2017年11月28日火曜日

ロジャース&ハマースタイン 『回転木馬』














ロジャース&ハマースタインが
最も愛した作品

今回はロジャース&ハマースタインのミュージカル第三回目として、『回転木馬』をとりあげます。

ロジャース&ハマースタインは『南太平洋』、『王様と私』、『サウンド・オブ・ミュージック』等、誰もが知るミュージカルの名作を作りあげた黄金コンビとして有名ですが、その彼らが最も愛した作品が実は1945年初演の『回転木馬』なのでした。
1956年にゴードン・マクレーを主役に配して映画化もされていますが、残念ながら原作と音楽の良さを生かしきれているとはいえません。日本でもたびたび舞台上演されていますが、正直なところ評判になったというのをあまり聞いたことがないですね……。

この作品についてはどうしても内容に触れずには話が進められないので、あらすじを紹介しておきます。
19世紀末の海岸沿いの村、遊園地の回転木馬で呼び込みをしていた青年ビリーは、客としてやってきた純真な娘ジュリーの心をわしづかみにして結婚します。しばらく幸福な時間が流れていきますが、ジュリーの妊娠に気がついたとき、ビリーは失職してしまいます。家族があたりまえの生活を送れるよう願うあまり、ビリーはチンピラ・グループの誘惑に乗り強盗を企てますが、あえなく失敗。逮捕され刑務所に収監されるとき、ビリーは自ら生命を絶ち霊界へと旅立ってしまいます。

しばらくして、霊界でビリーは一日だけ村に戻ることが許されますが、そのとき地上ではすでに15年もの歳月が流れていたのでした。初めて見る娘のルイーズは孤独な思春期を迎えており、父親が強盗だったということで周囲からいじめを受け、冷たい視線を浴びせられていたのでした。
ビリーは何とか娘を励まそうと、ルイーズに特別な贈り物を渡そうとしますが、警戒されてままなりません。ルイーズが出来事をジュリーに話すと、それはビリーが私たちに会いに来てくれたのだと感慨深く受けとめるのでした。
その後ルイーズの卒業式で、なごやかに友だちと接し、それを優しく見つめるジュリーの姿を見ながら、ビリーは安心して霊界へと戻っていくのでした…。


人間の愛の尊さを謳う
ミュージカル

この作品は歌って踊る躍動的なミュージカルのイメージからしたら、動きの要素も少ないし、ストーリーは前述のように深刻で、そういう意味ではちょっと異質な作品かもしれません。

しかし、『回転木馬』は脚本にしても音楽にしても、ひときわ人間の愛の尊さを謳い、叙情的でロマンチックな味わいを持ったミュージカル作品です。音楽の間にセリフが巧みに挿入されていたり、セリフのやりとりのバックには場面を盛り上げる美しい音楽の煌めきがあったり、音楽を聴くだけでファンタジックな情景が浮かびあがってくるようです。

何よりも劇中のそれぞれの音楽やセリフには強い説得力と普遍的な美しさがあります。
『ミスタースノー』のみずみずしい憧れ。 音楽とセリフが美しい叙情詩のように展開される『もしもあなたを愛したならば』。 ジュリーが歌う『子供たちが眠っているとき』の甘く優しい音楽……、慰めと切々たる愁いに満ちた音楽の調べにもしばし心を奪われます。
また、感情の高揚と揺らぎを絶妙に描くビリーの『独り言』。 悲嘆にくれるジュリーを慰める場面とフィナーレの卒業式で旅立ちを励ます場面で歌われる『あなたは決して一人ではない』も一度聴いたら忘れられない心の音楽となるに違いありません。

それに加えて、管弦楽も細部までよく書かれていて、芸術的な香り高い作品となっています。たとえば序曲一つをとっても、『南太平洋』や『王様と私』ではインストゥルメンタルの組曲になっているのに比べ、『回転木馬』では正調なワルツ形式で、中間部や展開部を持つ純粋な序曲になっているのです。

ひとつひとつの場面が絵本をめくるような雰囲気や余韻があり、まるで大人のお伽話のように眠っていた感性を刺激してやみません。あらゆる条件さえ揃えば、この独特の世界に入り込んだあなたは、きっと驚くような感動を受けることでしょう。


魅力的な舞台を
演出するのが難しい作品

ただし、その条件は結構ハードルが高いといえます。
まず主役のジュリーとビリーが劇のイメージに相応しい充分な歌唱力と演技力を備えていなければならないこと。またオーケストラの関わりがとても大きい作品なので、通常クラシック演奏を行うようなフルオーケストラが望ましいことです。ダイナミックなサウンドと繊細な響きを硬軟自在に表現でき、ミュージカルの演奏にも慣れていれば言うことありません。そして何よりも演出と振付が回転木馬の世界観、本質をしっかり掴んで的確に表現することがあげられるでしょう。

現在あるCDやDVDの中では2013年4月26日、リンカーン・センター(ニューヨーク)でのライブがブロードウェイミュージカルの粋を結集した感動的な公演と言っていいでしょう。

特徴的なのはステージ上にオーケストラ(ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団)を持ってきて、役者さんと歩調を合わせながら、幻想的で夢のあるステージづくりに大いに華を添えていることです。これでこそ、このミュージカルの良さが発揮されるというものでしょう。 ジュリー役のケリー・オハラをはじめとする歌手たちも粒ぞろいで、味わい深い歌と演技を繰り広げています。
残念なのは直輸入盤なので、 DVD再生のリージョンコードが日本とは違うところがかなりのマイナスポイントなのと、やはり字幕が無いところでしょうかね……。それがクリアーできれば文句なしのおすすめなのですが。

音楽CDとしておすすめできるのは1993年のロイヤル・ナショナル・シアター(ロンドン)で再演されたロンドンキャストによるスタジオ録音盤しかありません。まず、オーケストラの色彩豊かで温かみのあるサウンドがミュージカルにぴったりです! そして、終始心地よい流れと雰囲気を作りながら、歌手たちをサポートしていくのですが、本当に見事ですね。 序曲の拡がりのある響きとサウンドは最高といえるでしょう。
出演した歌手たちはいずれも水準が高く、ビリー、ジュリーをはじめとして、まったく違和感なく私たちの心を回転木馬の世界に導いてくれます!

音質も非常に良く、回転木馬の名曲を味わうには最高の一枚と言えるでしょう!


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