神秘的な余韻と
甘美なロマンチシズム
「亡き王女のためのパヴァーヌ」は以前、管弦楽曲とピアノ曲をまとめてご紹介したことがありますが、今回はピアノ曲だけに絞って書きたいと思います。
今やこの曲は、TVでさえ番組のBGMやCMで使われることが珍しくありません。クラシック音楽ファンでない方にとっても新鮮に聴こえるようで、「こんなに優雅でノスタルジックな音楽があったのか……」と驚かれる方も少なくないようです。そう、ラヴェルのピアノ作品で最もメロディラインが覚えやすく、しっとりとした情感に溢れているのが「亡き王女のためのパヴァーヌ」なのです。
親しみやすい理由はラヴェルがゆるやかな叙情性を前面に押し出しているため、神秘的な余韻があり、甘美なロマンチシズムが音楽に映し出されているからなのでしょう。
私はこの曲を耳にすると、いつも次のような情景が心に浮かんできます。「穏やかな風が心地よい晴れた夕刻の海岸。静かに寄せては返すさざ波と、キラキラと光る水面の変化を見つめながら時が経つのを忘れて身を浸す悠久なひととき……」。
雰囲気たっぷりで
あるがゆえの難しさ
しかし、繊細で情感豊かなこのピアノ曲は実は演奏が大変難しいことでも有名です。演奏としての個性を出しにくいことと、曲が何度も停止して、少しずつ調を変えながら音楽が進行していく独特のスタイルのため、叙情性に押し流されやすいことがその理由なのでしょう。
ここでは、作品が作品だけに、さすがのフランソワでも奔放に振る舞うということは難しいようですが、それでもしっとりとした味わいの魅力的な演奏です。特に素晴らしいのは音色でしょう。ピアニッシモが胸に響きますし、何とも言えない寂寥感が漂います。終始デリケートな感性が際立つのですが、冴えたタッチで弾かれた部分とのメリハリも効いています!
モニク・アース盤は彼女のラヴェル録音の中で最も優れた演奏ですね。このゆったりした叙情性こそ、彼女の演奏スタイルの本領なのかもしれません。例によって特別なことは何一つしていないのですが、ひたすら真摯に弾くことによって音楽が美しく立ち上っていくのです。
宮沢明子盤は1975年のライブですが、音は良く、真摯に曲に向き合った結果生まれたみずみずしさとはかなさが心に染みます。
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