2012年8月9日木曜日

細田守 おおかみこどもの雨と雪



公式ポスター



 この映画は予告編で見る限り、ありきたりのアニメ映画なのかなと思い込んでいました……。ところが、実際に映画を見るとこれがなかなかいいのです。特にストーリーの展開や状況を伝えるのに必要不可欠な背景の描写が秀逸で、リアリティに富んでいるし、詩情があり空気感が漂っているのです。家具の質感や街中の雰囲気、夕焼けの美しさは驚くほどで、ディテールも一切抜かりがなく素晴らしい仕上がりになっています。秋の情景、冬の雪山等さりげなく描かれているのに詩情が流れ実に美しいのです。
 そして何よりも脚本・演出が素晴らしく、正直なところありきたりな実写の人間ドラマ(失礼!)を見るよりもはるかに感動しました!

  ストーリーは主人公〝花〟の通う大学のキャンパスで真面目な青年と出会うところから始まります。しかし、出会った彼の正体はなんと〝オオカミ〟だったのです。それでも〝花〟はそんなこと問題ないと言い結婚に踏み切ります。その後、雪や雨というまったく性格の違う二人の子宝に恵まれます。誰もが順風満帆かと思われた時に訪れた彼の突然の死……。そこから家族三人の苦闘の物語が始まります。

 特に印象に残るのは失意のどん底に叩きのめされながらも、健気に強く生きていく花の姿ですね。どんなに苦しくてもいつも前向きで、あるがままの状況を受け入れ、笑みを絶やさない花にはとても心を打たれます! 

 無邪気な二人の子供たちのキャラクターの描写も見事で、思わずわが子のように感情移入してしまいます。しかし成長に伴い、誰もが通過する心の痛みや挫折を味わい、そしてオオカミの血を受け継いだ運命に葛藤しながらもやがてそれぞれに自立していく様子を本当に繊細に等身大で描いていることに驚かされます。
 映画は様々なメッセージを届けてくれます。自然と人間の共存であったり、生きていくことの辛さや運命のいたずら……。いつしか悩み苦しみながらも決して運命に背を向けない姿に大切な何かを感じさせられるようになるのです。

 オオカミと人間の結婚というテーマがもしかしたらあまりにも荒唐無稽すぎて映画を見ることを躊躇している貴方…!?。しかしこの信じられないようなテーマも映画の本質を味わうという意味ではほんのファンタジー的要素くらいに考えたほうがいいのかもしれません!隅々にまで心憎いほどに気配りされたこの作品は年齢性別関係なく、どなたにもお勧めできる正統派の素晴らしいアニメ映画だと思います!