2011年1月25日火曜日

モーツァルト フルートとハープのための協奏曲K.299



 世には多くの協奏曲がありますが、大抵は独奏楽器をバリバリ鳴らすものか、オーケストラと競奏という形になってしまいやすいようですね。しかし、モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲はエレガントでファッショナブルな外面を保ちながら、フルートとハープが個性を失うことなく互いが互いを引きたてあう幸福な結果を生み出しているのです
 それは時に光と影のような関係になったり、主旋律と伴奏になったり、告白と受容の関係になったりとめくるめく音楽的なインスピレーションに溢れていきます。
 この曲を聴くととても懐かしい気持ちになります。特に第2楽章に流れるテーマは夕陽に輝く浜辺を物思いにふけりながら散策する風情に似ていて、すーっと曲に引き込まれていくのをよく感じたものでした。フルートとハープが奏でるメロディは波間にきらきら輝く光と潮風の余韻を感じさせ、心の中にどこまでも天国的で純粋無垢なメロディが記憶されていくのです。
 第1、第3楽章ももちろん素晴らしく、優しく愛らしい音彩は一度聴いたら忘れられません。天空に舞うかのようなフルートの音色と真珠の輝きのように気品溢れ夢のような調べを綴るハープの旋律……。それは心のわだかまりを洗い流すように透明な詩情を伝えてやまないのです。

 この作品は表面的には明るく微笑むように曲が展開していきますが、同時にしっとりとした哀愁も滲ませ、聴く人の心に深く刻み込まれます。 心の動きを伝えるフルートの響きとその心の動きを見つめ慰めるハープの響きは次々と繊細で愛おしい旋律を奏でていきます。地上のさまざまな苦悩や哀しみを忘れさせるような無邪気さや意地らしさが抜群です。それにしてもフルートとハープの音色の相性の良さはいかばかりでしょうか!
 そもそも作品が生まれるきっかけはモーツァルトがパリ滞在中にフルートを得意にしているギーヌ公とハープを演奏するという娘のために作曲されたものでした。しかし親子共々、曲に対する理解や愛着がまるでなく、おまけにレッスン料も半額しか支払わなかったりと散々だったようです。けれども今では不朽の傑作として、フルーティストやハーピストの間では特別な位置を占めているのです。運命とは本当に皮肉なものですね。


 演奏では昔から名演奏として定評があるのがジャン・ピエール・ランパルのフルート、リリー・ラスキーヌのハープ、ジャン・フランソワ・パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団のエラート盤です。この演奏は個々のテクニックはもちろんですが、特に素晴らしいのは音楽の流れの良さでしょう。もっとしっとりとした情感や静かな叙情性に優れた演奏は他にありますが、この演奏は停滞しない抜群のセンスによって聴くものを飽きさせません。とかく伴奏にまわってしまいやすいハープの旋律をラスキーヌの演奏は同等かそれ以上のレベルに持ち上げているのには驚かされます。








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