ミサ曲というカテゴリーで
創造の翼を羽ばたかせるハイドン
以前お話したことがありますが、ハイドンのミサ曲はミサの要素だけにとらわれない、宗教音楽という枠や概念を超えているところが魅力としてあげられると思います。つまりミサ曲というカテゴリーの中で、思う存分創造の翼を羽ばたかせているといってもいいでしょう。
この通俗名「大オルガンミサ」も、いかにもミサを彷彿とさせる形式と清廉なメロディラインを持っているのですが、一般的なミサ曲と比べると音楽的な拡がりや聴き応えが大いに違います。
「大オルガンミサ」はカトリックの典礼に準じた正統的なミサ曲なのですが、音楽的、芸術的な指向性は決してそこに留っていません。あくまでも未来に向かって音楽は動き、進んでいるのです。
まず、キリエの優しく微笑みかけるような柔和な旋律に思わず心惹かれます! 特に主題に劇的な変化や転調があるわけではないのですが、音楽は一瞬たりとも単調になることなく、拡がり発展していきます。そして何と豊かな情感が息づいていることでしょうか……。
グローリア、クレド、サンクトゥス、ベネディクトゥスのいずれも穏やかで安らぎに溢れたメロディはハイドンの抜群の構成と相まって心を和ませてくれます。そして時折ハイドン得意のフーガを絡ませて大いに作品を盛り上げていくのです。
そしてアニュス・デイです! ここは「大オルガンミサ」で最も魅力に溢れた音楽といえるでしょう。冒頭の部分は陰影に満ちていて、喜びや哀しみ、慰め…がゆるやかに噛みしめるように回想されます。とても印象的な部分ですね……。これに続く主題のコントラストも見事です。まるで涙を拭って、新たな希望の道筋へ向かっていくようではないですか…。
以上のように、この作品は典礼重視の作曲スタイルとはいえ、何度聴いても飽きることがないでしょう。ただただ、ハイドンの芸術的な処理のうまさに感嘆するしか言葉がないのです。
豊かで透明感に溢れた
プレストン盤
この作品もサイモン・プレストン指揮エンシェント室内管弦楽団、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊(DECCA)をあげたいと思います。先日、紹介したヴィヴァルディのグローリアよりも作品に密度があり、充実感があるためさらに魅力的な演奏に仕上がっています。
ソプラノのジュディス・ネルソン、テノールのマーティン・ヒル、コントラルトのキャロライン・ワトキンソン、バスのデヴィッド・トーマスはプレストンのタクトの下、実にスッキリと溶け合った響きを醸し出してくれます。二重唱、三重唱の歌がごく自然な声の響きとして何の違和感もなく引き出されていることは一つの驚きです。
また、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊のまろやかで優しい声の響き! この作品を天上的な響きに磨き上げてくれた最大の功労者と言ってもいいでしょう。心の動きが伝わってくるような繊細な情感や温かみのある音色も実に見事です!
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