2010年8月26日木曜日

シューマン 交響曲第3番変ホ長調作品97「ライン」







びっくりするような情感を描き出す、感性のフィルター

 シューマンは歌曲やピアノ曲に驚くべき才能を発揮した人です。たとえば、「ミルテの花」の美しく気品に溢れたメロディ……。「女の愛と生涯」の繊細で情感豊かなメロディ……。クライスレリアーナの流れるような旋律。
 彼は甘く切ない抒情や夢見るようなロマンを旋律として書き得た稀有な作曲家だったのだろうと思います。シューマンは最高の作曲技術と手垢にまみれていない正統的なクラシカルな作品を描き出す才能を持っていた人なんだろうと思います。

 たとえば、有名な「子供の情景」。この作品はピアノソナタには内面的な意味がなければ価値が薄いという評論家筋からはあまり評価されていないようですね。けれども、子供から受けたイマジネーションを内面的にどうのこうのというより、等身大でみずみずしく表現するシューマンの姿勢にはとても好感が持てるのです。しかも、時にはびっくりするような自分の内面を見つめる詩的な情感も描き出し、その感性のフィルターは実に敏感で多様なのです。
   当然、大掛かりな交響曲や協奏曲よりも小編成の作品に傑作が多いのはうなずけるところです。いわゆる長編小説向きというよりは一瞬のきらめきを捉えた詩人といってもいいのかもしれません。

 とはいっても、彼の交響曲の魅力も大変なもので、特に3番のラインはロマンティシズムと正統的なクラシックの伝統が融合された素晴らしい作品と言ってもいいと思います。
 第1楽章の堂々として勇壮な開始は少しベートーヴェンの英唯に近いものを感じます。この有名な冒頭部分が奏された直後、今度は感情を目一杯に吐露した主題が奏されるのですが、ここでは回想を巡らせ、感傷に浸る情景が延々と展開されていきます。まさにシューマンらしい理想と愛に満ちた曲調ではないでしょうか。第4楽章の荘厳で訴えかけるような旋律も一度聴いたら忘れられませんし、第5楽章の朗らかに着実に大地を踏みしめるような主題も魅力いっぱいです。

 演奏は1982年にカルロ・マリア・ジュリーニがロサンゼルスフィルと組み録音したグラモフォン版が格別の名演奏です。まず、出だしの主題から金管楽器、木管楽器、弦楽器ともにバランスが絶妙で、それでいながら立体的な構築にも欠けていません。どこまでも充実感満点でこの素晴らしい旋律を心ゆくまで味わうことができます。全楽章を通じて少しも薄味の所がなく、この曲との相性の良さに本当に驚かされます。シューマン交響曲第3番「ライン」の作品に隠された魅力をものの見事に表出した演奏といってもいいかもしれません。





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