2011年4月20日水曜日

メンデルスゾーン 序曲・フィンガルの洞窟







 メンデルスゾーンは作曲家としてだけでなく、水彩画やスケッチの力量も相当なものでした。ですから、彼は色彩的な描写やメルヘン的な要素が強い音楽はめっぽう相性が良かったのかもしれません。
 そのような彼の特性が最高に発揮されたのが「フィンガルの洞窟」序曲です。タイトルからもお分かりいただけるように、この作品はスコットランドにあるフィンガルの洞窟(ヘブリディーズ諸島の無人島にある)を題材にした音楽なのです。メンデルスゾーンはこの洞窟の神秘的な出で立ちや様子を見て、痛く感動したらしく、創作の大きなヒントを得たそうです。
 この作品は音のスケッチといっていいかもしれません。即興的かつ神秘的であり、生き生きとした楽想に満ちあふれ、停滞することなく音楽が流れていきます。
 わずか9分ほどの作品ですが、一度聴くとその音楽のもつ独特の魅力に惹きつけられることでしょう。実際、この作品が発表された後、その作品の発想の源を探るべく、多くの芸術家、文化人が当地を訪れたといいます。

 ほの暗い主題の導入部が始まると、独特の情緒と繊細緻密な表現で次々と海に浮かぶ洞窟の辺りの情景を描き出していきます。岩肌に砕ける波しぶきや、磯の香り、飛び交う鳥の鳴き声の様子等が巧みな音色のバランスによって引き出され、絶妙な味わいを醸し出していくのです。
 曲はさらに進行し、静かななぎによる一時の静寂や休むことなく岩肌を洗う波をドラマティックに表していきます。そしてコーダではまた最初のほの暗い主題に戻って行くのです。楽器が奏でる音の響きは驚くほど雄弁で、まるでその場に立っているかのような不思議な感覚にとらわれるのです。
 ワーグナーはメンデルスゾーンの作品に対してことごとく否定的だったのですが、唯一この作品だけは例外的に絶賛しています。彼の言葉を借りると「一流の音の風景画」なのだそうです。このことから見ても、「フィンガル序曲」には好き嫌いを超えた芸術性が息づいているということなのでしょう!



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