2012年9月28日金曜日

ヘンデル 合奏協奏曲集作品6-2(5番-8番)



【合奏協奏曲 第5番 ニ長調 HWV323
 合奏曲集の中では最もヘンデルらしい男性的な迫力を持ち、旋律も親しみやすく覚えやすい曲でしょう。 第1楽章の出だしは弦楽器をファンファーレの合図に見立てて構成されています。この開始によって広々とした土壌が音楽に築かれていることを感じるのではないでしょうか。
フーガの立体的な迫力と爽快感も格別ですね!舞踊風のリズムをテーマにした第3楽章プレストも、ご機嫌な第5楽章アレグロもヘンデル特有の含蓄のある親しみやすさと愛嬌で忘れ難い印象を残してくれるのです! メヌエットはシンプルですが、気品に満ちた印象的な音楽でフィナーレを美しく飾ります。

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karl Richter



(演奏) カール・リヒターの演奏は今でもこの作品の名盤として多くの人に愛聴されています。リヒターの演奏の魅力は強靱な通奏低音の充実や男性的なダイナミズムがまずあげられると思います。しかも曲に取り組む姿勢が一貫して真摯でどこまでも求道的なのです。この曲が持つ格調の高さやヘンデルの求めている精神性には一番近いかもしれません。

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【合奏協奏曲 第6番 ト短調 HWV.324】
 終始厳しく、孤独に沈む魂の安住の地を求めるかのような名曲です。
 第1楽章や第2楽章で耳にする心の葛藤を表す不協和音はベートーヴェンの交響曲の提示部を想い起こさせ、その意味深い旋律は心に突き刺さります! バロックを超えた前衛的な旋律がとても印象的ですね…。しかし、ミュゼットのスケール雄大で荘厳な響きはこの曲の暗い影を振り払ってくれるのです。ここではヘンデルの真摯な魂と懐の深い音楽性が真骨頂を示しており、視界が開け、光が差し込んでくるような感動的な情景が綴られていくのです。


(演奏)ヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団の演奏は素晴らしいのひとことです。特に合奏部分にファゴット等の管楽器の響きをブレンドして、色彩感や実在感に富む音色を生み出しているのには驚かされます!ミュゼットの落ち着き払った深い呼吸…。どこにも軽薄な響きはなくこの作品の魅力をたっぷりと味わえます。

 リヒター盤は厳しい造形と響きをモットーにした演奏で、中でもミュゼットの雄大なスケール感は見事です。ただあまりにも力が入りすぎてしまい、美しさを失っているところが見られるのが少々残念です。

August Wenzinger(Board Highlights LP)



Karl Richter


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【合奏協奏曲 第7番 変ロ長調 HWV.325】
 第1楽章は爽やかな朝の始まりとその感謝なのでしょうか……。最初の麗しい響きに思わず引き込まれます。そしてすぐさま、お茶目で可愛らしい第2楽章に引き継がれるのです。この愛らしい音楽は無邪気で機知に富んでおり、第3楽章以降に重要な橋渡しをするのです。第3楽章のアダージョは前楽章が生気に満ちていたためによけいに一抹の寂しさや哀しみが強く胸に染みますね…。
 第4楽章ラルゲット、第5楽章アレグロはこの作品の白眉です!特にアレグロは無窮動のようなリズムをテーマとして喜びや哀しみを包み込んでいくような強いメッセージがあるのです!


(演奏)やはりヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団の演奏を挙げないわけにはいきません。第1楽章の深い響きにまず引き込まれ、その後に展開する様々なエピソードは終始微笑ましく愛情を持って演奏されています。


August Wenzinger(Board Highlights LP)

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【合奏協奏曲 第8番 ハ短調 HWV.326】
 曲調は深い憂愁に彩られたかなり渋い作品なのですが、聴けば聴くほどに味わいが増す傑作です。全体として良質の弦楽四重奏や崇高なエレジーを聴くような趣きがあります。
第2楽章で心の闇を痛烈に吐露するあたりはヘンデルとしても異例で、この先どうなってしまうのかと心配になってしまいます……。
 その後、曲はますます深みを増し、この作品でヘンデルが伝えたかったのは鎮魂の想いや生きとし生けるものの哀しみだったのだろうか……。と思えてくるのですね。
 作品の中で特に印象的なのは気持ちの高まりや胸の鼓動を伝えるような第3楽章アレグロ。 絶望の淵に立ち、悲しみに打ちひしがれながらも決して希望や微笑みを捨てない第4楽章のシチリアーノあたりになるのではないでしょうか。




(演奏)まずヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団を挙げたいと思います。安心して聴ける丁寧で本質をしっかりと捉えた演奏、柔らかい響き、自然な音楽の流れ。どれをとっても最高ではないでしょうか。
 リヒターの演奏も鋭く本質を捉えた演奏です。 特にシチリアーノはヴァイオリンのソロや合奏すべてにおいて著しく内面の湧き上がる想いを表現したもので、8番の録音において欠かせない名盤です。

August Wenzinger(Board Highlights LP)





Karl Richter


2012年9月23日日曜日

ヘンデル 合奏協奏曲集作品6-1(1番-4番)







合奏協奏曲作品6 第1番~第4番(HWV.319-HWV.322)




【合奏協奏曲 第1番 ト長調 HWV.319】
 合奏協奏曲作品6を象徴するような作品で、堅苦しさのない爽やかな曲調が印象的です。バッハのブランデンブルク協奏曲第1番の開始と比べると、そのあまりの違いに驚かれるかもしれません。空気のように軽やかで、エネルギーにあふれ自由で多彩なヘンデルの音楽! この1番でも春の到来を想わせるような希望に満ちた弦楽器のパッセージがとても新鮮です。

 第1楽章は短いけれどもはっとするような懐かしさとデリカシーがあります。聴き進むうちに何かが始まるような予感と爽やかな抒情に次第に心が引きつけられのではないでしょうか。
 第2楽章ではさらに広々とした希望の出発のようなテーマが繰り広げられます。第3楽章のアダージョは心の内面を見つめるようなヴァイオリンの音色が印象的。第4楽章のアレグロはこの作品の核心の部分で、自由なフーガによる決然とした曲調が希望や喜び、憧れの想いを更に膨らませていきます。それを受けるフィナーレのジーグも晴朗で快活なメロディが曲を大いに盛り上げていきます!


Orpheus Chamber Orchestra



 (演奏) オルフェウス室内管弦楽団の演奏は指揮者を置かず、各奏者の自発的な感性によって生み出されたものです。この1番はそのような個々のオリジナリティがプラスに出た結果と言えるでしょう。弦楽器の透明感を漂わせた美しさ。モダン楽器なのに野暮ったくならない卓越した音楽性等、本当に素晴らしいです。特に第3楽章アダージョの中間部でソロの弦楽器が歌い交わす美しさは恍惚としたひとときを約束してくれます。

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【合奏協奏曲 第2番 ヘ長調 HWV.320】
 第2番は自然への感謝がテーマになっているとよく言われます。たとえば、第1楽章のみずみずしい楽曲は爽やかな風、穏やかな光を想わせ清々しい余韻を残します。第2楽章のアレグロもシンプルな曲の構成と可愛いらしい主題の進行に胸が高鳴っていきます。
 そして短いけれども曲の核心と言えるのが第3楽章のラルゴ!
 何度も立ち止まり、自然のささやきを聴き入るようなソロヴァイオリンとオーケストラのやりとり! 中間部からは雨上がりの草木が光を浴びて輝きを放つような情感が続きます。ここは何回聴いても素晴らしいですね! まるで自分が瞑想し自然と語りあっているような錯覚に捉われたりもします。
 このチャーミングなラルゴのあと、フィナーレのフーガヘと続きます。このフーガは自然賛歌を締めくくるにふさわしい、宇宙的な意思に貫かれた名旋律と言えるのではないでしょうか。

B. Neel String Orchestra


(演奏)2番はボイド・ニール指揮ニール弦楽合奏団の演奏(1950年盤)が最高です。 ニールはこの作品をとても大切にしているようで1938年盤の演奏も素晴らしい出来ばえでした。情感豊かな演奏で繊細な表情を見事に捉えています。特にラルゴの魅力は筆舌に尽くし難く、ちょっとした気分の変化に敏感に反応し入魂の名演奏を成し遂げています。

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【合奏協奏曲 第3番 ホ短調 HWV.321】
  深い森を想わせる幽玄な響きが印象的です。
 第1楽章序奏で憂いを帯びたもの悲しい弦の調べが回想のシーンのように映し出され、曲の全体的なイメージを彷彿とさせます。
しかし、この曲で最も印象的なのは第3楽章ポロネーズでしょう。 舞踊風の独特のリズムとテーマはそれまでの鬱積した気分を一掃させるような愉しさと生命のエネルギーに満ちているのです。最高に上機嫌で屈託のない笑い声が聴こえてきそうな音楽が何とも心地いいです!

August Wenzinger(Board Highlights LP)


(演奏) LP時代の最高の名盤、アウグスト・ヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルーム管弦楽団の名演奏が未だにCD化されてないのは本当に不思議です。CDが発売されることを首を長くして待っているのですが、現在の状況では今後も期待できそうにありません。このままこの録音が時間の流れと共に忘れ去られなければいいのですが……。演奏はどこまでも優雅で滋味あふれる響きがとても心地よく、3番の本質を堪能できます。
 とりあえずCDジャケットはないものの、LPのハイライト盤の画像のみ掲載させていただきます。

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【合奏協奏曲 第4番 ホ短調 HWV.322】
この作品は合奏協奏曲の中で最も芸術的な香り高い作品ではないでしょうか! とにかく各曲が有機的な関係を保ち、ギリシャ彫刻のように高い次元で結晶化されています!つまり、 全4曲がめくるめく感動と驚きの中であっという間に終ってしまうような感じがするのです……。
 第1楽章の美しく澄み切った旋律は崇高な哀しみがひたひたと伝わってきます! さらに第2楽章では目の覚めるような厳しいフーガがとめどなく打ち寄せる波のように展開され、聴く者の心を圧倒します。
 そのような厳しい2つの楽章を受けるのが優美な第3楽章のラルゴです!特別な主題は持ちませんが、天上から降りそそがれる光のヴェールのように、優しく深い充足感を与えてくれることでしょう!第4楽章も誇張された表情はありませんが、その強靭な足どりと安定した曲調は最高です。

August Wenzinger(Board Highlights LP)

Orpheus Chamber Orchestra



(演奏)ヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム管弦楽団はテンポの設定や間の取り方が絶妙で、ストレートにこの作品の美しさや本質を実感できます。特別なことは何もしていないはずなのに音楽から風格や透明な詩情が漂ってくるのです。

 オルフェウス室内管弦楽団の演奏はヴェンツインガー盤に比べるとやや線が細い感じがしないでもありませんが、磨き抜かれたアンサンブルの精緻さが最高に発揮されています。第1楽章の祈りに満ちた表情、第2楽章の雄弁で直線的なフーガは素晴らしく、第3楽章ラルゴの透明感漂う夢のような情緒も素晴らしいです!