2016年9月8日木曜日

ヘンデル 組曲HWV426











日々の生活の中で吸収する
自然のエネルギー

 皆様は日々の生活の中で、自然の営みがもたらす恵みやその影響について関心を寄せられたことがありますでしょうか……。普段は気づかないかもしれませんが、それは私たちにとって確実に心の重要な部分を占めていて、知らず知らずに心の養分として吸収されていることは間違いないでしょう。

  たとえば、太陽が大地をくまなく照らすようすに無限の希望を感じたり、温かな陽射しや涼やかな風が心をなごませるように、ごく当たり前のように展開される自然の営みが私たちにとっては心の成長や発展、精神的な回復を促すきっかけになっていたりするのです。このことからも私たちの心を刺激する重要な要素が自然のエネルギーにあるといってもいいでしょう。
 私たちは自然が放つ汚れのない美しさや気高さ、愛らしさ、無限のインスピレーションを日々受けながら、それに感動し、感応しているのです。 


堅実なスタイルを持った
生命力に溢れた音楽

 ヘンデルの組曲HWV426をそうした自然の美しさや気高さに見立てるのは少々無理があるかもしれません。でも、さりげなくて自己主張しない音楽なのに、創造性豊かで包容力があるところは近しい何かを感じるのです。
 その音楽の魅力をひとことで言うと「堅実なスタイルを持った生命力に溢れた音楽」といってもいいでしょう。
 何がそんなに魅力的なのかというと、飾らないスタイルもそうですが、音楽に生成と発展の要素があり、さまざまなパートに永遠の余韻を感じさせる響きがあるところでしょう。なぜなのでしょうか? ヘンデルの音には不思議と輝きと生命力が宿っていますね……。

 プレリュードは単純明快な主題から音が積み重ねられると、音楽はどんどん発展し、雄大な世界が広がっていくのを感じます!
 特に見事なのがアルマンドとクーラントです。主題やメロディに少しも誇張はないのに、音楽が開始されると光を浴びて眠っていたあらゆるものが起き上がるように、音楽は美しく気高く彩られながら様々な表情を映し出していきます!
 HWV426はチェンバロの演奏が高貴で堅実なロココ調を感じさせていいのですが、ピアノの演奏で聴くと神秘的でエレガントな雰囲気が醸し出され、時代を超えた普遍的な音楽としてさらに作品の魅力が高められるような気がします。


ハイドシェックが成し遂げた
ピアノの名演

  この作品はいかにもチェンバロにふさわしい高雅な雰囲気が支配する音色と形式を持っています。そのため演奏も圧倒的にチェンバロ版が多く、ピアノは少数派かもしれません。しかしピアノでその構造や音色を丹念に掘り下げていくと稀に見る名演奏が実現したりします。
 エリック・ハイドシェックの演奏はその代表的な名盤と言ってもいいでしょう! もぎたての果実のようにフレッシュで、しかも語り口が上手く、フランス風の様式を用いたこの曲を実に魅力的に聴かせてくれます。

 バロック音楽だからといって、一般的な演奏様式に倣って弾かないのがハイドシェックの凄いところで、この録音もヘンデルの音楽の隠れた魅力を充分に引き出していますね。一音一音に感動と発見があり、その驚くべき感性の豊かさとしなやかな演奏スタイルには唖然とさせられます。