2012年7月6日金曜日

録音が優秀! EMI SACD signatureシリーズ





 最近クラシック音楽のCDは再発売ものが主流になりつつあります。
 ざっと思いつくだけでもグラモフォン ザ・ベスト1200シリーズとかEMIベスト名盤とかDENONクラシックSACDシリーズ等々……。たくさんありますね。この現象は新譜録音にいいものが減ってきたことや、ネット上の音楽ダウンロードサービスが本格化し全体的にCDの価格破壊が進行していること等が主な理由としてあげられるのではないかと思います。そこで各レーベルは昨今のめまぐるしい録音技術の進歩に伴い、過去のそれぞれ所有している名演奏をその都度改良を加えながら発売しているという事なのでしょう。

 これまでにリリースされた主なハイブリッド録音形式をあげてもたくさんあったような気がします。たとえばART形式であったり、DSD、xrcd、DIGITAL K2、xrcd2、SBM、HS2088、4D Audio、96kHz 24-bit、OIBP、HDCD等々…。 しかし宣伝の割には今一つピンとくるものがありませんでした。LPを聴いたあの頃の柔らかい音や感動は一体なんだったのだろうかとか、録音の優れた演奏を聴き過ぎたために感覚がおかしくなってしまったのだろうかとか思うことしきりです。
 自分自身の感性が鈍ってきたのか、はたまた感動のフィルターが貧弱になってしまったのかよくわからないのですが、ともかく音の芯が細いというのか情報量が少ないのでは……と思うことが多いのです。

しかし、最近出たEMIクラシックスのSACDシリーズ(輸入盤の2枚組がメイン)には正直驚きました。それはEMI SACD signatureシリーズです!これまで籠った音質でどうにも歯切れの悪い録音のイメージが先行していたEMI盤を根底から覆すような素晴らしいリマスタリングの出来の良さは想像以上です!
 たとえばシューリヒト=ウィーンフィルのブルックナーの第九の音の素晴らしさ!今まで弦楽器の霧のような響きに見え隠れするように聴こえてきた第一楽章の冒頭のホルンの音色がこれほどくっきりと存在感をもって響いたたことはないのではないでしょうか? とにかく楽器の響きが柔らかく溶け合い、しかも金管や弦楽器が合奏してもキンキンすることなく本当に豊かで芸術的な音で堪能させてくれます。聴いた感じではLPのいい音の状態に近いような気がします。

リマスターや再発売ものの録音状態は制作に携わったエンジニアやディレクターの芸術的な感性が出来栄えにとても大きく左右するような気がします。そういう意味でも絶対に音に妥協して欲しくないし、どこまでもこだわりを持った良い商品を世に送り出してほしいですネ!


2012年6月27日水曜日

ラヴェル クープランの墓













 この曲を初めて聴いたのは学生の頃でした。ラジオから流れてきた管弦楽曲版の演奏だったのですが、ファゴットやオーボエ等の管楽器の奏でる古風な美しさもさることながら、決して声高にならない中庸を得た落ち着いた味わいや抜群のセンスにすっかり参ってしまったのです。
 最初のプレリュードが流れた時から、いつのまにかこの曲の虜になっている自分に気づきました。まるで穏やかな風が樹々の枝葉を揺らし、爽やかな光が古き良き時代の城壁を照らすかのような何とも言えない温もり感やさりげない曲の佇まいが印象に残ったものです。
 その時確信しました!「クープランの墓」はラヴェルの数々の管弦楽曲の中でも心地いい楽器の表情や抜群のニュアンスを持った稀に見る傑作だということを‥…。

 この曲にはピアノの原曲があり、そちらのほうには管弦楽曲にはないトッカータを含む2曲があり、特にトッカータはとんでもない名曲であることは後で知ったのでした…。そもそも、「クープランの墓」というタイトルは18世紀のフランスの大作曲家クープランを偲んで作られた作品ではなく、第一次世界大戦で戦火に散った友人たちの想い出に寄せて作られた組曲なのです。ではなぜ「クープランの墓」というタイトルがついたのかと言えば、この頃のラヴェルは18世紀前後の古典的なフランスの大家たちの音楽様式に回帰しつつ作曲をしたので、そこから18世紀のフランスの大家=クープランという名前が浮上したのです。

「クープランの墓」というタイトルからすればほとんどの人がしんみりしたイメージを想い浮かべるのでしょうが、この曲にはそのような固定観念が通用しません。「クープランの墓」は鎮魂歌というよりは自由な形式でさまざまなヴァリエーションや楽想が凝縮されているのです!とはいうものの「ラ・ヴァルス」や「スペイン狂詩曲」のような強烈な色彩感はありません。もちろんラヴェルならではの透明感や色彩感もしっかり備わっているのですが、それが決して表に出ることはないのです。変幻自在でありながらも静かなリリシズムを湛えたニュアンスや一貫した古典回帰の響きが、この作品にある種の風格をもたらしているのです!

 最初のプレリュードの装飾音は明らかにフランスバロックの時代の音楽技法を踏襲しており、確かにこのタイトルはそれにふさわしいようにも思われます。続くフーガやそれ以降の組曲も内容はラヴェル以外のなにものでもなく、楽器の表情といいバランスといい雰囲気豊かで色彩豊かなそれぞれの楽曲は真にインスピレーションに満ち溢れているのです!

 ところで、管弦楽曲版はピアノ原曲にあるフーガとトッカータの2曲が省かれています。さまざまな諸説がありますが、トッカータに関してはピアノでさえ超絶的な技巧を要するこの曲を再現するには限界があるだろうというラヴェルの見識なのかもしれません。

 このトッカータは故人を偲ぶ曲としてはあまりにも威勢が良すぎるとか、強烈すぎると想われる方もいらっしゃることでしょう! しかし、逆にラヴェルの構成力の凄さや本当の意味での秀でた感性と才能を改めて痛感させるフィナーレにもなったのです。
 とにかく、とめどなく溢れる音のエネルギーと弾けるようなリズムの突進力は圧倒的な高揚感と感動を与えてくれます!弾き進むにつれて16分音符の何気ない連打はみるみるうちにまばゆい光を発しながら大地に強く根ざした強固な音楽へと変貌していくことに気づかされるのです!ラヴェルは最後のトッカータで光が燦燦と輝くような充溢した生命力を謳歌することでこの曲を限りない前進や発展の象徴として閉じたかったのではないのでしょうか…。

 この曲に関してはピアノ版と管弦楽曲版の二つから推薦盤を挙げたいと思います。ピアノではまずモニク・アースが録音したエラート盤がおすすめです。全曲過不足無く、しかも曲の魅力を奇を衒わず、気品漂う演奏に仕上げていることに大変好感が持てます。これから「クープランの墓」を聴いていきたいという方には最適な演奏かも知れません。
 これに対してエリック・ハイドシェック盤は抜群の音楽性とダイナミズムで一気に駆け抜ける演奏です。しかし、よく聴くと一音一音に無限のニュアンスが込められており、その抜群のセンスに驚かされます。この演奏は何と言ってもトッカータの凄さに尽きるでしょう。まるでライブで弾いているかのような熱気溢れる緊張感と即興性は聴く者の心を捉えて離しません!トッカータを聴くだけでも充分に価値ある演奏と言っていいでしょう。

 管弦楽曲版はシャルル・デュトワ=モントリオール交響楽団のデッカ盤が大変に美しく、楽器の柔らかな表情やコクのある響きが心地よい雰囲気を醸し出しています。



2012年6月23日土曜日

スイスの絵本画家 クライドルフの世界


花や生き物たちにあふれた夢とメルヘンの世界へ

 
『花を棲みかに』より 《まま母さん》1926年以前
 “In cooperation with the Verein/Stiftung Ernst Kreidolf and the Museum of Fine Arts,Berne,Switzerland.” 
(C)Photos: Th. Spalinger (C)Verein Ernst Kreidolf and Raffael - Verlag.》 《(C)ProLitteris





 現在、スイスの絵本画家クライドルフの個展が本格的に開催されています。エルンスト・クライドルフは印刷技術がようやく世界的に定着しつつあった19世紀から20世紀前半にかけて絵本の世界に大きな足跡を残した人です。クライドルフの手によって擬人化された虫や花たちの表情は無垢で可愛らしく、豊かな愛情に包まれていることが伝わってくるようです。それだけにとどまらず、実体験から生まれた自然を見つめる眼は鋭く本質的です。
 あくまでも純粋無垢な子どもの視点から描かれたという絵の数々…。子どもたちにはどんな説明よりも心に響くのかもしれません。

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 子供のような無垢な眼差しと自由な想像力で、小さな生き物たちを主人公にした不思議な世界を詩情あふれる文章とともに生み出した絵本画家エルンスト・クライドルフ(1863-1956)。スイスではいまでも子供たちに愛され読みつがれる国民的な絵本画家で、19世紀から20世紀初頭にかけてのヨーロッパにおける絵本の黎明期を代表する一人としても評価の高いアーティストです。
 本展は、美しい自然と豊かな芸術の国、スイスで育まれた画家クライドルフの作品世界をベルン美術館寄託の作品を中心に約220点でたどる日本で初めての大規模なクライドルフ回顧展です。


<ここがポイント>ミュンヘンの美術学校で優秀な成績を収めていたクライドルフは、働きすぎで体調を崩し、アルプスで療養生活を送ります。大自然に息づく小さな生き物たちの世界―このアルプスでの体験が、独特な世界を創造する原動力となったのです!(公式サイトより)





開催期間   2012/6/19(火)-7/29(日)
開館時間   10:00-19:00(入館は18:30まで)会期中無休
       毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場     Bunkamuraザ・ミュージアム
主催     Bunkamura、NHKサービスセンター
後援     スイス大使館、NHK
企画協力   ベルン美術館、クライドルフ協会、クライドルフ財団
特別協力   スイス・プロ・ヘルヴェティア文化財団
協力     スイス インターナショナル エアラインズ、
       ヤマトロジスティクス株式会社
お問合せ   Bunkamuraザ・ミュージアム 03-3477-9413
他会場    郡山市立美術館(福島) 2012/8/4(土)-9/17(月・休)
       富山県立近代美術館(富山) 2012/11/10(土)-12/27(木)
       そごう美術館(横浜) 2013/1/30(水)-2/24(日)




2012年6月21日木曜日

グリーグ ペール・ギュント







 皆さんは時として思い出したように聴きたくなる曲ってありませんか?
 たとえばフォーレの「シチリアーノ」やラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」、ドビュッシーの「アラベスク」、フランクの「ヴァイオリンソナタ」、ベートーヴェンの「月光ソナタ」等々、癒し効果抜群の曲が次々に浮かんでくるのではないでしょうか。しかし、いわゆる大作と呼ばれる作品はあまり浮かんでこないのでは…!?

 ちなみに前述した曲でフランス系の作曲家が大半を占めてしまったのも決して偶然ではなく、音楽の中に美しい情景が浮かんできたり、色彩的な感覚や時間の観念を消し去るような要素が強く根付いていることが大きいのだと思います。やはり懐かしい情景を思い描くことができたり、現実の殺伐とした感覚を忘れさせてくれるような癒しの効果がある曲が思い出されるのかもしれません。その反面、「聴くのにエネルギーや体力が必要とされる曲はどうもね…」と敬遠される方は意外に多いのではないでしょうか。 
 人は優しい叙情性が息づき、自然に心の中に染み込んでくる曲を絶えず求めているのかもしれないですね。前置きが長くなってしまいましたが、グリーグの「ペール・ギュント」もそういう類の名曲のひとつでだと思います。

 この作品はノルウェーの伝説上の人物ペール・ギュントを描いたもので、それを劇作家イプセンが戯曲化したものです。イプセンは舞台上演するにあたり、グリーグに音楽を全面的に託したのですが、起用は大成功でした。グリーグでしか描けないノルウェーの風俗や雰囲気がドラマとひとつになっているのです! 劇中ではノルウェーの民族音楽が非常に効果的に使われ、ペール・ギュントが生きてきた舞台背景を明確にしていきます。

 内容は自堕落で空想癖がある主人公ペール・ギュントがさまざまなところで放蕩の限りを尽くした挙げ句、二度にわたって巨万の富を得るものの災難に遭い最後は一文無しになってしまいます。ペール・ギュントは盲目となり、息絶え絶えに故郷のソルヴェイグのもとに向かいますが、力尽きたペール・ギュントは彼女の膝枕で子守唄を聴きながら息を引きとります。「ペール・ギュント」は、現在グリーグが組曲として選んだ8曲が盛んに演奏されているのは皆さんよくご存知と思います。

 できれば全曲を聴いて劇の進行と音楽の流れを味わっていただきたいのですが、要所を網羅した組曲を聴くだけでも充分に魅力的です。特に「アニトラの踊り」や「山の魔王の宮殿にて」は異国情緒あふれる生き生きとした曲調やテンポ、リズムが抜群で、これまでになくグリーグの音楽性や持ち味が存分に発揮されていることを認識するでしょう!

 しかし、劇中で特に印象的な音楽は「オーゼの死」や「ソルヴェイグの子守唄」でしょう。弦楽器を主体にした「オーゼの死」は母オーゼが息子の無事を知って安心し、彼の空想話を聞きながら息を引き取るシーンの音楽です。荘厳で悲痛な悲しみに満ちた鎮魂歌といっていいでしょう。深い森を想わせる独特の情感は母の愛情の深さを物語っているのかもしれませんね…。「ソルヴェイグの子守唄」も永遠の名曲と言っていいかと思います。悲しい調べでありながら、心慰められる優しさと深い情緒に彩られたメロディが心に染み渡ります!
 これに対して、みずみずしくさわやかな響きが希望の瞬間を感じさせる「朝」も素晴らしい出来映えだと思います。また組曲にこそ含まれていませんが、ペンテコステの賛美歌「祝福の朝なり」(賛美歌のコラール)も慎ましやかな心の平安をもたらしてくれます。

 演奏はネーメ・ヤルヴィ指揮、プロ・ムジカ室内合唱団、エーテボリ交響楽団による1987年録音盤が最高です。ソプラノを担当したバーバラ・ボニーも「ソルヴェイの子守唄」等でとろけるような美しい歌を聴かせてくれます!オーケストラも繊細でまろやかな響きが大変心地よく、透明感に満ちた崇高なドラマををよく表現しています。全曲盤というのも貴重で価値が高いですね!



2012年6月14日木曜日

ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年









 最近は一人の画家にしぼらず、歴史や地域性をテーマにした展覧会が多いような気がします。この展覧会も、15世紀から18世紀までのヨーロッパ美術を、イタリアと北方の美術を比較しながら観ることのできる展覧会です。時代ごとに趣向の違う絵がいろいろと展示されているというのは意外に変化があって面白いのかもしれませんね…。
 この展覧会の目玉はフェルメールの「真珠の首飾りの少女」でしょう。よく似たタイトルの「真珠の耳飾りの少女」はフェルメールの代表作としてあまりにも有名ですが、この「首飾りの少女」も首飾りをつけた初々しい喜びや驚きが静かに伝わってくる魅力作です。さらにはベルリン素描版画館が誇るボッティチェッリの素描など、優れた作品が出品されていて興味津々です。







ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年

芸術的想像力あるいは造形感覚というものは、ある程度は伝統や教育に負うものと解釈されがちです。しかしそれでもなお、ヒトのDNAに埋め込まれていたのかもしれない南北ヨーロッパの造形感覚の違いを目の当たりにする時、古代以来の複雑な西ヨーロッパ文化の奥深さや歴史の重みをひしひしと感じることがあります。
 今回ベルリン国立美術館と共同で開催する「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」は、イタリア絵画や彫刻と、北方絵画や彫刻を同時に見ることにより、歴史とともに成熟したヨーロッパ美術の流れを肌で感じ取ることができるような構成にしています。デッラ・ロッビアの優美な聖母とリーメンシュナイダーの素朴ながらも人を魅了して止まない木彫、フェルメールとレンブラント、白い羊皮紙の上に描かれたボッティチェッリの簡素にして妖艶な素描、情念ほとばしるミケランジェロの素描など、絵画、彫刻、素描など合わせて107点をご覧いただきます。どうぞお楽しみに。
この他、講演会レクチャー・コンサートスライドトークも予定されています。詳細はそれぞれのページをご覧ください。(公式サイトより)
会期:    2012年6月13日(水)~9月17日(月・祝日)
開館時間:  午前9時30分~午後5時30分
       毎週金曜日:午前9時30分~午後8時
       ※入館は閉館の30分前まで
休館日:   月曜日(ただし、7月16日、8月13日、9月17日は開館、7月17日は休館)
会場:    国立西洋美術館 企画展示室
主催:    国立西洋美術館、TBS、読売新聞社
後援:    外務省、ドイツ連邦共和国大使館、BS-TBS、TBSラジオ、J-WAVE
特別協賛:  SMBC日興証券
協賛:    セコム、損保ジャパン、日本写真印刷
協力:    ルフトハンザ カーゴ AG、ルフトハンザ
       ドイツ航空、日本航空、ヤマトロジスティクス、
       JR東日本、西洋美術振興財団
観覧料金:  当日:一般1,500円、大学生1,200円、高校生500円
       前売:一般1,300円、大学生1,000円、高校生500円
       団体:一般1,100円、大学生800円、 高校生500円

       ※高校生前売券は6月1日(金)より販売。
       ※国立西洋美術館での前売券販売は6月10日(日)まで。
       ※美術館窓口以外の前売券販売場所は展覧会特設サイトをご確認ください。
       ※6月13日(水)からは当日券販売。
       ※団体料金は20名以上。
       ※中学生以下は無料。
       ※7月21日(土)~8月5日(日)は高校生無料。
       ※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)
       ※本展の観覧券で常設展示も併せてご覧いただけます。
※巡回情報: 2012年10月9日(火)~12月2日(日)



2012年6月7日木曜日

「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」






 サンクトペテルブルクは昔からロシアの文化と経済の中心、発信地として発展してきました。モスクワがロシアの首都であり政治の中心でありますが、サンクトペテルブルクは世界的にみても最高峰の芸術の香りに包まれた都市としての存在感を示してきたのです。地理的にも北欧やポーランドに近く、西洋の文化を吸収しつつロシアの広大な大地に根ざした独特の文化が育まれたのでした!
 ざっとあげただけでも音楽のショスタコーヴィッチ、リムスキー・コルサコフ、指揮者のムラヴィンスキーとレニングラードフィル、文学のドストエフスキー、プーシキン、ツルゲーネフ、マイリンスキー・バレエのマイリンスキー劇場と多種多彩で魅力にあふれています。
 そして何と言っても文化の殿堂と呼ぶに相応しいのが、エルミタージュ美術館です!ここは世界でも有数の圧倒的なコレクション数を誇り、充実した世紀の名品が多数展示されています。そして、その優美な建物は世界遺産にも特定されています。
 現在開催中の「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」は選りすぐりの名品を集めて開催されています。お馴染みの絵もたくさん展示されているので、西洋絵画史を一通り俯瞰するるような感じでご覧になれば、さまざまな発見があるかもしれません!

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 エルミタージュ美術館はロシアのサンクトペテルブルクに位置し、ロマノフ王朝の歴代皇帝の宮殿からなる建物と、300万点を超える所蔵作品とが見事な調和を織りなす、世界有数の美術館です。本展覧会では同館の優れた所蔵品の中から、16世紀から20世紀における西洋美術の「顔」ともいうべき名作を、その世紀を象徴するキーワードを軸に紹介します。

 16世紀=人間の世紀、17世紀=黄金の世紀、18世紀=革命の世紀、19世紀=進化する世紀、そして20世紀=アヴァンギャルドの世紀。各世紀を彩るのは、ティツィアーノ、ルーベンス、レンブラント、ブーシェ、レノルズ、モネ、ルノワール、セザンヌ、マティス、ピカソら83作家の作品、全89点です。まさに400年にわたる西欧絵画の歴史をたどる豪華ラインナップです。特に注目されるのは、マティスの最高傑作の一つである《赤い部屋(赤のハーモニー)》。東京では実に約30年ぶりの展示となります。
「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」にご期待ください。
(公式サイトより)


会期     2012年4月25日(水)~7月16日(月・祝)
       毎週火曜日休館(ただし5月1日は開館)
開館時間   10:00〜18:00 金曜日は20:00まで。
       入場は閉館の30分前まで。
会場     国立新美術館 企画展示室2E(東京・六本木)
       〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
観覧料    1,500円(一般) 
       1,200円(大学生)
        800円(高校生)
主催     国立新美術館、日本テレビ放送網、読売新聞社、  
       エルミタージュ美術館
後援     外務省、在日ロシア連邦大使館、ロシア連邦交流庁
特別協賛   大和ハウス工業



2012年6月4日月曜日

J.S.バッハ 平均律クラヴィーア曲集第2巻(BWV870~893)












平均律第2巻を作曲した頃のバッハは創作環境として恵まれたケーテンを離れ、才能と手腕を見込まれてライプツィヒの教会のカントル(教会の合唱指揮者・音楽監督)を任された頃でした。
第1巻はケーテン時代の置き土産のように作曲されたのですが、第2巻を作曲した時、前作よりすでに20年の歳月が過ぎていました。

これほどの歳月の隔たりがあれば当然の如く、気持ちの変化や創作意欲の欠如等が如実に出てくるものなのですが、この曲に関する限りバッハは少しも変わっていなかったのでした。
第1巻に勝るとも劣らない祈りに満ちた雰囲気と豊かな叙情が全編を一貫しており、しかも第1巻にはない行書的な自由さが随所に現れているのです。

中でも第1番プレリュードはバッハのこの作品に賭ける想いを感じとることができます。少しずつ装いを変えていく美しさに満ちた前作のプレリュードはとても魅力的でした。これに並ぶか超えるとなるとバッハといえど、決して容易な話ではありません。しかし、本作のプレリュードでも無限に広がる地平を想わせる確信に満ちた響きが、充実した世界観を描き出していくのです。 朝露を浴びた木々の葉がキラキラと輝き出すような希望に満ちた第2番のプレリュードも新鮮に響きます。

 第1巻ではオルガン的な響きや神聖な雰囲気が深い瞑想と静寂の境地を表していました。しかし、この第2巻では第1巻にはなかったゆとりと自由な曲想が作品の融通性を引き出し、より普遍的な感動と発見をもたらしてくれるのです!

平均律クラヴィーア曲集は曲の形式や構成の素晴らしさによって、あらゆる音楽を愛する人のピアノ演奏の源泉になっていることは間違いありません。しかし、それ以上にひとつひとつの曲の芸術的な品格や味わい深さが無類であることが、いつの時代でも愛される大きな要因となっているのでしょう。

  この第2巻で最も素晴らしい演奏として記憶されるのがグレン・グールドのCDであることは間違いありません。
第1巻では表現自体は抜群であるにもかかわらず、禁欲的なバッハの作品の性格に対して少々違和感があることが否めませんでした。しかし、この第2巻ではあらゆる部分の表情が生き生きとしながら作品の本質と無理なく溶け込んでいることがわかります!
 もちろん、グールド特有の寂寥感やデフォルメした表情も作品の魅力を引き出す上でプラスに作用しており.その表現力と音楽性に圧倒されます!

特に素晴らしいのは第1番プレリュードとフーガで、このプレリュードとフーガはともすれば平均律という作品のステータスに押される格好の萎縮した演奏になってしまいがちです。しかし、グールドの演奏はプレリュードの出だしから彼の感性のフィルターによって炙り出された抜群の雰囲気を湛えた音楽となっており、寂寥感とともに心の奥底に強く印象付けられる音楽になっているのです。また第16番ト短調のフーガも委細構わず突き進む硬質な音の迫力が独特の魅力を醸し出します!

エフゲニー・ザラフィアンツのCDは第1巻で紹介した通り、第1巻と第2巻から同じ調のプレリュードを12曲ずつ選び、計24曲を収録したものです。
ゆったりとしたテンポで情感豊かに歌われる演奏ですが、細部までよく彫琢された美しい演奏です。他の演奏でもの足らないという方には様々なインスピレーションを与えてくれる名演といっていいでしょう!