重厚なロマンの香りと
勇壮な迫力!
ロマン派の大作曲家シューマン。そのシューマンが重厚なロマンの香りを最大限に発揮した交響曲が第3番「ライン」でしょう。
まず驚くのが、何かが吹っ切れたかのように、迷うことなく勇壮に前進する第1楽章の迫力です。何というインパクトと情熱でしょうか!序奏なしで、いきなり開始される堂々とした第1楽章の第1主題からこの曲に惹きつけられてしまいます……。しかもその曲調はシューマンらしい歌にあふれ、美しいロマンチシズムを醸し出していて、片時も聴く者を退屈にさせません。
人によっては重苦しい作品だと評価する方もいらっしゃいますが、私は決してそうは思いません。
むしろシューマンは「ライン」を作曲した時、よほど調子が良かったのではないでしょうか……。印象的な第1主題、第2主題をはじめ、訴える力、発展する要素、高まる情感、すべてにおいて渾然一体となった魅力が充満しているのです!
第2楽章は同じ音型を小刻みに繰り返す主題がゆるやかなラインの流れを想起させます。ここでも第1楽章同様に随所に奏でられるホルンの響きが心のゆとりと風格を伝えてやみません。中間部の管楽器が奏でる淡く悲しい憂いの表情も後ろ髪を引かれるように過ぎ去っていきます……。
第3楽章はもっともシューマンらしいメロディが頻出します。夢と現実を交差するようなロマンチシズムの極みは何とも言えない情感を拡げていきます。
ケルンの大聖堂から着想を得たといわれる第4楽章は厳粛で崇高な響きが鎮魂曲や祈りにも似た全曲のクライマックスと言えるかもしれません。フィナーレの颯爽とした展開や充実した展開部、怒濤の迫力を醸し出す終結部分も見事です。
チェリビダッケと
ジュリーニの名演奏
真っ先におすすめしたい演奏はセルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘンフィル(EMI)の演奏です。「ライン」はロマン的情緒あふれる作品だけに、どちらかというと、いわゆる巨匠風の武骨な表現が相容れない作品でもありました。しかし、この演奏は違います。相変わらずのゆったりとしたテンポなのですが、深い呼吸と細部の彫琢があまりにも見事なためスローテンポが気にならなくなってしまうのです。 演奏の素晴らしさがスタイル云々の問題を超えた数少ない例のひとつではないでしょうか!
雄渾な迫力と持続する集中力も圧倒的で、シューマンの心の動きさえ伝わってくるようです。何度聴いても飽きず、おそらく「ライン」からこれほど深い意味を表出した演奏はなかったのではないかと思います。
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ロサンゼルスフィル(ユニバーサル・ミュージック)は万人向けの名演です。旋律は良く歌われ、メリハリが効き、この曲からイメージされるロマン的な特徴をことごとく兼ねそろえた理想的な表現といっていいでしょう。演奏スタイルにしても、テンポや楽器のバランスが絶妙で、管弦楽の立体的な構築や密度の濃さにも特筆すべきものがあります。作品との相性の良さが、これほどまでの名演奏を可能にしたのかもしれません。
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