穏やかな時間が流れるコルボのフォーレ・レクイエム
Ensemble Vocal de Lausanne |
ゴールデンウイークの風物詩としてすっかり定着した感があるラフォルジュルネオ・ジャポンですが、今年も東京・国際フォーラムの4日のプログラムに行ってきました!今回のお目当てはミシェル・コルボ指揮のシンフォニア・ヴァルソヴィアとローザンヌ声楽アンサンブルによるフォーレのレクイエムです。
コルボと言えばフォーレのレクイエムで何度も名演を披露してきた人ですが、日本にも何度か来日しレクイエムの名演奏を披露しています。演奏の中で何と言っても忘れられないのはエラートに録音した1972年のベルン交響楽団とサン=ピエール=オ=リアン・ドゥ・ビュール聖歌隊とによる清楚でたおやかな情感を打ち出した演奏でしょう。
当日魅せられたのは最初のデュリュフレの「グレゴリオ聖歌による4つのモテット」でした。この作品はCDで何度か聴いていますが、短いけれど心に響く名曲という印象があります。1曲目の「慈しみと愛あるところに」が始まった途端、まるで時間が止まったのでは……と錯覚するような至福の時間に満たされたのでした。
穏やかな表情と癒しの心に満ちたこの旋律が雑多な想いを静かに洗い流してくれるようです。癒しの響きとはまさにこのことをいうのでしょう。よく溶けあった柔らかなハーモニーがとても心地よく響きます! その後の曲も神秘的で至純なハーモニーに酔わされるばかりでした……。
メインのフォーレのレクイエムですが、この作品についてはもはや説明は不要でしょう。CDでよく聴き比べをするうちに随分とこの曲に対する審美眼が身についたように思います。
バリトンはジャン=リュック・ウォーブルですが、美声で音楽的センスのある人だと思います。しかし当日はあまり調子がよくなかったのか声の伸びや抑揚がもうひとつで、あまり心に響いてこなかったのが残念でした。おそらく1972年のフッテンロッハーの穏やかですべてを包み込むような味わい深い名唱と比べてしまうからなのでしょう……。
それに対しソプラノのシルヴィ・ヴェルメイユは澄んだ声が美しく、声に強い主張があるわけではないのですが、涼やかな風のようでこの曲にはぴったりでした。ローザンヌ声楽アンサンブルの歌声もこの曲を充分に知り尽くした安定感とメンバーひとりひとりが心を通わせた精緻でまろやかな響きが印象的でした。
コルボの指揮は衰えを知らず、アンサンブルの確かさや楽器からコクのある響きを引き出す音楽性は素晴らしいです。今後も宗教曲、声楽曲を中心に素晴らしい録音をドンドン出してほしいですね!