2018年5月16日水曜日

カントルーブ 『オーヴェルニュの歌』
















滲み出る心の想い

この作品集の魅力に気がついたのは比較的最近のことです…。もちろん全曲通して聴いたのも最近のことでした。
フランス中南部のオヴェールニュ地方で歌われてきた民謡に、ジョゼフ・カントループ(1879~1657、作曲家)が管弦楽をつけたのが「オヴェールニュの歌」です。

民謡がベースになっていることもあって、その味わいは素朴で温かみがあり、滲み出る心の想いが切々と綴られたまさに故郷の歌といっていいかもしれません……。カントループの凄いところは原曲で伴奏として使われていた笛やハーディ・ガーディのような民族楽器の味わいを生かしながら、色彩豊かで潤いのある音楽へ高めているところです。 故郷を知り尽くしたカントループだからこそ、優れた音楽的感性で古色蒼然とした民謡の数々を美しく普遍性のある音楽へと生まれ変わらせたといってもいいでしょう。

特に有名なのが「バイレロ」です。これは川を隔てて、羊飼いと娘のやりとりを綴った愛の歌なのですが、時間がゆっくりと流れていく風情が何とも言えません。自然の恵みの中でいつまでも身を任せたくなる旋律と伴奏、永遠の瞬間を映し出すような音楽の魅力はこのまま終わらないでほしいとさえ思えてきます……
その他、壮大な山々を見渡すように晴れやかに響くアントゥエノや軽快なリズムで口ずさむように展開されるブーレー等、それぞれの曲は実に変化に富んでいます。心が弾むときも、辛く悲しいときも、いつも寄り添ってくれる自然や人々の姿に、自分自身の想いを重ね合わせながら、心の日記を綴るように各曲が描かれているのです。


音楽の魅力が溢れる
ダヴラツ盤

ネタニア・ダヴラツ (ソプラノ)、ピエール・ド・ラ・ローシュ指揮&管弦楽団(VANGUARD)は半世紀以上前の録音になりますが、この作品初の全曲録音盤であり、今も決定版として推す人も少なくありません。
ダブラツの発声は凛として嫌味がありませんし、透明感あふれる優しい歌い方にはとことん癒やされるでしょう。また、時にユーモアを交えるなど表現の幅も広く、この作品の魅力を目一杯引き出してくれます。 特に「バイレロ」の子守唄のような愛おしさや優しさに満ちた歌が絶品ですね。しかもその表情にはどことなく憂いが漂い、深い味わいを醸し出してくれるのです。民族楽器と管弦楽の懐かしい響きや味わいも最高です!

アンナ・モッフォ(ソプラノ)、ストコフスキー指揮ロンドンフィル(RCA)の演奏は抜粋盤ですが、これはかなり演出を加えているとはいえ、純粋な声楽曲として捉えれば雰囲気豊かで洗練された名盤です。モッフォのどこまでも伸びる声質とヴィブラートを極力排したスケールの大きい表現は大自然の威容そのもので、特に「アントゥエノ 」の清々しい歌は襟を正されるような気がします。