2015年12月3日木曜日

ラヴェル 『水の戯れ』

















色彩的な音色と
陰影のニュアンス

 雪がしんしんと降る様子やそよ風が顔を撫でる様子など……、何でもないような自然の一コマを気持ちが伝わるように言葉で表現するのは意外に難しいことです。

 同じように、それらを音楽作品として表現するには高い音楽性や研ぎ澄まされた感性が必要とされるのは言うまでもありません。しかもそれを芸術的に意味のある作品にすることはますます容易なことではないでしょう。

 西洋音楽の歴史をひもといても、見慣れた自然の情景をあえて音楽で表現しようという動きはなかなか現れませんでした。つまり、それだけでは作品のテーマにはなりにくいし、表現の限界が見えていると思われてきたからなのでしょう……。

 しかし、20世紀初頭にそれまでと作曲の観点が大きく異なる考えを持つ作曲家たちが現れました。それがドビュッシーとラヴェルです。
 特にラヴェルは印象派的な作品を、先輩ドビュッシーよりも先に作った人でした。その記念すべき作品がここにとりあげるピアノ曲『水の戯れ』なのです。
 何気ない瞬間や、自然の一コマに光をあてて、聴く者の心に美しく残像が広がるように抽象的な和音を駆使した音楽づくりは新鮮でした。それは古典派やロマン派音楽の時間軸を中心にする作曲では想像もつかなかったものでしょうし、どちらかといえば空間軸を基調にした発想といってもいいかもしれません。

 「水の戯れ』は水が醸し出す穏やかで瑞々しい主題で始まりますが、やがて水の流れは刻一刻と変化し驚くほど様々な表情を映し出します。特にクライマックスの部分で光を浴びて七色の虹のように輝きはじける瞬間は夢幻的な美しさを目一杯味わせてくれるのです。

 正味5、6分の作品ですが、色彩的な音色と陰影のニュアンスが織りなす美しさは絶品で、音楽の表現の可能性を押し広げた役割はとても大きいといえるでしょう。



枠にはまらない
自由で即興的な表現が
音楽を生かす

 このような作品ですから、どうもドイツ・オーストリア系の古典的なピアノの奏法とはあまり相性が良くありません。どちらかと言えば一般的に巨匠と呼ばれるピアノの大家よりも天才的な感性の持ち主、美しい音色のタッチを持ち味とするピアニストのほうが素晴らしい名演奏を残しています。

 中でも印象的なのはサンソン・フランソワとマルタ・アルゲリッチの演奏です。二人とも天才的な感性とデリカシーの持ち主ですが、この作品との相性はすこぶるいいようです!

 まず、フランソワの演奏(EMI)は研ぎ澄まされた音色が全編で冴え渡っています。奏でられる音色からは、移り変わる水の表情が的確に捉えられているではありませんか!透明感あふれるピアノのタッチが曲の本質に深く入り込んでいるところも見事です。

 これほどスピーディーに演奏されると、音楽の本質が置き去りにされるのでは……と心配になってくるのですが、まったくそうならないところがアルゲリッチの凄いところです。デリカシーあふれる音色は神秘的といえるくらい美しい表情を生み出しています!





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