2017年10月30日月曜日

セザンヌ 「モンジュルーの曲がり道」










創造的な試みが充満している
セザンヌの絵

この絵を見て瞬間的に感じるのが、「何て絵心を刺激する絵なんだろう!」ということです。私は絵筆を置いて久しいのですが、この絵を見ると、どういうわけかもう一度描いてみたいという気持ちが少なからず起こってくるのです……。
そんなこと言ったら、「この絵がどうして絵心を刺激するの?」、「そうかな?」と言う声も聞こえてきそうですね…。

どうしてなのかと言えば、この絵のあらゆる部分に様々な創造的な試みが充満しているからでしょう。つまり絵としての魅力が見れば見るほどに伝わってくるのです。
もしかしたら自分もこの絵の端くれみたいなものが描けるかもしれない?(まず無理なことでしょうけれど…)という親近感を抱かせることも大きいかもしれません。

皆様がご存知のようにセザンヌはあたりまえのように風景を描写したのではありません。
セザンヌの絵を見ていつも思うのが、無造作に積み重ねられた色彩面が醸し出す美しさが際立っていることです。彼は自然から感知した規則性や法則を自身の感性のフィルターを通して絵の中に抽出してみせているのです。

特に印象的なのは画面全体の3分の2を埋め尽くそうかという木々の緑です。
何度も塗り重ねられた緑は多様な表情を映し出し、色彩の変化や陰影の面白さをみせてくれます。また、セザンヌ独自の幾何学形態的な描写法と絵の具を塗り残す筆のタッチが、時として風がそよぎ、揺らいでいるように見え、大気の流れのように感じさせてくれたりもするのです。

緑に挟まれる形で配置されているクリーム色とオレンジを基調にした暖色系の家屋は周囲の緑との色彩の響き合いや対比の中で強い存在感を放っています。
その他、創造的な試みがあれやこれやと結集した、見れば見るほどに味わいが増してくる絵といっていいでしょう!

2017年10月23日月曜日

ロジャース&ハマースタイン  『王様と私』











ブロードウェイの
古典的傑作

『王様と私』は1951年に公開されたブロードウェイミュージカルですが、5年後に公開された映画は、ブロードウェイと同じ王様役を演じたユル・ブリンナーの独特の個性と存在感で、このミュージカルが持つ魅力と知名度を一躍世界に知らしめたのでした。
現在でもブロードウェイではたびたび上演されていて、その人気の高さがうかがえますね。

ミュージカルは演技や振付も大変重要な要素の一つですが、それと同じかそれ以上に重要な要素が音楽や歌です。
『王様と私』はリチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン2世のゴールデンコンビによって制作されたミュージカルの傑作ですが、この作品の成功は音楽抜きにはまず考えられないでしょう。 巧みなストーリー展開や登場人物の性格づけがオリエンタルムードをテーマにした音楽によってうまく引き立てられているのです。

またオリエンタル調のテーマと叙情的なバラード、コミカルな歌とのさじ加減が絶妙で、いい意味で均衡がとれているのです。しかも音楽が無理なく心に溶け込んできて、聴く喜びで満たされていきます。

印象的な曲をざっとあげると次のようになるでしょうか……。

純真な乙女心が瑞々しく漂うタプティムの『My Lord And Master』。しっとりとした情感が忘れ難いアンナの『Hello, Young Lovers』。アンナが子供たちに寄り添うように歌う『Getting To Know You』。ルンタとタプティムの美しいバラード『We Kiss In A Shadow』、『I Have Dreamed』。そして今やスタンダードナンバーとして名高く、粋なセンスや夢が拡がる『Shall We Dance?』等々、それぞれに時が経つのを忘れてしまうような味わい深い名曲が目白押しです。


忘れ難い1992年の
スタジオキャスト盤

『王様と私』で真っ先におすすめしたいのが、1992年のスタジオキャストレコーディングによるCDです。
ミュージカルのCDは出来るだけ舞台のイメージを膨らませてくれたり、ストーリーの展開が伝わってくるようなレコーディングこそ相応しいのではないでしょうか…。
映画や舞台のイメージを美しく甦らせる効果があるとするならば、このCDは最高の一枚と言っても決して過言ではないでしょう。

何といっても素晴らしいのがアンナを演じたジュリー・アンドリュースです。アンドリュースは『王様と私』のアンナ役に長年恋い焦がれてきたそうですが、舞台ではなかなかその願いも叶わず、ようやくこのスタジオキャストアルバムで念願が叶ったのでした。

その想いの強さは彼女の歌に溢れ出ているといっていいでしょう! 歌声からこぼれ落ちる気品と聴く者を引き込まずにはおかない豊かな表現力と情感! 中でも『Hello, Young Lovers』は語りかけるような歌い方や一小節ごとに表情が変わる柔軟さが最高で、他の歌手が歌った同曲は、どうしても色褪せてしまいます……。

アンドリュースだけでなく、王様役の名優エドムンド・キングスレーやディズニー映画の歌姫レア・サロンガ、グラミー賞歌手ピーボ・ブライソン、ディーヴァとして難曲に幾度も挑戦してきたマリリン・ホーンと適材適所に豪華なキャストを配していて、その聴き応えや満足度は途轍もなく高いですね!

特にレア・サロンガは素直な歌い方と透明感溢れる声の響きが涼やかな風のように心地よく、心を癒やしてくれます。

ハリウッドボウルオーケストラの、舞台の情景が眼前に浮かんでくるような色彩豊かで情感たっぷりの演奏も素晴らしく、ミュージカルの真髄を心ゆくまで味わせてくれます。間奏部分でのヴァイオリンのソロ等はちょっと泣かせてくれますね……。

この録音の成功の要因は完成度を高めるために決して妥協せずに、スタッフ、関係者が随所に徹底的にこだわり抜き、誠実な作業を遂行したところが大きなポイントなのかもしれません。

2017年10月17日火曜日

「生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展」














形や模様に対する飽くなき追究と
調和とバランスを見出す面白さ

エッシャーの展覧会が来年6月の東京・上野を皮切りに各地で開催予定です。

エッシャーと言えば「だまし絵」で有名ですが、もちろん漠然とトリック手法的な絵を描いた訳ではありません。
そこには形や模様に対する飽くなき追究がありますし、調和とバランスを見出す面白さや発見があるのです。

スペインのアルハンブラ宮殿で見たモザイク模様の数々に心奪われて、何度も訪れるうちに、彼はモザイク模様の探求を生涯をかけたテーマとして認識するようになります。代表作の『滝』や『相対性』はエッシャーのモザイクや幾何学形態的な考え方が行き着いた一つの結論と見ていいかもしれません。

2018年で生誕120周年となり、日本国内ではそれを記念して大規模な回顧展が開催されることとなりました。今回はイスラエル博物館のコレクションから代表作や、初期に関わった作品、直筆のドローイング等、貴重な資料も含めて、150作品が公開される予定です。乞うご期待!




生誕120年 イスラエル博物館所蔵 
ミラクル エッシャー展

期間:2018年6月6日(水)~7月29日(日)
会場:上野の森美術館
住所:東京都台東区上野公園1-2

※大阪・福岡ほか巡回予定

2017年10月7日土曜日

ハイドン ミサ曲 第2番 変ホ長調「祝福された聖母マリアのミサ」:大オルガンミサ












ミサ曲というカテゴリーで
創造の翼を羽ばたかせるハイドン

以前お話したことがありますが、ハイドンのミサ曲はミサの要素だけにとらわれない、宗教音楽という枠や概念を超えているところが魅力としてあげられると思います。つまりミサ曲というカテゴリーの中で、思う存分創造の翼を羽ばたかせているといってもいいでしょう。

この通俗名「大オルガンミサ」も、いかにもミサを彷彿とさせる形式と清廉なメロディラインを持っているのですが、一般的なミサ曲と比べると音楽的な拡がりや聴き応えが大いに違います。

「大オルガンミサ」はカトリックの典礼に準じた正統的なミサ曲なのですが、音楽的、芸術的な指向性は決してそこに留っていません。あくまでも未来に向かって音楽は動き、進んでいるのです。

まず、キリエの優しく微笑みかけるような柔和な旋律に思わず心惹かれます! 特に主題に劇的な変化や転調があるわけではないのですが、音楽は一瞬たりとも単調になることなく、拡がり発展していきます。そして何と豊かな情感が息づいていることでしょうか……。

グローリア、クレド、サンクトゥス、ベネディクトゥスのいずれも穏やかで安らぎに溢れたメロディはハイドンの抜群の構成と相まって心を和ませてくれます。そして時折ハイドン得意のフーガを絡ませて大いに作品を盛り上げていくのです。

そしてアニュス・デイです! ここは「大オルガンミサ」で最も魅力に溢れた音楽といえるでしょう。冒頭の部分は陰影に満ちていて、喜びや哀しみ、慰め…がゆるやかに噛みしめるように回想されます。とても印象的な部分ですね……。これに続く主題のコントラストも見事です。まるで涙を拭って、新たな希望の道筋へ向かっていくようではないですか…。

以上のように、この作品は典礼重視の作曲スタイルとはいえ、何度聴いても飽きることがないでしょう。ただただ、ハイドンの芸術的な処理のうまさに感嘆するしか言葉がないのです。


豊かで透明感に溢れた
プレストン盤 

この作品もサイモン・プレストン指揮エンシェント室内管弦楽団、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊(DECCA)をあげたいと思います。先日、紹介したヴィヴァルディのグローリアよりも作品に密度があり、充実感があるためさらに魅力的な演奏に仕上がっています。

ソプラノのジュディス・ネルソン、テノールのマーティン・ヒル、コントラルトのキャロライン・ワトキンソン、バスのデヴィッド・トーマスはプレストンのタクトの下、実にスッキリと溶け合った響きを醸し出してくれます。二重唱、三重唱の歌がごく自然な声の響きとして何の違和感もなく引き出されていることは一つの驚きです。

また、オックスフォードクライストチャーチ聖歌隊のまろやかで優しい声の響き! この作品を天上的な響きに磨き上げてくれた最大の功労者と言ってもいいでしょう。心の動きが伝わってくるような繊細な情感や温かみのある音色も実に見事です!

2017年9月28日木曜日

『シネマ・アンシャンテ』ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン デジタル・リマスター版特集上映!








歓びも哀しみも、すべてが夢のように美しい 
フレンチシネマ史上至高の映像と
音楽のコラボレーション4作品を一挙上映

ついにリバイバル上映が決定しました!

恵比寿ガーデンシネマを皮切りに上映される『ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン デジタル・リマスター版特集上映!』がそれです。これは『ロシュフォールの恋人たち』が公開50周年にあたることと、作曲のミシェル・ルグランが生誕85周年になるのを記念してデジタル・リマスター版で装いも新たに公開されるそうですね。今回は東京、横浜、名古屋、大阪、京都と全国5か所で公開されます。

ジャック・ドゥミとミシェル・ルグランといえば、映像と音楽のコラボが最高に美しく、夢のようなひとときを約束してくれる名コンビでした。今回のシリーズでは絶頂期の作品をはじめ、魅惑の作品が組まれています。

まずはシリーズの顔になっている1965年の『ロシュフォールの恋人たち』。サントラ盤に収められたほとんどすべてのナンバーがスタンダードナンバーといってもいいほどに愉しく充実した名曲揃い! しかもカトリーヌ・ドヌーブとフランソワーズ・ドルレアックの実の姉妹やジーン・ケリー、ジョージ・チャキリス等の多彩な顔ぶれが歌って踊る楽しいミュージカルになっています。

その他、息をのむほどに美しい映像と音楽との豊かな共鳴が忘れがたい余韻を残す『シェルブールの雨傘』。幻想の世界を彷徨うような大人のファンタジー『ロバと王女』、池田理代子の大ヒット漫画を実写化し、公開当時は酷評されたものの、今やその良さが再認識されつつある『ベルサイユのばら』(今回初デジタル・リマスター化)もラインナップされています。

秋の夜長、じっくりとフランスシネマの傑作に浸る至福を味わいたいものです。



2017年9月24日日曜日

フラゴナール 読書する娘











抜群の構図と
目の覚めるような
美しい色彩

「印象に残る人物画は何ですか?」と尋ねられたら、この絵を思い出されるかたは少なくないでしょう。

知らない人はいないのでは?……と思えるほど、『読書する娘』は絵柄としても有名ですし、説明は不要なくらいにありとあらゆる媒体や印刷物に使われていることは皆さん承知の事実です。もはや本を読む人の永遠のイメージ像として定着してしまったような感じさえありますね。

時に絵の善し悪しは構図と配色で決まってしまうともいわれますが、この絵は構図が抜群です!しかも配色が目も覚めるほどに美しい!

特に全体を大きく三角形で結ぶ構図が読書にふける女性の静謐で穏やかな雰囲気を決定づけています。それだけではなく、頭から腰にかけて連なるいくつかの三角形の構図が女性らしさや気品を印象づける重要な働きをしているのです。

女性を上手に描く人は世の中にたくさんいるかもしれません。けれどもフラゴナールのように女性の魅力を存分に引き出して、甘美な夢を見させてくれる人は少ないことでしょう……。

横向きにもかかわらず、フラゴナールの女性像はまるで目の前に座っているかのように情感豊かで生き生きとしたメッセージを伝えるのです。

本当に伝えたいメッセージを表現する上で、ロココ時代の絵によく見られる過度な装飾や演出は逆効果になることをフラゴナール自身もよく理解していたのでしょう。

細部のこだわりを捨てたダイナミックで素早いタッチの描写がデリケートでセンス満点な彩色とあいまって、最高に魅力的な女性像を作り上げているのです。


2017年9月15日金曜日

グリーンアクアリウム展














大自然の森のようなアート

幼い頃、箱庭を見たり、作ったりするのが大好きでした! あの箱庭で展開される小さな宇宙はいったい何だったのでしょう……。今思い出しても、とても不思議で可愛らしかったですね。

さて、発想はかなり近い感覚なのでしょうけれども、現在、神奈川・武蔵小杉駅近のグランツリー武蔵小杉で「グリーンアクアリウム展」なるものが開催されています。これは何かというと、熱帯魚や淡水魚、水草、サンゴ、岩などを使って、水槽の中に美しい世界を作り出すことだそうです……。

今回のイベントの主役、アクアリスト(アクアリウムを制作する人たち)と呼ばれる人たちは現在、欧米を中心に世界中で活動しており、”アート作品”と呼ぶにふさわしい、幻想的な水中世界を創造しているのだそうです。

イベントでは世界有数のAQUARIST6名が監修した作品が展示されています。まるで水槽内に出現した大自然の森のような……、アート作品として表現された今までにないイベントですね。
写真を見る限り、とても美しいし、愉しそうですね!童心に帰ったつもりで見てみようかな……。もしかしたら、疲れた心が癒やされたり、何らかの気づきがあるかもしれません!



【開催概要】
グリーンアクアリウム展
開催期間:2017年9月13日(水)~2017年10月9日(月・祝)
営業時間:10:00~21:00 (最終入場 20:30)
観覧料:一般(中学生以上) 500円/小学生 300円/幼児(小学生未満) 無料
チケット販売:
・8月21日(月)~ セブンチケットにて販売
・9月13日(水)~ グランツリー武蔵小杉内チケットカウンターにて販売


■ワークショップ
開催日:2017年9月17日(日)、9月18日(月・祝)、9月24日(日)、10月1日(日)、10月8日(日)、10月9日(月・祝)の6日間
時間:10:00~/11:00~/13:00~/14:30~/16:00~/17:30~(所要時間 約1時間)
定員:各回12名 ※混雑時には予約制
参加料:3,000~5,000円+税 ※グラス水槽・材料込み
支払い方法:参加時にワークショップ会場にて現金での支払い