ほっとひと息つけるような
癒しと空気感
以前の投稿でご紹介したセザンヌやマネのような個性が際立つ絵と比べると、実に分かりやすく、感性にストーレートに響く魅力的な絵がこれではないでしょうか……。
今回のオルセー美術館展に出品されており、「どこがどう」といった明確なポイントをなかなか指摘しにくい絵なのですが、個性を主張する絵が多い中で、ほっとひと息つけるような癒しと空気感が伝わってくる絵なのです。
ご覧の通り、絵から伝わってくるモチーフ(ルーブシェンヌの風景)への愛情は並々ならないものがあるように思われます。シスレー自身、このルーブシェンヌへの愛着はかなり強かったようで、この地を描いた作品が、同名の傑作をはじめとして数多く残されています。
何よりも絵を職業として描いているという気負いや切迫感がなく、絵が好きで好きでたまらないといういい意味でのアマチュア感覚を持っていることが、この人の持ち味なのではないでしょうか。イギリスの裕福な貿易商の息子として生まれ、穏やかな性格だった彼は生涯にわたってフランス各地の風景画を主要テーマとして描き続けたのですが、その品の良さや繊細さは絵にもよく表れていますね……。
パリで印象派が消滅し、20世紀初頭に色彩、タッチ、感情表現において非常に個性の強い絵を描くユトリロやモディリアーニ、ブラマンクといった巨匠たちが登場します。彼らの絵は素晴らしいけれども、いつも観たいという気持ちには正直なれません。特に気持ちが沈んでいるときはそうですね……。
それに対しシスレーの絵は面白みがないとかあまりにも没個性とか言われそうなのですが、いつ観ても絵に素直に向かわせてくれ、絵を味わう原点に立ち返らせてくれるような気がするのです。
この「ルーブシェンヌの道」も爽やかな光と穏やかな情景がとても魅力的に描かれています。明るくかつ繊細なタッチが何と心地よい余韻を届けてくれることでしょうか……。