2016年3月16日水曜日

マティス 『ダンス』







絵画の新たな
可能性を導き出す

 小学生の頃だったでしょうか……。この絵を初めて見たときは本当にビックリしたものでした。「こんなにアッサリ、すっきり絵をまとめちゃっていいんだろうか……」と。その後、「絵の価値、意味って一体何なんだろう」としばらく悩んだものです。

 『ダンス』を見ていただければ、お分かりのように、背景を想わせる壁面や事物は一切存在しません。代わりに濃いブルーとグリーンの色面を分割しているだけです。またこの絵の唯一のモチーフでもあるダンスをする裸婦たちの顔の表情や服装、背丈の違い、陰影などはことごとくカットされているのです。

 マティスの『ダンス』は、徹底的に絵の要素から余分な情報を排除して、本当に伝えたい要素だけを抽出しているのです。つまり、絵として成立するための必要最低限の核心だけを的確に表現した絵と言っていいでしょう! まさに絵の表現の原点をみるような気がいたします。このような絵を描くことは画家としては大きな挑戦ですし、冒険でもあったことでしょう。それにしても何という潔さでしょうか!

 裸婦たちが手をつなぎ連なる形は、どことなく唐草模様を彷彿とさせ、装飾的な効果を生み出しています。そして忘れてはならないのが、画面全体にみなぎる動的なリズムと強烈な色彩のエネルギーでしょう。私たちはこの絵から単純な線と形、色面がもたらす絶大な効果を実感せざるを得なくなるのです。
 生々しい人間感情に敢えて触れないで、線と構図、色彩が繰り広げる自由奔放な感覚を絵に注入出来たのは、やはりマティスという鋭敏な感性の持ち主だったからなのでしょう。