ヘンデルはオラトリオ「サウル」や「エフタ」、「ユダス・マカベウス」のように劇的でスケール雄大な作品を得意としていますが、一方で典雅で優美な作品も得意としておりました。ヘンデルのヴァイオリンソナタはその代表的な例といえるでしょう。彼の作品としては柔和な表情が曲調によく反映されており、その明晰で静謐な味わいは他の作曲家の作品ではなかなか聴くことができません。
この作品集はヴァイオリニストの練習用としてもよく弾かれますが、もちろんそれだけの作品ではありません。古典的なヴァイオリン作品のスタンダードとして、今もヴァイオリン曲の重要なレパートリーとしてその位置を確固たるものにしているのです。演奏は概して高貴に格調高く演奏されることが多いのですが、今では速めのテンポでスタイリッシュに大胆に演奏されることも珍しくありません。
この作品は余分な飾りや誇張が少なく、シンプルで1音1音の持つ意味が大きいために演奏によっては魅力的にもなり、つまらない演奏にもなりやすいのです。本当の意味で弾く人のセンスや音楽性が要求される作品がこのヘンデルのヴァイオリンソナタと言っていいでしょう。
楽譜どおりに演奏するだけでは静謐で優美な魅力を充分に発揮できない可能性が高い作品なのです。つまり呼吸であったり、音の響かせ方であったり、フレージングのとりかたであったり、そのような感情豊かな表現をしてくれる演奏こそがこの作品の価値と魅力を際立たせることは間違いありません!
楽譜どおりに演奏するだけでは静謐で優美な魅力を充分に発揮できない可能性が高い作品なのです。つまり呼吸であったり、音の響かせ方であったり、フレージングのとりかたであったり、そのような感情豊かな表現をしてくれる演奏こそがこの作品の価値と魅力を際立たせることは間違いありません!
そのような中でミッシャ・エルマンがヴァイオリンを担当したCDはおそらく輸入盤限定で、今は廃盤になってしまったのでしょうが、とても味わい深い演奏です。間違いなく古い時代のスタイルの演奏で、ボルタメントを多用しテンポも一定ではなく、かなり情緒豊かに歌う演奏です。おそらくこんな演奏をする人は今の時代は皆無といっていいでしょう。このような演奏を好む人は好みますが、嫌いという人は徹底的に嫌うかもしれません。しかし、一言でこの演奏を「古い!」と決めつけてしまうにはあまりにも勿体無い魅力に溢れた演奏なのです!
なぜなら、現代のメカニカルなくらいテクニック万能主義の時代にあって、手づくりのような懐かしさや温かさを与えてくれる稀有な演奏だからです。
録音は1950年のモノラルですが、意外に状態が良く充分に鑑賞に耐えうる範囲内です。何といっても甘く切なく歌うエルマンのヴァイオリンの響きが最高で、その表現に途轍もない歌心を感じるのです!特にHWV373のアダージョは涙なくして聴けぬほど曲に没入しており、超スローテンポで奏でられるヴァイオリンの響きは深い内心の声を伝えるかのようです。
他の作品、楽章もエルマンの演奏を聴いて初めて曲の隠れた魅力に気づかされることも多く、改めて手際良くスタイリッシュに片付けられた演奏との違いをまざまざと実感するのです。そうはいっても、このエルマンの演奏はすべての人におすすめ出来る演奏ではありません。
そこで万人向きの演奏となるとグリュミオー、スークあたりになるでしょう。
そこで万人向きの演奏となるとグリュミオー、スークあたりになるでしょう。
グリュミオーは彼持ち味の美音が最大に生かされた演奏で、モーツァルトを想わせる典雅な味わいは流れるような旋律の魅惑を感じます。スークのCDは一番安心して聴ける演奏かもしれません。すべてに心のこもった柔らかな表情がそれぞれの曲を堪能させてくれます。