ロココ芸術時代に光るモーツァルトの才能
18世紀のフランス・ルイ王朝時代に絢爛豪華な装飾美で全盛を誇ったのがロココ芸術でした。絵画ではヴァトー、フラゴナール、プーシェ、ラ・トゥール、音楽ではクープラン、ラモー、スカルラッティら錚々たる顔ぶれが珠玉の美を競い合った時代です。そのロココ芸術全盛時代の中にあって、モーツァルトの才能はとび抜けていたことは疑う余地がありません。
モーツァルトも例にもれずロココ調のスタイルで作曲しており、ともすれば優雅で気品あふれる音楽をつくった作曲家と思われがちです。もちろん、優雅さは彼の持ち味の一つかもしれませんが、彼の魅力がそのようなところにあるのではないことは明らかでしょう。
むしろ、モーツァルトの真価はそのようなエレガントな情緒の奥に潜む心の真実であったり、微笑みの裏に隠された涙であったり……痛切に心を抉るメッセージの輝きなのですよね……。それは一見明るく響く交響曲第36番「リンツ」、第38番「プラハ」、ピアノ協奏曲第22番K482、フルートとハープのための協奏曲……等も同様なのです。
明朗でエレガントな魅力に満ちた作品
モーツァルトのピアノソナタk333は前述のようにロココ調の流れを汲む代表的な作品の一つだと思います。
規模が大きいだけでなく、明朗で親しみやすく、それでいてエレガントな曲調がたまらない魅力の作品です。様々なパッセージの転調や分散和音の進行があるにもかかわらず、音楽そのものに破綻が生じない天性の感覚、構成の見事さも挙げなくてはならないかもしれません。
そして、忘れてはならないのが鼻歌を口ずさむように奏でられる大らかで豊かな愛の旋律でしょう。このことがK333を何倍にも魅力的にしていると言ってもいいと思います。第一楽章と第三楽章のひとなつっこく語りかける親しみやすい口調…。決して深刻に人生を捉えているようには思えない曲の雰囲気なのですが、よく耳を傾け心を無心にして聴くと無邪気で美しい表情が次々と浮かび上がってきます! 第2楽章の夢見るような美しい旋律も深い余韻を残してくれます。
圧倒的な素晴らしさ。クラウスの名盤
演奏はリリー・クラウスのステレオ録音(CBS)が圧倒的な素晴らしさです!この曲を軟弱に弾いてしまうと曲の魅力が半減してしまうのですが、クラウスにはそういう心配はまったくありません。よく引き締まった造型と自信に満ちたタッチ、感性豊かな音色にたちまち引き込まれます。1956年のモノーラル(EMI)も素晴らしく、クラウスがこの曲と抜群に相性がよかったことを改めて実感させてくれるのです!
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