2011年11月12日土曜日

グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独




グレン・グールド のドキュメンタリー映画

映画『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』



 グールドのドキュメンタリー映画が公開されたようです。グールドは生前から様々なエピソードに包まれたことでも有名な人でした。夏場でもマフラーや手袋を装着したり、レコーディングの時も夢中になるとはっきり聴き取れるくらいの声量で口ずさんだりと、そのようなエピソードは枚挙にいとまがないほどでした。

 既成概念にはまったくとらわれず、新しい音楽観を打ち出したり、独自の美意識に支えられた演奏スタイルを確立したことでも有名です。そのような意味でも、彼の残した録音はオリジナリティの強い名演奏が数多くあります。その一つがバッハの平均律ククラヴィーア曲集でしょう!平均律というと、気難しく厳かな雰囲気で弾かれることの多かった曲ですが、その曲をとことん楽しく、生き生きとチャーミングに弾いた人はグールドがおそらく初めてでしょう!

 しかし、彼の乾いたタッチから滲み出てくる何とも言えない寂寥感はグールドだけのものでした。それは表面のエキセントリックで特異な表情とは裏腹に、静かに深く心にしみこむ類いのものだったのです……。
 私自身最近グールドの演奏はあまり聴かなくなってしまいましたが、今も彼の録音が再プレスされるととても気になるし、実際店頭でもある一定の売り上げは約束されるようです。

 でも、グールドだからこそ、こんなドキュメンタリー映画は作られるのでしょうね…。他のピアニストや演奏家のドキュメンタリーは途中で退屈になってしまうかも。やっぱり、グールドの音楽とその人生を映画で見るのは意外に面白いのかもしれません。

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ストーリー

カメラは孤高の天才ピアニスト、グレン・グールドを愛した女性たちを捉え、彼女たちの証言から彼の知られざる本質と謎を解き明かしていく。また、彼を知る人々のインタビューや未公開の写真、日記などから伝説の人物としてではなく人間としてのグールドに迫る。

解説

孤高の天才ピアニストとして没後も圧倒的な人気を誇るグレン・グールドの最新ドキュメンタリー。これまで製作されてきたドキュメンタリーと異なり、彼の日記や、友人、恋人の発言を通して、“エキセントリック“と称さることの多かったグールドの素顔と、彼が音楽を通じて伝えたかったもの、彼のこれまで語られなかった側面を描き出していく。







【作品データ】
作品名原題     GENIUS WITHIN: THE INNER LIFE OF GLENN GOULD
カテゴリ      ドキュメント
公式サイト     http://www.uplink.co.jp/gould/
製作年       2009年
製作国       カナダ
時間             108分
公開日       2011-10-29~
配給             アップリンク
監督             ミシェル・オゼ
                    ピーター・レイモント
製作             ピーター・レイモント
出演             グレン・グールド
                    ジョン・ロバーツ
                    ウラディーミル・アシュケナージ
                    コーネリア・フォス
                    ローン・トーク
                    ペトゥラ・クラーク
                    ロクソラーナ・ロスラック
                    フランシス・バロー
                    ハイメ・ラレード
                    フレッド・シャリー

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2011年11月7日月曜日

ヘンデル オラトリオ『ソロモン』HWV67




ソロモン王の繁栄の時代を扱った、美しく豊かなオラトリオ

David Wilson-Johnson,  Susan Gritton,  Mark Padmore,  Carolyn Sampson,  Sarah Connolly
Berlin RIAS Chamber Chorus / Academy for Ancient Music Berlin / Daniel Reuss 


Carolyn Watkinson, Nancy Argenta, Barbara Hendricks, Anthony Rolfe Johnson,
Monteverdi Choir/  English Baroque Soloists / John Eliot Gardiner



 ヘンデルのオペラやオラトリオは彼の作品を語る上で絶対に避けては通れない重要なカテゴリーです。彼のオラトリオの作品数は全部で30作にものぼりますが、いずれも甲乙つけがたい傑作揃いです。この30という数は他の作曲家ではちょっと考えられない驚異の数といっていいでしょう。70分前後の交響曲を作曲するためにも普通は半年から1年という期間を要するのに、100分から140分ほどのオラトリオを2カ月位で作曲してしまうのですから、その創作の早さは尋常でありません。

 前回は、ヘンデルの最高傑作の部類にもあげられる「サウル」を紹介しましたが、今回はもっと楽に聴けて楽しめる「ソロモン」を紹介したいと思います。
 楽に聴けるといっても、それは全体的に穏やかで静かな作風によるところが大きく、作品の質は決して劣るわけではありません。
 特に劇中で次々に登場するアリアは懐かしく慈愛に満ちた美しい旋律であったり、崇高で深い悲しみを歌ったり、可憐で純粋な喜びを表現したりと実に多彩で魅力的なのです。決して難解ではなく、気難しくもないのですが、全編を芸術的で豊かな香りが包みこむのです。

 この作品をさらに魅力的にしているポイントとしては合唱の見事さを挙げないわけにはいきません。
 アリアと同様なことがいえるのですが,ヘンデルの合唱の素晴らしさは型にはまらず、かつ格調高く崇高な味わいを表出していることでしょう。それぞれの合唱曲は大体が場面の性格を端的に表す場合に使われるのですが、まるで心の動きをそのまま置き換えたように多彩な表情の変化があります。希望や慰め、苦悩、嘆き、安らぎ、祈り等のさまざまな感情を代弁すべくある時は静謐に、ある時はドラマティックに歌われていくのです!ヘンデルのオラトリオの合唱は枝分かれした川の支流が本流へと合流するための重要な流れに位置するキーポイントのようなものなのです。

 魅力作であるにもかかわらず、録音が意外に少ないのは演奏が難しいからではないでしょうか。「サウル」や「エフタ」のように壮大でスケール雄大に演奏すると、「ソロモン」の柔軟で牧歌的な雰囲気と味わいはなかなか表現できないのです。

 もちろん、ヘンデルのオラトリオは彼特有の雄々しい迫力と骨太な存在感が根底に息づいていないと魅力が半減してしまいます。そのことを踏まえながら、演奏スタイルのさじ加減を微妙に調整しなければならない作品なのでなかなか難しいのです。ヘンデルのオラトリオに強い共感を寄せられるということが指揮する上での最低条件となることでしょう。

 ところで、「ソロモン」は旧約聖書の列王記に登場するイスラエルの王ソロモンの繁栄の時代をテーマにした物語です。もちろん旧約聖書の内容を知っているに越したことはありませんが、特に知らなかったとしてもヘンデルの音楽はそれ以上に普遍的な感動を与えてくれることでしょう!

 この曲はダニエル・ロイス指揮ベルリン古楽アカデミーおよびRIAS室内合唱団の演奏が非常に新鮮で透明感に溢れています。最初に聴くとあまりにも造形がすっきりしているため物足りないように感じることもありますが、それはロイスがむやみに絶叫したり、過度な誇張をして曲の核心の部分が見えなくなるのを避けているからなのです。その代わり何度聴いても飽きることが無い、柔らかで豊かな音楽が自然に流れていきます。サラ・コノリー、スーザン・グリットン、キャロリン・サンプソン、マーク・パドモアの歌はいずれも歌心にあふれ充実しています。

 ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツおよびモンテヴェルディ合唱団の演奏は世界で最初に「ソロモン」の素晴らしさを知らしめてくれた記念碑的な演奏(1984年)です。この演奏を最初に聴いた時は本当に驚き感動したものでした!ガーディナーの音楽性が最高に結集された録音で、既成概念を打ち破るスタイリッシュな造型や響きが何ものにも代え難く、アージェンタ、ヘンドリックス、ロルフ・ジョンソン、ワトキンソン、ジョーンズらの歌も大変魅力的です。ガーディナーのこの曲で打ち立てた功績は今さらながらに偉大だったと思わずにはいられません。


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