血が通い安らぎに満ちた
静謐な空間
とても魅力的な絵ですね……。
一般的に絵を描く場合は形をしっかり捉えて、色彩と構図のバランスをとりながら描いていくのが定石なのでしょうが、この絵はちょっと違います。形や色彩で描き分けるというよりは光の温もりや明度、彩度、陰影の多様な変化によって描き分けているというほうが正しいと思います。
しかし、誰もがこのように絶妙な陰影の描き分けが出来るわけではありません。 もちろん技術的に陰影を描き分けたり、ドラマチックな空間を表現することは出来るでしょう。ただしこの絵のように血が通い、安らぎに満ちた静謐な空間を生み出すことは極めて難しいことですね。
「本物の絵」と称されるものがフォルムや色彩といった枠組みを超えた感動の追体験を表現した絵であるとするならば、レンブラントの絵はまさにこれです。
それにしても何という厳粛でかつ温かい色彩のトーンに満たされた絵なのでしょうか……。絵の端々から画家の対象に寄せる愛情やメッセージが伝わってくるようです。
イエス・キリストに授乳するマリアとそれを見守る老婆の姿がまるで日常の光景のごとく描かれているのですが、それがかえって見る者に親近感と深い共感を呼び起こしているところが興味深いではありませんか。
この絵を眺めていると途轍もなく大きなものに包み込まれるような安心感がありますし、緩やかに流れる濃密な時間と空間の意識が絵の中にしっかりと息づいていることが分かりますね。
「聖家族、または指物師の家族」は現在(2015年2月~6月)東京・六本木の国立新美術館で開催されている「ルーブル美術館展」に展示されているとのことです。こんな名画を間近で見る機会があるなんて…。 これは何を差し置いても見るしかないでしょう!