2012年12月3日月曜日

シューマン 交響曲第1番変ロ長調作品38「春」





 人生で最も幸福な時期に書かれた作品が不朽の名作を生み出すということは昔からよく言われていることです。やはり希望や喜びの想いが創造のエネルギーを奮い立たせる力となるからなのでしょうか? 
 ロマン派の大家、ロベルト・シューマンの交響曲第1番「春」の場合もそれに当てはまると考えていいでしょう。特に1840年は彼にとって歌の年と言われるように、『詩人の恋』、『リーダークライス』、『女の愛と生涯』と続々と歌曲の名曲を生み出したのです。この年はクララ・ヴィークと結婚した年でもあり、公私ともに充実し幸福の絶頂期だったのでした。前記の歌曲集がロマンティズムの昇華と言えるような甘く麗しい作風であることからも、それがよく伝わってきますね!

 そして、その余韻が醒めやらぬ1841年に作曲されたのがシューマンの最初の交響曲第1番「春」なのです。シューマンはロマン派を代表する交響曲の作曲家なのですが、ともすればピアノ曲や歌曲ばかりに目が向けられやすい傾向があります。「シューマンの最高の魅力作は歌曲集」と定説のように言われる中で、ある意味仕方のないことなのですが、交響曲作曲家としての力量も相当なものであったことは間違いありません。

 シューマンの交響曲第1番「春」はきりりとした古典派の体裁を持っています。その古典的なスタイルに清涼なロマンティズムが色濃く流れ、独特のオリジナリティを醸し出しているのです。この作品は「春」とタイトルがあるように、早春のロマンの香り漂う情緒がとても印象的です。
 ドイツ的な剛毅さや前進する迫力を持つ作品ですが、それよりも明るい楽器の響きや色彩豊かなハーモニーがワクワクするような楽しさを伝えてくれるでしょう。

 金管楽器のファンファーレで開始される第1楽章の序奏部分は大きなうねりを伴いながらどんどん発展していきます。そして音楽のピークで現れる第1主題は強いエネルギーを放射するリズムの祭典のようです! そこから響き渡る楽器の音色はさまざまな春の風物詩を表出しているかのようにも思えます。

 第2楽章の響きは薄明かりの春の日の余韻を思い起こさせ、ぐっと心に残ります。第3楽章や第4楽章の希望にあふれたエネルギーは次々と主題の装いを変え発展しながら歓喜のフィナーレを迎えます!
 この作品の最大の魅力はスケールが大きく立派な造型を誇っているにもかかわらず、決して深刻になったり難しさが無いところでしょう。終始滞ることなくグイグイと前進する爽やかなエネルギーに溢れていることが大きな魅力なのだと思います。

 おすすめのCDは格調高くロマン派的な情緒を表出する指揮をしたら右に出る者がないクレンペラー盤(EMI)が最高です! この演奏はもしかしたら彼がフィルハーモ二ア管弦楽団を振った演奏の中でも屈指の名演奏かもしれません。第1楽章の微塵も薄っぺらなところがない立体感と深さを併せ持った迫力! 第4楽章の輪郭をくっきりとさせつつ一切表面的にならない凄み! まさに有無をも言わせない素晴らしい演奏を繰り広げています。