さに脱帽です! 懐の深さ、有機的なオケの響き、壮大なスケール……。どれをとってもこれまで聴いたことがない世界が現れているではありませんか!
ゆったりとしたテンポで噛みしめるように進めるのですが、退屈になることが一切ありません。これはもう、曲の本質をがっちり掴み、さまざまな音楽的ニュアンスを引き出した指揮者に大拍手するしかないでしょう。ピアノのグリモーもザンデルリンクの音楽に刺激されたのか、なりふり構わぬ遅めのテンポと強めのタッチで内容豊かな音楽を展開しているのには驚きです。
もう1枚忘れてはならないのが、アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)、ズビン・メータ指揮イスラエルフィル(ユニバーサル・ミュージック)の演奏です。
ここでのルービンシュタインのピアノは快調そのものです!もはやここまでくると遊びの境地……、融通無碍の世界と言ってもいいでしょう!ピアノから繰り出される一音一音に深い味わいとルービンシュタインの個性が光っています。そこには容易に真似の出来ない即興的な面白さや格調高い芸術的な響きが同居しているのです。
メータの指揮はルービンシュタインの波動に引き込まれるように大きな音楽を生みだし、オケから終始有機的な響きを引き出していて、ピアニスト共々、最後まで息の抜けない演奏を繰り広げていきます。