メロディメーカーの本領を発揮した交響曲
チャイコフスキーは不世出のメロディメーカーとして、管弦楽曲、バレエ組曲だけでなく、交響曲においても甘美なメロディを駆使した作曲家として有名です。
チャイコフスキーの交響曲と言えば真っ先に思い浮かぶのが第6番の「悲愴」です。とにかく第1楽章から第4楽章まで隙がなく、曲はフィナーレに向かって深い哀しみに沈んでいくのですが、スコアが細部に至るまでよく書かれているため不自然さを微塵も感じません。作曲家自身が最晩年に到達した円熟味と芸格の高さを表している傑作中の傑作と言われる所以でしょう。
それに比べると第4番は若干の物足りなさがないわけでもありません。第1楽章の慟哭に満ちた響きや格調高い展開が素晴らしく、第2楽章は民謡調の哀愁を帯びたメロディが美しく印象に残ります。しかしそれを受ける第3、第4楽章がいただけません……。あまりにもあっさりしていて2楽章を無理矢理くっつけたようでどうにも満足できないのですね!?
そして第5番です。この作品はもしかしたら聴きやすさにおいては「悲愴」より上かもしれません。美しいメロディも随所にあり、その点ではチャイコフスキーの本領発揮と言いたいところですが、作品として今一つ結晶化されていない印象を受けます。実際、意外と心に残らないのですね……残念ながら。そのような状況からして、5番はチャイコフスキーの三大交響曲の中では聴きやすく飽きやすい作品(?)と言っていいかもしれません。
しかし、そうは言ってもベートーヴェンの交響曲やモーツァルトの後期交響曲、ブルックナーの5番以降の交響曲、ショスタコーヴィチの交響曲あたりと比べなければ充分に管弦楽の響きの素晴らしさやメロディの美しさを堪能できる名曲だと思います。
特に第1楽章で鳴り響く運命のリズムとそれを払いのけるようなメロディは様々な感情を表出しており見事です!第2楽章のホルンが奏でる優しく美しい第1主題。第3楽章の愛らしく可憐なワルツ。そして手が混んでいて壮麗な第4楽章フィナーレ!こうしてみると交響曲の王道を行く傑作と言っても決して過言ではないと思います!
チェリビダッケの新鮮な名演!
この曲のベストとしてお勧めしたいCDはチェリビダッケ指揮ミュンヘンフィルによる録音(EMI)です。1991年のライブ録音ですが、音は素晴らしいしチャイコフスキーが書いたスコアの意味をとことんまで追求した演奏です!とにかく、ゆったりとしたテンポから紡ぎ出される重厚な音の響きと細部まで目に見えるほど彫琢されたハーモニーは素晴らしいの一言です!時としてブルックナーを感じさせたりするのですが、それも決して嫌味にならず、逆にこの曲を構成していく上で大きなプラスに作用しているのです。
特に第2楽章のホルンの瞑想のような深い響きや第4楽章のスケール雄大な造型と壮大なクライマックスを築き上げていく腰の座った表現は最高です。
悲愴と第4で圧倒的な名演奏を成し遂げているムラヴィンスキーですが、この曲に関しても真っ向勝負のダイナミックな演奏で攻めています。第1楽章の展開部や第2楽章の序奏で聴かれる詩情はやはり素晴らしく、他の指揮者では聴けない表現でしょう! ただ第4楽章あたりはムラヴィンスキーをもってしても、音楽を持て余しぎみという感じがしないでもありません。
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