2010年12月27日月曜日

ヘンデル オラトリオ「サウル」




Handel Oratorio Saul conducted by Jürgen Budday


Handel Oratorio Saul conducted by Rene Jacobs



劇的でスケールの大きい「サウル」

 ヘンデルという人は、不思議な人です。バロックからの伝統的な様式に立脚した作品を書いたかと思えば、古典派を飛び越え後のロマン派を想起させる劇的でスケールの大きい作品も書いたりしています。鍵盤楽器のためのクラヴィーアソナタ集が前者の代表とすれば、オラトリオ「サウル」は明らかに後者の代表と言えるでしょう。この作品は、旧約聖書「サムエル記」をテーマにした実に雄渾なオラトリオです。ベートーベンはヘンデルの作品をこよなく愛したといいますが、それというのも「サウル」のように自由闊達で強靭な音楽を好んでいたからなのでしょう!

 ヘンデルが「サウル」の作曲に取りかかった1738年頃は彼の生涯で最も脂の乗りきった時代でもありました。ヘンデルのオラトリオというと一般的にはメサイアだけしか知られていませんが、考えてみるとこれは本当に不思議な話ですよね。単に知名度の問題なのか、上演してどれだけ人が呼べるのか?という問題がつきまとうからなのか……。理由は定かではありませんが、とにかく演奏される機会が極端に少なかったという事なのでしょう。

 しかし今時代が移り変わり、これまでのクラシック音楽に飽き足らないファンはヘンデルのオペラやオラトリオに新鮮な魅力と味わいを発見するといいます。ヨーロッパでは公演のチケットの売上も上々で、新たな音楽ファンも獲得しているとも聞きます。日本の場合、ヘンデルのオペラやオラトリオ公演で採算をとるには大変な努力が必要なのかもしれませんが、是非とも定例化していってほしいですね!


ドラマティックな「サウル」のストーリー

 さて、「サウル」はヘンデルの最高傑作といってもさしつかえないほど音楽的にも内容的にも優れた作品です。簡単なあらすじは次のとおりです。サウルは神に遣わされたイスラエルの初代王でした。そこに平民の出でありながら勇敢で男らしく、戦争に出ると多大な手柄を立てる羊飼いの青年ダヴィデが現れます。ダヴィデは民衆にとってもはや英雄だったのでした。サウルはダヴィデを息子のように思い愛していましたが、神に愛され、民衆に支持され賞賛されるダヴィデに強い恐怖と嫉妬心を抱くようになります。
 サウルはアマレク人との戦いで神の言葉に反逆したため、預言者サムエルの信頼を失ってしまいます。サムエルは神の願いのもとにダヴィデを国王にすべく、彼に香油を注ぐのでした。

 その後、ペリシテ人との戦いで大勝利を収めたダヴィデにサウルは激しく嫉妬し、殺害を目論見ます。しかし、息子ヨナタンやダヴィデの妻となった娘ミカルの配慮でダヴィデは難を逃れます。行く末に不安を感じたサウルは神に願いを求めますが、神は彼に答えを与えることはありませんでした。
 そこでサウルはエンドルの巫女のもとを訪ね、死んだ預言者サムエルの霊を呼び出します。サムエルの霊が告げたものは、神はサウルを既に見放したというものでした。
 イスラエル軍はペリシテ人の軍勢に追いつめられ、サウルと息子のヨナタンは戦死します。それをミカルと姉メラブから聞いたダヴィデは親友の死を嘆くのでした。結局、最後まで神に従順であったダヴィデとダヴィデに嫉妬し神から離れ、ついには乱心してしまうサウルとの明暗が絶妙に描かれているのです。


聴きどころが満載

 音楽は全編聴きどころが満載です。特に素晴らしいのは冒頭の序曲に続いて演奏される約10分にも及ぶコーラスではないでしょうか。民衆の声を象徴する合唱とそれに絡んで、アリアや男声の三重唱、女声の三重唱等次々に変化に富み劇的な高揚感と共に一気に曲のクライマックスを築き上げていきます。
 要所要所で出てくる合唱も実に意味深く響きます。第2幕でサウルが理性を失い、自分を見失いつつある恐ろしさを歌う部分。イスラエルの民がダヴィデを讃えるフィナーレの部分等、目を見張るくらい聴き応えのある合唱が全体を盛り上げていきます。

 それぞれのアリアはもちろんのこと、間奏として挿入されるシンフォニアや管楽器のファンファーレ、行進曲なども「サウル」の世界観を形成するのに大きく貢献しています。竪琴を模したハープやカリオンも彩を添え、音楽を聴く醍醐味が随所に散りばめられている感じです。「サウル」の最大の魅力はちっぽけな人間感情の機微によって音楽自体に傷がつくことがまったくないことでしょう。これはヘンデルの音楽そのものの懐の深さを実証するものでもあります。


新譜が続々と登場!

 「サウル」は「メサイア」以外では最もレコーディングの多いオラトリオで、その人気ぶりが充分伺えます。このところ「サウル」は新譜が続々と発売され、おすすめの演奏も近年のものが中心になりました。
 特にユルゲン・ブッダイ指揮ハノーヴァー・ホーフカペレ、マウルブロン修道院室内合唱団は特別なことは何もしていないため、一度聴いた限りでは大変に地味な演奏に聴こえます。

しかし内容は濃く、ソリストたちの深い表現に驚かされます。マクリーシュ盤でもミカルを歌うアージェンタとダヴィデのチャンスの内省的な表現は特に忘れられません。この演奏はあくまでもミサ曲のような視点に基づいているようで、しみじみとした情感が印象的です。
合唱の立体的な響きも素晴らしいです。決して磨き抜かれたアンサンブルではありませんが、声に強い信念と主張があり、民衆の共鳴感や心の動きを捉えて感動を呼び起こします。ただし、全体的に楽器の響きや音楽の流れ、体裁があまりにもそっけなさすぎて物足りなく感じる場面も多々あるのが残念です。

 ルネ・ヤーコブス指揮コンチェルト・ケルン、RIAS室内合唱団他は最高のテクニックと劇的な表現に支えられた最高峰の演奏と言えるでしょう。個性的でデフォルメされたソリスト達の歌や、オペラのようにストーリー性のある表現は音楽にメリハリを与え快適な流れを生み出しています。しかも易々とハイレベルの音楽に仕上げてしまうコンチェルト・ケルンやRIAS室内合唱団の歌は圧倒的です。

 ポール・マクリーシュ指揮ガブリエルコンソート&プレイヤーズの場合は、どこをとっても不足のない、あらゆる面で最高にバランスのいい演奏です。ですから、これから本格的にサウルを聴こうという方には最も適した演奏かもしれません。ショルのダビデ、アージェンタのミカル、グリットンのメラブ等の歌手陣も素晴らしく、心理描写にも光るものがあります。音楽の流れも最高で全体的にスキのなの無い演奏と言えるでしょう。


ヘンデル「サウル」追加



2010年12月17日金曜日

METライヴィングビュー



新しいオペラの楽しみ方
映画館で観れるオペラシリーズ

今、日本をはじめ、世界中の映画館でニューヨークのメトロポリタン歌劇場がオペラの公演を上映する「METライヴィングビュー」というシリーズが続けられています。タイトルだけ聴くと「どうせDVDやホームシアターの延長、拡大版なんだろう」と思われる方もさぞかし多いのではと思います。しかしこのシリーズはライブには敵わないものの音質や映像の臨場感が素晴らしく、出演歌手の表情や感情移入が見事に伝わってくる等、貴重な映像体験となるに違いありません。これまでオペラはなかなか日本では上演されず、上演されたとしてもチケットがかなり高額で足踏みをしていた方も多かったことと思います。でもご安心ください。このライヴィングビューは気軽に映画館でオペラを楽しめるかなりいい方法かもしれません。ここでは2010年から2011年のシリーズの今後の予定をご紹介します。上映劇場、チケット料は下記のサイトでご確認ください。


Don Pasquale /Gaetano Donizetti The Metropolitan Oper 





【第4作】
ヴェルディ / ドン・カルロ(伊語5幕版・新演出)
上映期間|2011年1月8日(土)〜1月14日(金)
上映時間|4時間47分/休憩2回

【第5作】
プッチーニ / 西部の娘
上映期間|2011年1月29日(土)〜2月4日(金)
上映時間|3時間36分/休憩2回

【第6作】
アダムズ / ニクソン・イン・チャイナ(MET初演)
上映期間|2011年2月26日(土)〜3月4日(金)
上映時間|3時間56分/休憩2回

【第7作】
グルック / タウリスのイフィゲニア
上映期間|2011年3月19日(土)〜3月25日(金)
上映時間|2時間47分/休憩1回

【第8作】
ドニゼッティ / ランメルモールのルチア
上映期間|2011年4月9日(土)〜4月15日(金)
上映時間|4時間4分/休憩2回

【第9作】
ロッシーニ / オリー伯爵(新演出)
上映期間|2011年5月7日(土)〜5月13日(金)
上映時間|3時間8分/休憩1回

【第10作】
R.シュトラウスニ / カプリッチョ
上映期間|2011年5月14日(土)〜5月19日(木)
上映時間|3時間11分/休憩なし

【第11作】
ヴェルディ / イル・トロヴァトーレ
上映期間|2011年5月28日(土)〜6月3日(金)
上映時間|3時間11分/休憩1回

【第12作】
ワーグナー / ニーベルングの指環 第1夜『ワルキューレ』(新演出)
上映期間|2011年6月11日(土)〜6月17日(金)
上映時間|5時間20分/休憩2回

※すべて日本語字幕付きです。
※キャストおよび作品、上映時間、スケジュールは余儀なく変更されることがございます。

MET ライブビューイング http://www.shochiku.co.jp/met/
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2010年12月15日水曜日

セザンヌ サント=ヴィクトール山と大きな松の木







普遍的な内面性を描き刻む芸術性

  セザンヌはキュービズムやフォービズムの画家達に大きな影響を与えたと言われています。ありのまま、見たままを描くのではなく、あくまでも見たものを自分の感性のフィルターに置き換えて、そこから形や色彩を再創造しているからでしょう……。
 こんなことを言ったら失礼かもしれませんが、セザンヌは決して上手な絵描きさんではないと思います。特に人物画は違和感がありますね……。何かカチッとした硬質な感じがつきまとって仕方ないのです。しかも決して美人でもないし、スタイルがいいわけでもないし、笑顔が魅力的なわけでもない……。

  それでも彼の絵は魅力的です。モチーフに内在する存在感や普遍的な内面性を描き刻む芸術性は素晴らしいと思います。セザンヌの場合、あらかじめ自然界や宇宙には見えない法則があって、そこから人間の目に映る視界はさまざまな法則や真理を鏡のように映し出していると捉えていたのではないのでしょうか。セザンヌが自分で再創造した描法や色彩は非常に新鮮で、絵画の世界に新しい可能性を切り開いたことは間違いありません。

 『サント=ヴィクトワール山と大きな松の木』は晩年の傑作です。とにかく、ありきたりのタッチや表情はここには一切ありません。モチーフに内在する生命力、エネルギーや詩情を丹念に注ぎ込み、自分流の翻訳で表現したこの作品は何度観ても飽きない魅力を持っています。

 水彩画のような趣を伝える色面のわずかな塗り残しの新鮮さ。画面全体を円を描くように覆う緑の調和と響き合いが織り成す空気感。そして木の枝を揺らす風や空気や光がさまざまなタッチで溶け込み、奥行きのある表情が生み出されているのです。自信と確信に満ちたタッチはさまざまな要素と共に画面の中で渾然一体となり、風格と気品すら感じさせるのです。

 もし、心にゆとりを持って純粋に素直にセザンヌの絵を観るならば、きっと多くのインスピレーションが与えられるのではないでしょうか。


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2010年12月8日水曜日

コレクション展示「なぜ、これが傑作なの?」


ユニークな視点!絵の面白さを再発見する展覧会










コレクション展示
「なぜ、これが傑作なの?」
2011年14日 火 | - 2011年416日 | 土 | 





 ブリヂストン美術館には、長い間、人々に愛されてきた作品があります。
 1980年、サザビーズのオークションで、パブロ・ピカソの《腕を組んですわるサルタンバンク》を当館が落札したとき、多くの人々が驚きと喜びの声をあげました。キュビスムの実験をひとまず終えたピカソが、イタリア旅行で得たインスピレーションをもとに始めた「新古典主義の時代」を代表する傑作です。圧倒的な力強さをもった線と色彩が、見るものの心をつかみます。この作品は、ピアニスト、ウラジミール・ホロヴィッツの居間を飾っていました。
 今回のコレクション展示では、このピカソ作品を含め、特に当館を代表する12点に焦点をあて、なぜ優れた作品だと考えられているのか、なぜ多くの人に愛されてきたのかをあらためてご紹介いたします。(ブリヂストン美術館HPより)


展示作品
◯ポール・セザンヌ帽子をかぶった自画像
藤島 武二|黒扇
パウル・クレー|島
エドゥアール・マネ|自画像
クロード・モネ|黄昏、ヴェネツィア
他多数展示

〒104-0031 東京都中央区京橋1-10-1ブリヂストンビル
TEL 03-5777-8600  
http://www.bridgestone-museum.gr.jp

2010年12月5日日曜日

ブルックナー 交響曲第8番ハ短調



ブルックナーを語る上で忘れてならない演奏
クナパーツブッシュの8番

  いよいよ本格的な冬が近づいて参りました。以前は、街のあちこちからクリスマスソングが聞こえてきたものですが、今年は不景気もあるのでしょうか、随分と静かです。私はこの季節が大好きです。なぜかというと1年で最も心が浄化され、新しい年を迎えるための心のけじめをつける時のような気がするからです。

  ずいぶん昔、凍てつくような寒い山道を歩いている時に自然の厳しさと気の遠くなるような偉容をひしひしと感じたものでした。その時、心の中を何度も去来したのがハンス・クナッパーツブッシュがミュンヘンフィルを指揮したブルックナーの交響曲第8番でした。
 クナッパーツブッシュの指揮姿を見ると頑固一徹で気風のいい下町の職人さんと重なって見えて仕方ありません。怒りっぽいけれども、人が良く気は優しい……。しかし反面、モノを見る目は確かで妥協を許さない腕が確かな職人さんというイメージが強く伝わってきます。その徹底的なクナッパーツブッシュのこだわりから生まれたのがこの途轍もない演奏だったのでしょう。
 この演奏はかねてから交響曲第8番を語る上では絶対に外すことのできない演奏として演奏家や音楽評論家の間では定説となっておりました。
  その演奏の価値は45年以上過ぎた今でも少しも色褪せておりません。クナッパーツブッシュはワーグナーを最高最大の作曲家として崇めておりましたが、この演奏はワーグナー指揮者としての見識と経験があらゆる意味でプラスに作用したのではないかと思います。


  何より驚かされるのはそのスローテンポです。このままだと曲が途中で止まってしまうのでは……。と余計な心配をしてしまうほどの極端な遅さです。しかし、クナッパーツブッシュの情熱と気迫はそんな些細な心配をあっさりとクリアーしてしまいます。とにかく全篇を通してこれほど楽器が雄弁な表情を発し、意味深さを獲得したことはなかったのではないでしょうか。その音色は人が発する失意や嘆きの声であったり、悲しみ、畏敬の念であるかのようです。
  冬の荒野をさまよい歩くような独特の響きと深い呼吸は知らず知らずのうちにクナッパーツブッシュが紡ぎだす崇高で劇的な世界に誘ってくれます。かなり個性的でデフォルメも相当なように思われます。しかし、この演奏が決して一人よがりにならないのは曲の本質を理解した真実な表現やスケルツォ中間部、第4楽章の展開部で見られる限りない優しさが聴く者の心をとらえて離さないからでしょう。クナッパーツブッシュは派手なパフォーマンスをしているのではありません。ただ、自分の心にひたすら忠実に再現した結果がこれ程までの演奏になっているのです。その証拠に曲に心酔しているにもかかわらず、あくまでも平静を装い客観的な演奏を貫いていることがますます圧倒的な迫力とスケールを獲得することにつながっているのです。





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2010年11月24日水曜日

アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然





  上野の国立西洋美術館で開催されているデューラーの版画・素描展に行ってきました。まず驚いたのはデューラーがキリストの受難を扱った書物のために何枚も描いた版画の完成度の高さです!それはまるで中世の頑固なまでに質を重視した職人気質を強く感じさせます。そして、ひたすら美に奉仕するプロテスタント精神を絵の世界で体現しているかのようにも思えます。モチーフに対してはある一定の距離を置いているようで、客観的な眼の確かさと知的なアプローチの鋭さは驚くほどです。
 レンブラントやエル・グレコがモチーフに完全に感情移入し、情緒的な精神美を引き出したイメージとは少々わけが違うようですね。
 レンブラントに比べるとデューラーの絵は装飾的で、あらかじめ設計図のように計算されたフォルムやディテールが印象的です。

  それぞれの版画は極めてクオリティが高いのですが、決して自分自身を表立って主張しない画風なのです。しかし生来は職人気質なのでしょう。ひたすら描出するなかで魂を震わせる雄弁な線の表情が自然と生み出され、有無をも言わせぬ存在感を獲得しているのです。
 受難の物語がこのように精度が高く、厳然と存在感みなぎる絵が要所要所に組み込まれたら、それだけでも充分に価値ある書物となることは間違いないでしょう。あくまでも職人気質としての偉大さとアカデミックな普遍性と異彩を放つ存在感とで今後も歴史に輝かしい名を刻むことは間違いないでしょう。


【アルブレヒト・デューラー版画・素描展
◯会期 2010年10月26日(木)〜2011年1月16日(日)
◯開園時間 午前10:30〜午後5:30(金曜日は午後8時まで)
◯休館日 月曜日(ただし、2011年1月3日・10日は閉館)
12月28日(火)~2011年1月1日(土)、1月4日(火)・11日(火)は休館)
※2011年は1月2日(日)から開館します。

◯入場料 一般850円(600円)、大学生450円(250円)
※ ( )内は20名以上の団体料金
※ 高校生以下および18歳未満の方は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるものをご提示ください。)
※ 心身に障害のある方及び付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)
※ 本展の観覧券で常設展示も併せてご覧いただけます。

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2010年11月19日金曜日

メンデルスゾーン 交響曲第3番イ短調『スコットランド』






音の風景画家メンデルスゾーンの面目躍如




 少しずつ朝晩の気温が下がり始めてきました。皆さん風邪など引かれていないでしょうか?ただ、秋は深まってきているはずなのに日差しの強さだけは相変わらずです。日中は暑くて汗ばむことも珍しくないですよね。通りの街路樹もあまり色づくことなく、「一体今の季節は何!?」と言いたくなってしまうような不思議な感覚にとらわれる昨今です。こんな時だからこそ、心にだけはあふれるような感性や希望の泉を持っていたいものですね……

 ところでメンデルスゾーンは自然から感じた抒情を大切にする作曲家でした。彼はフィンガルの洞窟序曲やイタリア交響曲等、目に見える情景を扱った作品が多いことは皆さんご存知でしょう。実際に彼自身、絵画の腕前はプロ並みだったようです。特に風景をテーマにした水彩画あたりは詩情豊かで、どこか憂いを帯びたキメの細かい画風が魅力的ですね。
 そんなメンデルスゾーンですから、陽光煌くイタリアよりも絶えず曇り空で寂寥感漂うスコットランドの方が彼のインスピレーションを刺激したのでしょう。実際に交響曲第3番「スコットランド」は音の風景画家メンデルスゾーンの面目躍如と言える出来映えで、ロマン派を代表する傑作に仕上がっています。
 しかしこれほど美しく哀愁に満ちたメロディを格調高く作りあげる才能は並大抵のものではないでしょう。途中10年余りの中断があったにもかかわらず、この作品が完成にこぎつけられたのはメンデルスゾーンのただならぬこだわりがあったからに違いありません。全4楽章とも変化に富んでいて、さまざまなヴァリエーションの中で生き生きとセンス満点にスコットランドの抒情が奏でられます。


 演奏は最近の演奏では残念ながらあまりいいものはありません。マーラーやブルックナーでは最近次々に素晴らしい演奏が現われてきましたが、スコットランド交響曲はなかなかいい録音に巡り会えません。結局はスローテンポで堂々と細部を謳い上げたクレンペラー盤をあげるしかないようです。 でも隅々まで磨き上げられた造形とよく歌われた弦の響き、管楽器の音色はやはり最高です。どんなにロマンティックなメロディでも、スローテンポを守り抜く彼の強いポリシーがこの作品の隠れた魅力を伝えてくれているのでしょう。


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2010年11月15日月曜日

エリアフ・インバル=都響 ブルックナー:交響曲第6番他



1129日 月 |  開演 7:00 PM  東京文化会館
1130日 | 火 |  開演 7:00 PM  サントリーホール
2010年11月 都響定期ABシリーズ

モーツァルト / ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調K.216 
ブルックナー / 交響曲第6番イ長調
指揮|エリアフ・インバル
ヴァイオリン|四方恭子
演奏|東京都交響楽団

東京都交響楽団 http://www.tmso.or.jp/index.php





   これは楽しみな演目です。そもそも、私がブルックナーの6番を聴くきっかけになったのはこの人の演奏からでした。フランクフルト放送交響楽団を振っての明晰で叙情性豊かな演奏はこの曲の素晴らしさをストレートに伝えてくれました。きっと当日も円熟した名演を披露してくださることでしょう。


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2010年11月9日火曜日

国立西洋美術館8





空と雲が織りなす絶妙な表情

 ブーダンという画家は日本ではあまり知られていません。しかしモネに描法を教授した人だけあって、光や空や空気感を描くことができた印象派の先駆けのような人だったのでしょう。
 国立西洋美術館の常設展でひっそりと佇むように展示されているブーダン作の「トルーヴィルの浜」はサイズも決して大きくなく、色彩、描法もどちらかと言えば地味な絵です。しかしメッセージ性の強い絵を見たあとでこの絵の周辺に来ると不思議とほっとします。

 この絵の主役は上部の大半の面積を占める空の表情です。スカッと晴れた青空ではありませんが、空と雲が織りなす絶妙な表情が実はこの絵に気持ちのいい空間を作っていることに気づかされます。空や雲に生命が吹き込まれ、全体の風通しも良くなり、さわやかな雰囲気がさりげなく作られているのです。
 そして構図の見事さも忘れてはならないでしょう。上空と海岸でくつろぐ人々を貫く水平線が非常に強い意味を持っています。この水平線の効果により、絵全体に静寂とやわらいだ雰囲気が生まれているのです。ですから海岸でくつろぐ人の数は多いけれど、芋を洗うように狭い、騒々しい感覚がまるでありません。それはまるで午後の心地よい憩いの時を演出しているように見え、この平和な時間がいつまでも続くようにさえ思えるのです。




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2010年11月8日月曜日

注目の第九コンサート


今年もあっという間に11月、そしてこれからのシーズンは年末にかけてすっかり日本の冬の風物詩として定着した感のあるベートーヴェンの第九演奏会があちこちで行われます。ここでは注目の第九コンサートをとりあげたいと思います。

1222日 水 |  開演 7:00 PM  NHKホール
ベートーヴェン「第9」演奏会

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学


1223日 木 |  開演 3:00 PM  NHKホール
ベートーヴェン「第9」演奏会

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学



1225日 土 |  開演 3:00 PM  NHKホール
ベートーヴェン「第9」演奏会 

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学
本公演はNHK厚生文化事業団主催のチャリティーコンサートです


1226日 日 |  開演 3:00 PM  NHKホール
ベートーヴェン「第9」演奏会

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学


1227日 月 |  開演 7:00 PM  サントリーホール
FUJITSU Presents N響「第九」 Special Concert

J.S.バッハ / カンタータ第29番「神よ、あなたに感謝をささげます」から 1曲、第2
ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125 「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学

1221日 | 火 |  開演 7:00 PM  日本武道館
SUZUKI Presents 夢の第九コンサート
in日本武道館

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|西本智実
ソプラノ|大岩千穂
アルト|竹本節子
テノール|小原啓楼
バリトン|宮本益光
オーケストラ|東京交響楽団

TOKYO FMは、第九を通して、感動と共感溢れるメモリアルコンサートを12月21日に開催します。
指揮者には、世界各国で活躍する西本智実さんを迎えます。
また、西本智実さんがTOKYO FMの番組で初心者の方にわかりやすく、丁寧にアドバイスを行いますので、
ラジオを聴けばどなたも気軽に合唱参加が可能となるドリーム企画です。アーティストの誰もが憧れる夢の会場、
日本武道館で一夜限りの最高のステージを共に実現しましょう!
■TOKYO FM 開局40周年記念プログラム
『SUZUKI presents 夢の第九コンサート in 日本武道館』

リスナーと共に平和への願いを込め謳いあげるこのコンサートを、
TOKYO FMで生中継!番組を通じて、あなたも日本武道館と共に
2010年を壮大な音楽で締めくくりませんか?
『SUZUKI presents 夢の第九コンサート in 日本武道館』は、
12月21日(火) 夕方7時から生放送!

東京FM「夢の第九コンサート」 http://www.tfm.co.jp/daiku/



1231日 金 |  開演 1:00 PM  東京文化会館大ホール
ベートーヴェンは凄い!全交響曲連続演奏会2010 






ベートーヴェン:交響曲第1番
ベートーヴェン:交響曲第2番
(休憩)
ベートーヴェン:交響曲第4番
ベートーヴェン:交響曲第3番
(休憩)
ベートーヴェン:交響曲第6番
ベートーヴェン:交響曲第5番
(休憩)
ベートーヴェン:交響曲第8番
ベートーヴェン:交響曲第7番
(休憩)
ベートーヴェン:交響曲第9番
指揮|ロリン・マゼール
ソプラノ|中丸三千繪
アルト|坂本朱
テノール|佐野成宏
バリトン|福島明也
合唱|晋友会合唱団
演奏|岩城宏之メモリアル・オーケストラ
(コンサートマスター:篠崎史紀)

料金
プラチナ:100,000 S:35,000 A:28,000 B:21,000 C:14,000 D:7,000(6月25日発売)

お問合せ メイ・コーポレーション 03-3584-1951





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