2013年1月16日水曜日

エル・グレコ展



名画『無原罪のお宿り』が初来日/エル・グレコ展



サン・ニコラス教区聖堂(サンタ・クルス美術館寄託)
トレド、スペイン / 1607-1613 年/ 347×174cm /
© Parroquia de San Nicolás de Bari. Toledo. Spain.





 エル・グレコは17世紀のベラスケスや18世紀のゴヤと並び、世界に名だたるスペインの巨匠の系譜を代表する画家です。ベラスケスの絵が気品に溢れたクラシカルな正統的絵画の代表であるとすれば、グレコの絵は大胆な構図やデフォルメ、輝かしい色彩で宗教画に革命をもたらしました。ピカソ、シャガールをはじめとする現代の画家たちにも大きな影響を与えています!
 昨年の大阪展に引き続き、今回の「エル・グレコ展」では彼の名画「無原罪のお宿り」が出品されるそうです。16世紀の情熱の画家、エル・グレコの世界に触れる絶好の機会かもしれません。



 没後400年を迎えるスペイン絵画の巨匠エル・グレコの大回顧展。

 エル・グレコ(本名ドメニコス・テオトコプーロス、1541~1614年)は16世紀から17世紀にかけてのスペイン美術の黄金時代に活躍し、ベラスケス、ゴヤとともにスペイン三大画家の一人に数えられます。ギリシャのクレタ島に生まれ、ヴェネツィア、ローマでの修行を経てスペインのトレドにたどりついたエル・グレコは、揺らめく炎のように引き伸ばされた人物像が印象的な宗教画や、モデルの人となりをも描き出す独自の肖像画で、当時の宗教関係者や知識人から圧倒的な支持を得ました。ピカソら20世紀の巨匠たちからも、その作品は高く評価されています。
 本展覧会では、プラド美術館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館など、世界の名だたる美術館やトレドの教会群から油彩およびテンペラ画51点が集結。高さ3メートルを超える祭壇画の最高傑作の一つ《無原罪のお宿り》も初来日し、国内史上最大のエル・グレコ展となります。[美術館サイトより]


会場               東京都美術館 
                     東京都台東区上野公園8-36
会期               2013年1月19日(土)~4月7日(日)
入場料            一般=1,600(1,300)円
                     学生=1,300(1,100)円
                     高校生=800(600)円
                     65歳以上=1,000(800)円
                     *( )内は前売/20人以上の団体料金
                     *中学生以下は無料
                     *障害者とその介護者1名は無料(要障害者手帳)
休館日            月曜日(ただし、2/11は開館)、2/12(火)
開館時間         9:30~17:30(金曜日は20時まで開館)
                     *入館は閉館の30分前まで
問い合わせ     tel. 03-3823-6921
主催               東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、NHK、
                      NHKプロモーション、朝日新聞社後援:外務省、スペイン大使館





2013年1月8日火曜日

ヘンデル ハープ協奏曲変ロ長調



 


 いよいよ2013年のスタート‼
 遅ればせながら、新年のご挨拶をさせていただきたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 新年になると「新しい出発だから気難しくなく、暗くなく、わかりやすく美しい曲を聴きたい」と身勝手な願望を抱いたりするものです……。
 でも、その願望にしっかりと添えられる曲があります! それはヘンデルのハープ協奏曲です。この曲は何度も聴いているのですが、変な理屈っぽさがまったくありません。何て美しくエレガントな曲でしょうか! しかも曲は親しみやすくたちどころに聴く人の脳裏に刻まれ、心にも記憶される名曲中の名曲です! ハープの音色は他の楽器にはない雅びな雰囲気があって、新年のスタートには最高かもしれません。

 おそらく、ほとんどのハーピストはこの作品が好きでしょうし、演奏のプログラムには必ず入れたいと思うことでしょう。これほどソリストの心を捉えて離さない作品も珍しいのではないでしょうか。
 この作品(特に第1楽章)はいろんなところで巧みにBGMとして使われており、知らない人はいないのではないでしょうか! それくらい有名で、「あっ、あの曲か!」と誰もがうなずかれることでしょう。

 まず旋律がハープの音色にピッタリで、聴いていてなぜかとても心が軽くなってくるのです……。何よりもハープからつまびかれる音に輝きと気品があり、瞑想的な美しさにも満ちているのです! 特に第2楽章の高貴な香りと夜のしじまに奏でられるようなハープの独奏や陰影に彩られた格調高い雰囲気は最高です。

 第1楽章、第2楽章もハープの美しさが見事に生きており、3楽章合わせても10分少々で、至福の時間はあっという間に過ぎてしまう感じです!

 演奏はリリー・ラスキーヌのハープとパイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団(エラート)の演奏が数十年経った現在でも定番と言えそうです。何よりもラスキーヌの天上の調べのようなハープの美しさは今もって最高です。特に第2楽章の美しさは絶品で、凜として典雅な響き、繊細な表情が曲の美しさをくまなく引き出しています。
 ただ残念なことに、現在のところラスキーヌの演奏したハープ協奏曲は廃盤が多く、なかなか手に入りにくいかもしれません。CDショップ等で確認していただき、入荷されるのを気長に待っていただくのがいいでしょう……。


2012年12月31日月曜日

テレマン 2つのフルート、2つのオーボエと弦楽のための協奏曲変ロ長調 TWV54:B2






 テレマンはバロックを代表する大作曲家であり、その音楽の魅力ははかり知れません。実際テレマンが活躍していた当時の名声はかなりのものだったようで、事実上当代最高の作曲家と言っても過言ではなかったのでした。しかし、今「テレマン」と言ってもどれだけの人がその作品を知っているのでしょうか?

 今やバッハやヘンデルの後塵を拝し、ヴィヴァルディやスカルラッティに比べても知名度ではかなり後れをとるようになってしまったのですが、作品そのものは素晴らしく本当の意味でバロック音楽の真髄を伝えてくれる作曲家なのです。
 テレマンの特徴としてはバッハにやや似たドイツバロック的な毅然とした雰囲気もあり、ヘンデルに似た大らかで自由な曲のスタイルを持っていたりもするのですが、彼らほどストイックではなく、真に音楽を聴く喜びを素直に伝えてくれるのです。

 テレマンの作品では何と言っても「ターフェルムジーク」が別格的に有名です。この「ターフェルムジーク」は様々な独奏楽器が活躍し、しかも自由な音楽形式で成り立っており、その多様な曲のバリエーションと発想の豊かさには驚かされます!

 今回とりあげるのは「2つのフルート、2つのオーボエと弦楽のための協奏曲」です。これは肩の凝らない良くまとまった逸品ですね!この作品では何と言っても楽器のコラボが優しい対話のように進行し、とても愛らしく親しみやすい雰囲気を作りあげているのです!

 4楽章から成っているのですが、全曲を通してもせいぜい10分少々の作品です。 それでも疲れたときに聴くと、何と優しく懐かしいメッセージとなって語りかけてくれることか……。
 曲の流れ、テンポもよく、テレマンをこれから聴き始めようとされる方にはうってつけの作品かもしれません。

 録音はホリガー(オーボエ)、ニコレ(フルート)、フューリー指揮カメラータ・ベルン他(Archiv)がソリストたちの呼吸の素晴らしさと表情の豊かさ、曲に対する共感の深さで絶品です! 作品の魅力を最大限に引き出した稀有な名演奏と言えるのではないでしょうか!





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2012年12月21日金曜日

ヘンデル オラトリオ「サウル」追加








 「サウル」は以前もお話しましたように、ヘンデルのオラトリオの中でも屈指の傑作ですが、それだけでなく彼のすべての作品を含めても最高傑作の一つと言っていいのではないかと思います。たとえば、冒頭の序曲に続く10分ほどにも渡る民衆の声を表現した壮大な合唱やフィナーレのダビデを讃える合唱等はそれだけでも血湧き肉躍る感じですね! 最近のCDではヤーコブス、マクリーシュ、ブッダイ、リリングと充実した名演奏が相次いで世に出されました。隠れた名曲が再認識される意味でも、これは本当にうれしいことですね!

 ヤーコブスやブッダイの演奏を聴いた時に、当分はこれ以上の演奏は現れないだろうと思っていましたが、そう思ったのもつかの間、今年の後半になってさらに凄い演奏が現れました。それがハリー・クリストファー指揮シックスティーン(coro)の演奏です!

 ヘンデルの「サウル」は音楽的にもストーリー的にも内容が濃く充実した作品ですので、上っ面を撫でたような演奏では到底満足することは出来ません。クリストファーズとシックスティーンの演奏はこれまで「エステル」や「サムソン」、「メサイア」(いずれもHyperion)等のヘンデルのオラトリオの録音があり、たびたび聴いたりもしました。
 クリストファーズの端正な指揮やシックスティーンの抜群の音楽性とテクニックは誰もが認めるところでしょうが、正直言って今まで彼らの演奏で感動したことはほとんどありませんでした。表現があっさりしているというのか、「もっと作品の魂の部分に迫ってほしい……」、という物足りなさをいつも感じていたのです。

 しかし2000年以降録音された最近のディスクはこれまでとは違い、一皮も二皮も剥けた素晴らしい演奏を繰り広げるようになったのです。その代表例がビクトリアの「聖週間のレスポンソリウム集」やヘンデルの「メサイア」、「シャンドス・アンセム」(いずれもcoro)なのですが、かつての録音とは比べものにならないくらい深みを増し、表現にも磨きがかかってきました。

 ところでこの「サウル」は何が凄いのかというと、まず楽器をしっかり鳴らし、豊かで堂々たる響きを生み出していることでしょう!しかも奇を衒わない正攻法なスタイルがとても心地よく、「サウル」の演奏によくありがちな重苦しい雰囲気がまるでありません。基本的にクリストファーズはむやみやたらに大音量で圧倒するのではなく、作品をよく理解した上で自然に導き出された実在感のある響きを実現しているのです。

 「サウル」は決して深刻なドラマではありません。したがって演奏が暗くなってしまうと最後まで聴き通すのが辛くなってしまいます。特に「サウル」は大作だけに、劇中に出てくる様々な音楽的要素がうまく処理されないと音楽の流れが緩慢になってしまうのではないでしょうか。そのような点でクリストファーズの解釈や演出は最高で、最後まで胸をワクワクしながら聴き通すことができるのです!

 そして、シックスティーンの合唱の素晴らしさ! 特に第一部の最後の合唱「栄光に満ちたあなたの名のため」のゾクゾクするような神秘的で透明感の際立つ歌声!! こんなアプローチがあったのかと感心してしまいますが、おそらく中世やバロックのミサ曲や聖歌を真摯に研究し歌ってきた彼らだからこそ、こんなに崇高でしっとりとした表現が可能だったのかもしれません。
 ここだけに限らず、第二部の最後の合唱「ああ、怒りを抑えられずに」、フィナーレの「権力ある英雄よ」等、変幻自在な歌唱スタイルと虹のように溶け合う至純のハーモニーが合唱の奥深さと醍醐味を実感させてくれます!
 また、通常カウンターテナーで歌われることの多いダビデですが、ここではアルトのサラ・コノリーが歌っています。コノリーは繊細で奥ゆかしい表情を見事に表現しており、カウンターテナーではもの足りないと思われていた方にとっても最高の贈り物となったのではないでしょうか。
 とにかく録音、歌、雰囲気どれをとっても最高で、音楽を聴く喜びを改めて実感させられたひとときでもありました。






2012年12月15日土曜日

「森と湖の国フィンランド・デザイン」 



生活に密着したデザイン

Candlestick 6405 FRANCK, KAJ



 最近、北欧のデザインが元気ですね!雑誌やカタログ、街中でよく見かけたりと、日々の生活で眼に入らない日がないと言ってもいいのではないでしょうか? 特にフィンランドのデザインは生活に密着しているというか、デザインやフォルムに無理がなく飽きが来ないように思います。
 フィンランドと言えば、皆さんは何を思い起こされるでしょうか? 「年中寒い国」、「ムーミンの生まれ故郷」、「携帯ブランドNOKIAの国」、「ビレンやニッカネンのようなスーパーアスリートが輩出される国」、「森と湖の国」、「オーロラの美しい国」等々、どれもフィンランドの特徴の一つであることに変わりありません……。

 でも今、間違いなく注目されているのが、「生活に溶け込むデザイン」を生みだし続けているプロダクトデザインにあるのではないでしょうか。中でも「機能性に優れ、シンプルでかつ美しい」というデザインの理想形を実現しているのがフィンランドのガラス食器ではないかと思います。カイ・フランクを筆頭としたフィンランド・グラスアートの伝統は厳しくも豊かな自然と人間性が溶け合って誕生し、今に受け継がれているのです!

 決して強烈な個性をアピールするわけではないのだけれど、ここに確かな存在感、時代を超えて語り続けられるようなモノ作りの原点があるのではないでしょうか。 この展覧会「森と湖の国フィンランド・デザイン」は18世紀後半~1920年代を黎明期、1930年代を躍進期、1950年代を黄金期、196070年代を転換期、その後~現代と時系列で区切り、その時代を代表する作品を紹介しています。

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 フィンランドのガラスや陶磁器、家具の数々は、機能性を重視しつつ、美しさも兼ね備えています。なかでも“timeless design product(時代を超えた製品)”をコンセプトに作られてきた生活用品は、私たちの暮らしに洗練されたデザイン性をもたらし、まさに「生活の中の美」といえるでしょう。20世紀前半から台頭したフィンランドのデザインは、アルヴァル&アイノ・アールト夫妻、カイ・フランク、タピオ・ヴィルッカラ、ティモ・サルパネヴァら優れたデザイナーを輩出し、特に1950年代からは国際的な評価を得て、現在に至ります。彼らを取り巻く美しい自然と風土は、時に創作のインスピレーションとなり、作品や製品の色となり形となって溶け込んでいきました。 本展は、こうしたフィンランド・デザインの魅力を、18世紀後半から現代に至るガラス作品を中心にご紹介します。森と湖の国のデザインが繰り広げる世界を、クリスマスの到来とともにお楽しみください。[美術館サイトより]


会場    サントリー美術館 
      東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3F
会期    2012年11月21日(水)~2013年1月20日(日)
入場料   一般=1,300(1,100/1,200)円
      高大生=1,000(800/900)円
      *( )内は前売/20人以上の団体料金
      *中学生以下は無料
休館日   火曜日、12/30~1/1
開館時間  10:00~18:00(金・土および12/23(日)、
      1/13(日)は20時まで開館、12/28と12/29は年末のため18時まで開館)
      *入館は閉館の30分前まで
問い合わせ tel. 03-3479-8600(ハローダイヤル)
主催    サントリー美術館、朝日新聞社




2012年12月9日日曜日

企画展「田中一光とデザインの前後左右」



クリエイティブに対する深い認識とポリシー





   早いものでグラフィックデザイナー田中一光が亡くなってからちょうど10年になりました。田中さんが広告、グラフィック界に与えた影響ははかりしれませんが、今まさにその功績が再評価されようとしています。
  現代はキレイに洗練された感覚でデザインをしたり、モノを作るテクニックに冴えた人が多い時代です。しかし、センセーショナルな感性や独自のポリシーを訴えることのできる人が少ない時代でもあります。

  戦後のグラフィック界に大きな足跡を残した田中さんの作品は、シンプルで洗練されているけれど見る人の心に深く刻まれるようなメッセージ性のある作品を残してきました。それもきっと田中さんのクリエイティブに対する深い認識とポリシーから生まれたからなのでしょう……

  この展覧会はすでに9月から開催されていますが、このコーナーであえて紹介させていただきました。田中さんのクリエイティブへの愛情や想いを受け止めるためにも貴重な展覧会になるかもしれません。


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日本を代表するグラフィックデザイナー 田中一光(1930~2002)は、伝統の継承から未来の洞察、東と西の国々との交流など、田中自身の言う「デザインの前後左右」を見すえたアートディレクターでもありました。

本展では、田中と仕事を共にしたクリエイティブディレクターの小池一子を展覧会ディレクターとし、琳派、浮世絵、伝統芸能など、市民の文化を熟知し、それらを視覚表現の主題として現代の創作に活写した田中の発想の広がりと表現の着地するさまを多彩にとりあげます。残された膨大な数の作品や資料を検証し、仕事の主軸となるグラフィックデザイン作品を中心に、原画や写真、記録資料など、活動の実際を示す貴重なアーカイブも紹介します。それらを通して、田中一光というクリエイターの人と仕事に迫り、デザイン思想がどのように展開し、表現されたかを探ります。

戦後からの激しい時代を伸びやかに生き抜いた田中一光の創作の軌跡をたどる本展は、現代社会へのメッセージに満ち、これからのクリエイションの新しい方向性と可能性を示唆するものとなるでしょう。(展覧会サイトより)


会場               21_21 DESIGN SIGHT 
                     東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
会期              2012921日(金)~2013120日(日)
入場料          一般=1,000800)円
                     大学生=800600)円
                     中高生=500300)円
                     *( )内は15人以上の団体料金
                     *小学生以下は無料
                     *障害者とその介護者1名は無料(要障害者手帳)
休館日           火曜日(ただし10/3012/25は開館)、年末年始(1227日~13日)
開館時間      11002000
                     *入館は閉館の30分前まで
問い合わせ   tel. 03-3475-2121
主催              21_21 DESIGN SIGHT
                     公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団



中村由利子 ディア・グリーン・フィールド(ピアノソロ・ベスト)








 いつの頃からなのか覚えていませんが、ニューエイジ・ミュージックという音楽のジャンルをこの20年あまりの間、頻繁に耳にするようになりました。 ニューエイジ・ミュージックとは自然や宇宙の調和を促す環境音楽的なイメージであったり、聴く人を癒やすヒーリング効果のある音楽を指すのだそうですね。おそらく、それだけ多くの人が癒やしを求めているということにもなるのでしょう……。
 しかしニューエイジミュージックに明確な音楽スタイルの定義があるわけでもなく、ポップス、クラシック、フュージョン、ボサノバ、ジャズ等、どんなジャンルであっても人を癒やす音楽であるならば、それが即ちニューエイジミュージックということになるのかもしれません……。
 
 ともすれば、ニューエイジで時代を築いたジョージ・ウィンストンやウィリアム・アッカーマン、エンヤといった洋楽のアーティストばかりに目が向けられることが多いのですが、日本にも加古隆、倉本裕基、久石譲、西村由紀江、中村由利子等…、素晴らしいアーティストはたくさんいます。
 今回取り挙げたいのは、写真家の前田真三さんの北海道・美瑛の自然をテーマにした映像作品『四季の丘』に曲を提供したことで話題になった中村由利子さんです。中村さんは最近では韓流ドラマに曲を提供したり、作曲で大変に好評を博しているようです。中村さんの作品には少しウエットな味わいがあり、心のひだに直接触れるような情緒が印象的です。『四季の丘』でも日本人の感性にピッタリな繊細で四季折々の移ろいゆく情感が最高でした。とにかく映像との相性がいいんですよね……。何か映像から詩が生まれてくるような独特の雰囲気を持っているんです。

 中村さんの作品との出会いは20年も前のことになると思います。テレビのCMのイメージ映像が流れてきたのですが、その時流れていたのが「パストラル」だったのです…。何てピュアな世界なんだろう……。そう思いました。眼をつぶっているだけで様々な情景が浮かんできますし、瞑想や回想のシーンが音楽によってゆるやかに心に描き出される体験をしたのです! 
 時にヨーロッパ的な洗練された感覚の楽曲があったり、クラシカルなモチーフを使ったりするのですが、それらが何の違和感もなく曲と溶け合っているところに抜群の音楽センスを感じます。

 今回推薦したいCD「ディア・グリーン・フィールド」は彼女の作品のベストチョイスをピアノのソロをメインに構成しアルバム化したもので、いわゆるアレンジによるベストアルバムと言っていいでしょう。
  驚かされるのは、心の洗われるようなピアノソロの素晴らしさです。ピアノでこれ以上ないくらいに歌っているために、展開部でオーボエやチェロ等の伴奏が出てくると懐かしさや音楽の素晴らしさを実感できるのです!

 もう1枚、「アトリエの休日」のラストに収録されている「賛歌」が本当に見事な出来栄えです。オルガンをバックに幻想的な雰囲気で導き出されるピアノのタッチは時間が止まったような感覚と自分の内面を見つめるような瞬間を与えてくれるのです。そして至福の時を約束してくれることでしょう……。