2011年6月24日金曜日

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番変ロ短調作品23




ピアニスト冥利につきる協奏曲








 今さら言うまでもないことなのかもしれませんが、クラシック音楽でチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番ほど華麗な演奏効果が期待できる作品はないのではないでしょうか。演奏効果があがることからこの作品はアメリカで大変に人気があるそうです。事実この作品はアメリカのボストンで初演が行われ、大成功を収めたというではありませんか!

 しかし、根強い人気を持つこの作品も最初から順風満帆だったわけではありません。最初に献呈しようとした友人のニコライ・ルービンシュタインからは「陳腐で貧弱」とか「演奏不能」と酷評され、最後には「私の意見に従って最初から書き直すべきだ」とまで言われたのでした。ひどく自尊心を傷つけられたチャイコフスキーは若干の手直しを加えながら、ボストンの初演を担当したピアニスト兼指揮者のハンス・フォン・ビューローに献呈(結果的にはこの選択が大成功)することにしたのです。

 さまざまな経緯はあったものの、通して聴くとやはりこれは素晴らしい作品です。特に第1楽章冒頭に鳴り響く荘厳で雄大なファンファーレは聴く人の心を瞬間的に捉えてしまいます。そして終楽章のピアノとオーケストラの手に汗握る絡みは音楽の演出効果の秀逸さとともに、最高にエキサイティングなクライマックスを築きあげていくのです!

 オーケストラの響きもチャイコフスキーらしく堂々としていて立体的な響きを奏でます。けれどもその堂々とした響きも主役のピアノを最大限に際立たせるための伏線であり演出なのです。とにかくピアニストにとってこの曲を弾きこなすには気力、体力、テクニックの充実が同時に要求され、なまやさしい作品ではありません。それでも終始ピアノが大活躍し、自在で奔放な表現が可能なこの曲はピアニストにとって今も昔も「弾きたい曲」のナンバー1候補なのです。

 この曲でいかにもチャイコフスキーらしいのが第1楽章中間部で長いモノローグを経て、深い憂愁を滲ませるところではないでしょうか。ため息まじりに吐露される憂愁は、いつの間にかこの作品が豪華絢爛に始まったことさえ忘れてしまうほどです……。しかし、決して深刻にはならず心地良いロマンティズムに支えられ曲は進行していきます。穏やかで美しい抒情に富んだ第2楽章のアダージョを経ると、遂にピアノとオーケストラの掛け合いが絶妙でスリリングな終楽章に達します。圧倒的な演奏効果とともにここは演奏家冥利につきる経過句が連続しているのです!

 演奏に目を移すとマルタ・アルゲリッチはこの曲を大変得意にしており、これまでメジャーレーベルから何度もレコーディングしています。しかもそのすべてが名演奏。よほど曲との相性がいいのでしょう!つまり、即興演奏に強いアルゲリッチの良さはこの曲で最大限に発揮されているのです。中でも1980年にキリル・コンドラシン=バイエルン放送交響楽団と入れた演奏(フィリップス)は奔放なタッチと繊細優美な音色、最後まで持続する情熱等でこの曲を徹底的に堪能させてくれます!

 もう1枚上原彩子がフリューベック・デ・ブルゴス=ロンドン交響楽団と組んで録音したCD(EMI)も素晴らしい出来映えです。上原の充実したテクニック、曲の本質をがっちり掴み風格さえ漂う演奏に魅了されます。録音(2005年)も良く、楽器の陰影や立体感が伝わってくるのも強みではないでしょうか。





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2011年6月21日火曜日

ラヴェル 古風なメヌエット






幻想的でファンタジックな香り

 「ラヴェルのピアノ曲って何から聴いたらいいんだろう?」と思われている方は結構多いのではないでしょうか?管弦楽曲であれば「ボレロ」、「ダフニスとクロエ」、「マ・メール・ロワ」のように誰もが親しめる曲があるのに、ピアノ曲となると意外に入門にふさわしい曲ってないんですね。かろうじて「亡き王女のためのパヴァーヌ」が美しいメロディと気品ある雰囲気で親しみやすいというところでしょうか……。

 しかしよく探してみたら1曲だけありました。「古風なメヌエット」です。演奏時間もせいぜい7分から8分でしょうか?タイトルから推測するとルネッサンスかバロック調の雰囲気を持つソナタのように思えます。ラモーやコレルリ、クープラン、シャルパンティエのように優雅で洒落た味わいを持つ曲なのでしょうか?

 実際に聴いてみるとバッハのパルティータのような印象的なテーマで始まる第1主題で始まり、バロック的なリズムやテンポで曲は流れていきます。しかし体裁はバロック的ですが、曲の情緒や個性はまぎれもなくラヴェルそのもので、次第に幻想的でファンタジックな香りが立ち上ってゆきます。特に美しいのは中間部の嬰ヘ長調のトリオではないでしょうか。ゆったりとした時間の流れの中で美しく描かれる詩情。さまざまな回想の情景が現れ、憧れ、夢、静寂のような心地いい瞬間がまどろむように流れていくのです!!……。
 そして最高に盛り上がったフレーズで曲は停止し、まもなく最初の第1主題のテーマが再現され、現実に引き戻されるように曲は終わっていきます。

 この曲で特に印象に残っているのはサンソン・フランソワのEMI録音盤です。特に第1部嬰ヘ短調、第2部嬰ヘ長調、第3部嬰ヘ短調の弾き分けがはっきりしており、明確な強い主張が感じられます。一音ごとにドラマがあり、その生き生きとした表現力と詩情の豊かさに圧倒されます。7分少々のこの曲が何と短く感じられることか!特に第2部の嬰ヘ長調は時間の流れを忘れたかのような陶酔感が美しく、その音域の自在な広さに唖然とします。




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2011年6月18日土曜日

ブルックナー 交響曲第5番変ロ長調












風格と推進力に富んだ傑作!

 今、最もライブで聴いてみたい作品!それはブルックナーの交響曲第5番です。この曲はどこまでも渋く、曲中も難解なテーマが多いため一般的には決して馴染みやすい作品ではありません。気軽に口ずさめるようなフレーズもあまり見当たりませんし、転調も激しく、この音楽の真意を理解するのに苦労するくらいです。それでもこの曲に強く惹かれるのは、おそらく理屈では説明し難い何かがあるからなのです。

  この曲の一番の魅力はちょっとやそっとではビクともしそうにない骨太で質実剛健な作風にあります!しかも曲が全体的によく練られており、終始あわてることなく地にしっかりと足がついた風格と推進力が印象的なのです。何度耳にしても飽きることが無く、浮ついたところが一切無い音楽!この音楽を一度好きになると終世その魅力から離れられなくなるファンが多いというのも分かるような気がします。


 ブルックナーを堪能するにはある程度音楽的な資質が必要とも言われています。その資質とは「既成概念を持たない」ことや、「素直な心の状態を保つ」ことが最も大きいかもしれません。つまり、流れる音楽に純粋に心と耳を開放するということがこのような長大な曲を聴く上での最大のポイントになるのではないでしょうか。
 5番で次々と現れる抽象的なテーマは一見とっつきにくそうですが、ただ単に難解なのではありません。いぶし銀的な魅力を持ち、根底には強靭な精神性を内包しているのです。


ライブでこそ、曲の凄さが実感できる

 人は想像を絶する巨大な建造物に接したり、大自然の威容を目の当たりにする時、ただ圧倒され畏敬の念を抱く以外になす術がないということがよくあります。この曲の第4楽章などはまさにそうでしょう! 聳え立つ大聖堂のように力強いコラールが連続して現れ、ライブなどではその凄さを体感できる楽章だと思います。金管楽曲やティンパニが活躍し壮大なフィナーレを迎えるまでの間、胸は高鳴るばかりで精神的な充足度や演奏効果は頂点に達します!

 この作品は巨匠と言われる指揮者たちがこぞって録音しています。古くはクナパーツブッシュとウィーンフィル、マタチッチとチェコフィル、ヨッフムとアムステルダムコンセルトへボウ管弦楽団、チェリビダッケとミュンヘンフィル、朝比奈隆と大阪フィルらが名演奏を繰り広げてきました。
 その中で録音も含めて最も素晴らしいのはギュンター・ヴァントがベルリンフィルと組んだ演奏になるかと思います。ヴァントの演奏は自信に溢れ、どこをとっても不足のない充実した響きを引き出しています。しかも力づくで付けられた表情ではなく、楽器の有機的で意味深い響きが連続するのです。それはこの曲の内面性を生かしたもので、随所に瞑想や祈りの感情が漂いこの曲に膨らみを持たせているのです。





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2011年6月16日木曜日

NHK「映像の世紀」


視聴者を釘付けにする充実の作品
「映像の世紀」




 普段あまりNHKなど観ない私ですが、15年ほど前にこの番組が放送されていたころは毎週のように夢中になって観た記憶があります。それが「映像の世紀」でした。
 内容は各回1時間半ぐらいのドキュメンタリー番組なのですが、今さらながらこの番組はコンセプトがしっかりしていてよくできていたと思います。20世紀の政治や紛争、国際関係等の様々な出来事を世界各国からの貴重な映像や回想録、証言を通して描いた番組だったのでした。

  こういう歴史的な映像を扱ったドキュメンタリー番組が陥りやすい傾向として、映像そのものがインパクトがあるだけに事柄だけを並べた説明的な番組になりやすいという欠点があります。また時間の制約上、膨大なアーカイブスからあれもこれもと断片的に盛り込んでしまい、結果的に何をいいたいのかわからない番組になってしまいやすいという盲点もあります。
 
 しかし、この番組は過度な演出や余計な説明は極力排除しながらも映像に多くを語らせ、静かな感動と余韻を記憶に留めさせることに成功したのです。企画や構成の素晴らしさ、音楽やナレーション、映像の演出の素晴らしさが相まってこれだけのものが完成できたのでしょう。
 シリーズ11巻はDVDでも発売されていますが、あまりにも高価なため一般的とは言えません。それよりはNHKオンデマンドのサイトで関心がある章を単独で購入(各巻¥200)されたほうが現実的かもしれません。






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2011年6月8日水曜日

交響曲第3番イ短調作品56『スコットランド』
















スコットランドの情緒を美しく描く交響曲


 メンデルスゾーンの作品は音の風景画と評されることがあります。前回お伝えしました、「序曲・フィンガルの洞窟」はまさにそのような作品の典型と言えるでしょう!しかも、すんなりと曲に入っていける敷居の低さはメンデルスゾーンの音楽の最大の魅力といってもいいのではないでしょうか!

 それは「真夏の夜の夢」、「ヴァイオリン協奏曲」、「交響曲第4番イタリア」等、メンデルスゾーンの作品に共通する魅力だと思います。もちろん決して曲の内容が薄味だというのではありません。思索的にねじれてないし、屈託のない素直な曲調なのです。おそらく自身もかなりピュアな性格だったのでしょう。


 特にここで紹介する交響曲第3番「スコットランド」は冷んやりとした空気感や霧にかすむ情景を、心の機微に重ね合わせながら哀愁を帯びたテーマとともに美しく描き出しています。メンデルスゾーンはよほどスコットランドの風景と情緒が強く心に印象づけられたのでしょう。この曲を最初に着手したのは1830年ですが、その後長い中断があり何と12年後の1842年に完成させています!いかにこの作品がメンデルスゾーンにとって重要な部分を占めていたかを物語っているように思います。


 第1楽章はそんなイメージが最もドラマティックに最高のバランスで捉えられた楽章といってもいいかも知れません。それに対して第2楽章はスコットランド民謡風の軽快なリズムも取り込みながら、暖かい春の兆しを感じさせるうれしく楽しい楽章です。第3楽章の神秘的で穏やかなテーマも一度聴いたら忘れられません。絶えず聖歌風のメロディが歌われ、平和な叙情詩のように時が流れていきます。そして第4楽章フィーナレ……。厳しく孤高な魂がうなりをあげるように音楽は展開し、曲の核心の部分へと到達します。するとホルンに導かれるように雄大で希望に満ちたコーダへと発展し曲は結ばれます。

  この作品は、繊細で悲哀に満ちたロマンチズムがまず要求されるのと同時に、生き生きとした色彩的な情感も要求されます。また願わくばスケールが大きく微動だにしない造形感覚があればさらに鬼に金棒です。しかし、実際にこのような条件を満たす演奏は本当に少なく、どこか片手落ちの演奏になってしまうのは致し方ないのかもしれません。


  そのような中で素晴らしいのはマーク指揮ロンドン交響楽団の演奏です。この演奏は弦がとても美しく、しなやかな音色とウエットな表情を醸し出しています。ホルンやファゴットも非常に深みのある響きを生み出し気持のいい空間を作っています。特に第3楽章は美しく、澄んだ情感に満たされます。ただ、第2楽章や第4楽章のコーダの部分はテンポがやや性急すぎて曲の魅力をいまひとつ味わえないような気もするのですが……。

 しかし、これら3つの条件を軽くクリアーしてしまっている指揮者がいます。それはオットー・クレンペラーです。決して曲に夢中になってのめり込むという指揮ぶりではないのですが、どこもかしこも意味深く豊かな音楽が鳴り響いているのです。たとえばフィナーレのコーダで雄大なテーマを奏するくだりも、普通であれば少しずつテンポを上げ盛り上げていくのが常道でしょう。しかし、クレンペラーの場合は一切テンポを変えることなく、ひたすら堂々と曲を謳いあげていくのです。
 そのコーダの何たる存在感!ここだけをとってもクレンペラーの偉大さは傑出しています。録音で有名なのは1960年にフィルハーモニア管弦楽団を振ったEMI盤ですが、6年後にバイエルン放送交響楽団を振ったライブ録音も甲乙つけ難い素晴らしさです。ただし、有名な第4楽章のコーダはクレンペラー自身が作った短調のままで曲を終了する版が使われています。これは作品の性格上、大変重要な部分ですのでおそらく賛否両論わかれるものと思います。









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2011年6月2日木曜日

『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』



   先日、国立西洋美術館で開催中の『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』に行ってきました。エッチングの作品が質量ともに大変に豊富で、これを見ればレンブラントのエッチングの真髄がある程度堪能できるのではないかと思います。
 何よりも興味深かったのはレンブラントが版画の材料として和紙を好んで使ったということです。『病人たちを癒すキリスト』『三本の木』や『イタリア風景の中の聖ヒエロニムス』等の有名な版画はオートミール紙、西洋紙の他にも和紙を使って制作されています。おそらく、レンブラントにとって和紙は微妙な諧調を柔らかく表現するのに適していたようで、明らかに他の紙との効果の違いが見てとれます。また、ドライポイントやエッチング、エングレーヴィングとさまざまな技法を用いることによって驚くほど明暗の効果や味わいが変わってくることにも気づかされます。
 特にエングレーヴィングで制作された作品は繊細で重厚な画面に水墨画のような柔らかな味わいも生み出していることに驚かされるではありませんか!!


 油彩画では『書斎のミネルヴァ』が構図、マティエール、色彩、重厚で風格のある表現とどれをとっても文句のつけようのない作品です。男性実業家を描いた『旗手(フローリス・ソープ)』は穏やかな表情の中に垣間みられる真摯な人柄が印象的です!


 また、今回の収穫のひとつはレンブラントの油彩画の名作、『ヘンドリッキェ・ストッフェルス』に出会えたことです。ヘンドリッキェの柔和で気品に溢れた表情……。その憂いを帯びた深い眼差しは見る人の心に切々と訴えかけているような気がいたします。まさに壁に掛けられた空間の空気を変えることのできるレンブラントならではの逸品でしょう!
 
 東京での会期は残すところ10日あまりになりました。「見ようか見まいか」と迷っている方も多いと思います。それでも結論から言えば多少無理をしてでもご覧になったほうがいいのではないかと思います。それほど企画展としては充実しておりますし、版画の制作の動機や紙による効果の違いを実感できる貴重な展覧会だと思うのです。


《病人たちを癒すキリスト(百グルデン版画)》
1648年頃、エッチング・ドライポイント・エングレーヴィング、278 x 388 mm
国立西洋美術館






《ヘンドリッキェ・ストッフェルス》
1652年頃、油彩・カンヴァス、740 x 610 mm
ルーヴル美術館/© 2006 Musée du Louvre/ Angèle Dequier

【東京展】
      公式サイト
開催期間  2011年3月12日(土)ー 6月12日(日)


【巡回】
開催期間  2011年6月25日(土)ー 9月4日(日) 
      名古屋展HPはこちら
開催場所  名古屋市美術館
      〒460-0008 名古屋市中区栄二丁目17番25号(白川公園内)
開館時間  午前9時30分 ― 午後5時(毎週金曜日は午後8時まで)
      *入館は閉館の30分前まで
休館日   毎週月曜日《ただし、7月18日(月)は開館、7月19日(火)は休館》
主催    名古屋市美術館、中京テレビ放送
後援    オランダ王国大使館




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2011年5月29日日曜日

フォーレ レクイエムニ短調作品48





   この作品は、フランスの作曲家ガブリエル・フォーレの代表作です。レクイエムというと「死を悼む」とか、「葬葬曲」という認識が強いのではないでしょうか。
  そのせいかレクイエムというとどうしても重苦しい曲調になってしまうのが避けられないのですが、フォーレのレクイエムだけは天国の花園のように美しいフレーズが充満し、心を癒してくれるのです。
  特にフォーレの作品の場合は、深刻になりがちなカトリックの死者のミサから「怒りの日」の部分をそっくり省くという大胆な改変を行ったのです。そのため、当時のカトリックの寺院からは「死の恐怖が伝わってこない」とか「カトリック的ではない」という激しい叱責を受けたようです。しかし、フォーレはこの作品を典礼上の死者のミサとしてではなく、魂の永遠の平和を純粋に願った音楽として作曲したかったのだと思います。
いわば、寺院から依頼されて典礼上の不都合に眼をつぶりながら作られたレクイエムではなく、自らの想いや気持ちに正直に作られたレクイエム調の音楽といっていいのではないでしょうか。
ですから、通常のレクイエムとは違い、暗い影が無く、悲しみの中にも愛と希望が充満し、絶えず心地良い風や穏やかな陽射しに覆われているのです。

全曲中、特に印象的なのは第2曲のオッフェルトリウム、第3曲のサンクトゥス、第4曲のピエ・イエスではないでしょうか。オッフェルトリウムはグレゴリア聖歌のようなテーマをカノン風に歌い継ぐ出だしが神秘的で心に染みます。その後、中間部でバリトンの潤いのある歌から清澄なコーラスへと続くのですが、まるで天上から舞い降りた癒しの音楽のように聴こえ、その魅力にいつまでも浸っていたいと思えるほどです。
サンクトゥスもソプラノ、テノールの交わすように歌われるテーマが、ホザンナで最高潮に盛り上がり、感動的な余韻を残していきます。ピエ・イエスの懐かしい情緒を伴う澄んだソプラノの歌も最高です。


この作品はミシェル・コルボ指揮ベルン交響楽団、アラン・クレマン(ボーイ・ソプラノ)、フィリップ・フッテンロッハー(バリトン)、 サン=ピエール=オ=リアン・ドゥ・ビュール聖歌隊他(エラート、1972年)の演奏が今もって最高です。この曲の魅力を本当の意味で再認識させてくれた心の片隅にいつまでもしまっておきたい稀有な名演奏です。
何よりも清澄な空気を演出するコルボの指揮やオーケストラの響き、少年合唱の無垢な歌声の素晴らしさは改めて説明の必要はないでしょう。それほどこの演奏はレクイエムの持っている魅力をあますところなく表現し尽くしているのです。





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