2014年4月8日火曜日

シューマン 交響曲第2番ハ長調作品61









なぜか人気薄の交響曲

 シューマンは全部で4つの交響曲を作曲しましたが、1番の「春」や3番の「ライン」はテーマがはっきりしていて、主題も馴染みやすく愛されている作品です。4番も前記2曲ほどではありませんが、情熱的な雰囲気が魅力だと言われ、コンサートではたびたび採り上げられる作品ですよね。

 しかし、なぜか2番だけはコンサートのプログラムに組まれることも稀ですし、人気があまりありません。人によっては「シューマンが精神を病んだ痕跡が見られる痛々しい作品だ」と断言してしまう始末です……。
 しかし、この作品をよく味わって聴いてみると、実は大変に充実した傑作だということが分かります。しかもシューマンの内なる声が最も的確に表現された交響曲と言っていいでしょう。

 特に第3楽章アダージョは深い憂愁を帯びていて、その切なさは心に深く刻まれます。ぽっかり空いた心の空白を埋めることができないまま、冷たい冬の荒野を彷徨い歩くような雰囲気を醸し出していくのです。主題や経過句を奏でるオーボエやホルンの音色が何と痛切に胸に響くことでしょうか……。

 第2楽章スケルツォも不安を掻き立てるような同一のリズムやフレーズが連続しますが、これこそがシューマンの心の叫びであり、偽らざる心境だったのではないでしょうか! 中間部で春の穏やかな光を想わせるメロディが現れ、この個性的な音楽に彩りや変化を与えているのです。

 第4楽章では第2楽章の焦燥感や第3楽章の憂愁を振り払うように、ゆったりとした足どりでスケール雄大な音楽が展開していきます。音楽が進むにつれ、様々なエピソードが多彩な表情の中に映し出されますが、終結部ではそれらをすべて呑みこむように、勝利の凱歌をあげて堂々と進んでいくのです!




カザルスの気迫がこもった名演奏

 この交響曲は明確な主題や音楽の展開が無いため、指揮者泣かせの曲と言えるかも知れません。特に第1楽章は主題の特徴が弱く、どのように曲をアプローチしていくのか苦心するところなのでしょう。

 録音自体は決して少なくありませんが、名演奏となればたった1枚しかあげることができません。
 それはカザルスがマールボロ音楽祭管弦楽団を振ったライブ演奏(SONY)です。1970年7月の録音ですから、この時カザルス93歳!  信じられないようなオケの統率力と音色のみずみずしさ!  カザルスのこの生き生きとした演奏や若々しいエネルギーは一体どこから出てくるのでしょうか?

 シューマンの2番の演奏でありがちな、どこに向かっていくのかわからないという散漫な表現が一切なく、すべてのパートにカザルスの強い意志と気迫が注がれているのがよく分かります。
 精神的にも芸術的にも深く、また極めて完成度の高い演奏と言えるでしょう。

 第3楽章の憂愁に満ちた響きは、もはや神技と言っていいのではないでしょうか。カザルスは感情移入を込めながら音楽の意味を少しずつ掘り出していくのですが、音楽から伝わってくる人生の悲哀はあまりにも痛切で深いのです。
 第1楽章での全体の方向性をはっきりと定めた有機的な響きと展開も見事の一言ですし、激烈な響きで一貫した魂の祭典のような第2楽章も「凄い!」と唸るしかありません。
そして第4楽章のさまざまなエピソードを拾い集めながら、次第に勝利の凱歌を上げていくところの集中力や気迫は凄く、音楽は稀有の生命力に沸き立って終結するのです。






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