ピアニスト冥利につきる協奏曲
今さら言うまでもないことなのかもしれませんが、クラシック音楽でチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番ほど華麗な演奏効果が期待できる作品はないのではないでしょうか。演奏効果があがることからこの作品はアメリカで大変に人気があるそうです。事実この作品はアメリカのボストンで初演が行われ、大成功を収めたというではありませんか!
しかし、根強い人気を持つこの作品も最初から順風満帆だったわけではありません。最初に献呈しようとした友人のニコライ・ルービンシュタインからは「陳腐で貧弱」とか「演奏不能」と酷評され、最後には「私の意見に従って最初から書き直すべきだ」とまで言われたのでした。ひどく自尊心を傷つけられたチャイコフスキーは若干の手直しを加えながら、ボストンの初演を担当したピアニスト兼指揮者のハンス・フォン・ビューローに献呈(結果的にはこの選択が大成功)することにしたのです。
さまざまな経緯はあったものの、通して聴くとやはりこれは素晴らしい作品です。特に第1楽章冒頭に鳴り響く荘厳で雄大なファンファーレは聴く人の心を瞬間的に捉えてしまいます。そして終楽章のピアノとオーケストラの手に汗握る絡みは音楽の演出効果の秀逸さとともに、最高にエキサイティングなクライマックスを築きあげていくのです!
オーケストラの響きもチャイコフスキーらしく堂々としていて立体的な響きを奏でます。けれどもその堂々とした響きも主役のピアノを最大限に際立たせるための伏線であり演出なのです。とにかくピアニストにとってこの曲を弾きこなすには気力、体力、テクニックの充実が同時に要求され、なまやさしい作品ではありません。それでも終始ピアノが大活躍し、自在で奔放な表現が可能なこの曲はピアニストにとって今も昔も「弾きたい曲」のナンバー1候補なのです。
この曲でいかにもチャイコフスキーらしいのが第1楽章中間部で長いモノローグを経て、深い憂愁を滲ませるところではないでしょうか。ため息まじりに吐露される憂愁は、いつの間にかこの作品が豪華絢爛に始まったことさえ忘れてしまうほどです……。しかし、決して深刻にはならず心地良いロマンティズムに支えられ曲は進行していきます。穏やかで美しい抒情に富んだ第2楽章のアダージョを経ると、遂にピアノとオーケストラの掛け合いが絶妙でスリリングな終楽章に達します。圧倒的な演奏効果とともにここは演奏家冥利につきる経過句が連続しているのです!
演奏に目を移すとマルタ・アルゲリッチはこの曲を大変得意にしており、これまでメジャーレーベルから何度もレコーディングしています。しかもそのすべてが名演奏。よほど曲との相性がいいのでしょう!つまり、即興演奏に強いアルゲリッチの良さはこの曲で最大限に発揮されているのです。中でも1980年にキリル・コンドラシン=バイエルン放送交響楽団と入れた演奏(フィリップス)は奔放なタッチと繊細優美な音色、最後まで持続する情熱等でこの曲を徹底的に堪能させてくれます!
もう1枚上原彩子がフリューベック・デ・ブルゴス=ロンドン交響楽団と組んで録音したCD(EMI)も素晴らしい出来映えです。上原の充実したテクニック、曲の本質をがっちり掴み風格さえ漂う演奏に魅了されます。録音(2005年)も良く、楽器の陰影や立体感が伝わってくるのも強みではないでしょうか。
もう1枚上原彩子がフリューベック・デ・ブルゴス=ロンドン交響楽団と組んで録音したCD(EMI)も素晴らしい出来映えです。上原の充実したテクニック、曲の本質をがっちり掴み風格さえ漂う演奏に魅了されます。録音(2005年)も良く、楽器の陰影や立体感が伝わってくるのも強みではないでしょうか。
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