2011年5月29日日曜日

フォーレ レクイエムニ短調作品48





   この作品は、フランスの作曲家ガブリエル・フォーレの代表作です。レクイエムというと「死を悼む」とか、「葬葬曲」という認識が強いのではないでしょうか。
  そのせいかレクイエムというとどうしても重苦しい曲調になってしまうのが避けられないのですが、フォーレのレクイエムだけは天国の花園のように美しいフレーズが充満し、心を癒してくれるのです。
  特にフォーレの作品の場合は、深刻になりがちなカトリックの死者のミサから「怒りの日」の部分をそっくり省くという大胆な改変を行ったのです。そのため、当時のカトリックの寺院からは「死の恐怖が伝わってこない」とか「カトリック的ではない」という激しい叱責を受けたようです。しかし、フォーレはこの作品を典礼上の死者のミサとしてではなく、魂の永遠の平和を純粋に願った音楽として作曲したかったのだと思います。
いわば、寺院から依頼されて典礼上の不都合に眼をつぶりながら作られたレクイエムではなく、自らの想いや気持ちに正直に作られたレクイエム調の音楽といっていいのではないでしょうか。
ですから、通常のレクイエムとは違い、暗い影が無く、悲しみの中にも愛と希望が充満し、絶えず心地良い風や穏やかな陽射しに覆われているのです。

全曲中、特に印象的なのは第2曲のオッフェルトリウム、第3曲のサンクトゥス、第4曲のピエ・イエスではないでしょうか。オッフェルトリウムはグレゴリア聖歌のようなテーマをカノン風に歌い継ぐ出だしが神秘的で心に染みます。その後、中間部でバリトンの潤いのある歌から清澄なコーラスへと続くのですが、まるで天上から舞い降りた癒しの音楽のように聴こえ、その魅力にいつまでも浸っていたいと思えるほどです。
サンクトゥスもソプラノ、テノールの交わすように歌われるテーマが、ホザンナで最高潮に盛り上がり、感動的な余韻を残していきます。ピエ・イエスの懐かしい情緒を伴う澄んだソプラノの歌も最高です。


この作品はミシェル・コルボ指揮ベルン交響楽団、アラン・クレマン(ボーイ・ソプラノ)、フィリップ・フッテンロッハー(バリトン)、 サン=ピエール=オ=リアン・ドゥ・ビュール聖歌隊他(エラート、1972年)の演奏が今もって最高です。この曲の魅力を本当の意味で再認識させてくれた心の片隅にいつまでもしまっておきたい稀有な名演奏です。
何よりも清澄な空気を演出するコルボの指揮やオーケストラの響き、少年合唱の無垢な歌声の素晴らしさは改めて説明の必要はないでしょう。それほどこの演奏はレクイエムの持っている魅力をあますところなく表現し尽くしているのです。





人気ブログランキングへ

0 件のコメント: