2013年10月22日火曜日

ショパン ピアノソナタ第3番ロ短調 作品58













ショパンの魅力満載の作品

 「ショパンのピアノ曲で一番魅力的な曲って何?」という声をたまに耳にします。これはなかなか難しい質問ですね……。小犬のワルツや英雄ポロネーズ、夜想曲第3番、革命エチュード……。とショパンの有名曲は枚挙にいとまがないくらいですが、上記の諸曲もすべて各作品集のいいところどりで作品としてまとまったものではないし……。
 
 でもいろいろ考えると、ショパンの魅力満載の作品がありました! それがピアノソナタ第3番です。ピアノソナタ第3番は美しいメロディや詩情、流麗なパッセージ、情熱的なパッション等、ショパンらしさが最良の形で表現された傑作なのです。「ワルツ、バラードは少々短いし、エチュードは結構難解だし、ピアノ協奏曲はロマンチック過ぎるし……」と思われている方、ご安心ください!ピアノソナタ第3番にはショパンのすべてがあると言っても決して過言ではありません。
 特に第1楽章の颯爽とした主題の提示や第四楽章の情熱の煌めきは、これぞショパンというにふさわしい聴き応え充分の音楽といっていいでしょう。

 第1楽章の主題の提示は彼の他のどの曲よりも決然として堂々とした足どりで音楽が開始されます。微動だにしないテンポとリズム、強い主張を持った第1主題は雄大なスケールを伴いドラマティックな展開がなされていきます! 続く第2主題は優美で叙情的な旋律が音楽にさらに豊かな彩りを添えます。その後も次々とあふれ出る楽想と刻一刻と表情を変える経過句が即興的な閃きの中で炸裂していくのです! 

 第2楽章スケルツォは短い音楽ですが、ここにはショパンの驚くべき才能が結集されていると言っていいでしょう。華麗でイマージネーション豊かな調べはそれだけで身体が自然と動き出しそうですし、それに続く瞑想のような中間部の転調も見事です。
 
 第3楽章は特徴のない音楽に聴こえるかもしれませんが、美しい記憶に想いを馳せるように奏でられるノクターン調の音楽がとても印象的です。透明感のある詩情がまるで移りゆく心の風景を奏でていくようで、何とも言えない余情が伝わってくるのです……。
 
 第4楽章はこの才気あふれるピアノソナタを終結するのにふさわしい音楽と言っていいでしょう。ヴィルトゥオーゾ的な華麗なテクニックや即興的な曲の構成は聴く者を興奮のるつぼに誘っていきます!まさにピアニスト冥利に尽きる最高の音楽と言えるかもしれません!

 演奏でまず選ばれるべきは、アルゲリッチ盤でしょう! これはショパンコンクールで優勝した年からまだ日が浅い1967年にグラモフォンに録音された演奏です。即興的な閃きが素晴らしく、デリカシーにみちた表情や流れるように息づく音楽の生命力が聴く者をとりこにしてしまいます。
 これに対してアシュケナージのピアノ(DECCA)は正統的かつ誰にでもその良さが伝わるようなスタンダードな名演奏と言っていいでしょう! 第1楽章のドラマチックな展開も急がず慌てず、じっくりと自分の音楽を奏でているところがいいですね。みずみずしい水晶のようなタッチはこの曲にピッタリで、奥に潜む美しさと情熱を存分に引き出しています!