2015年6月3日水曜日

国立新美術館 「マグリット展」 









深層心理に強く呼びかける
非日常的な絵

 現在、東京・六本木の国立新美術館で「マグリット展」が開催されています。マグリットの日本での公開は13年ぶりとのこと。マグリットと言われても「誰それ?」って感じで、多くの方はピンとこないかもしれません、

 でも、代表作「空の鳥」でモスグリーンのバックに空の表情が写し出された鳥の絵を描いた人といえば、ピンとくる方もきっと多いのではないでしょうか。マグリットが描いた独特の非日常的な絵は、私たちの深層心理に強く呼びかけますし、様々なメッセージを投げかけていきます。

  彼はそもそもグラフィックデザイナーとして生計を立てていた人で、作品を見ると気まぐれではなく、伝えるということに関しての明確なテーマや首尾一貫した主張が強く感じられるのです。
 マグリットの絵は一般的な絵の概念とは違いますが、この展示会は少し違った観点からきっとあなたに絵画の面白さを再認識させてくれることでしょう!


マグリット展
公式サイト http://magritte2015.jp

■東京展
開催期間:2015年3月25日(水)~6月29日(月)
開館時間:10:00~18:00
     ※入場は、閉館の30分前まで。
休館日 :火曜日
会場  :国立新美術館 企画展示室2階
住所  :東京都港区六本木7-22-2
観覧料 :一般 1,600円(1,400円)、大学生 1,200円(1,000円)、
             高校生 800円(600円)、中学生以下 無料
     ※障がい者手帳持参および付き添い1名は、無料。

■京都展
開催期間:2015年7月11日(土)~10月12日(月・祝)
会場  :京都市美術館


2015年5月29日金曜日

ルノワール 「シャルパンティエ夫人と子どもたち」











家族を描いた
幸福感に満ちた名画


家族を描いた名画というのは美術の歴史を紐解いても意外に少ないものです。そもそも芸術的な深さとか、絵で革新的なスタイルを探求するということは家族の幸福なイメージを描くこととは相容れない何かがあるようです…。まずもってモデルになった家族の一人一人が描かれた絵を気に入らない限り、絵としては成立しないのですから……。

 しかし例外もあります。その代表例がここで紹介するオーギュスト・ルノワールの「シャルパンティエ夫人と子どもたち」です。この絵は印象派展やルノワールの個展が開催されると必ずと言っていいほど、ポストカードやポスター等の販売アイテムになったりします。それだけ絵柄としても表情としても申し分ない作品だからなのでしょう。

 ルノワールといえば、色彩の独特の発色の美しさや豊満で輝くような肌色をした人物画を描いた画家としてもあまりにも有名ですね。この絵は後年ほどの特徴は明確には表れていませんが、彼の持ち味である温かく美しい色調と見事な構図がバランス良く溶けあった代表作と言っても過言ではありません。

 夫人はこの絵を大変気に入ったということですが、それはそうでしょう! 子供たちの愛らしく生き生きとした表情、それを優しく見守る夫人の姿は、考え得る限りの最高のシチュエーションですし、何より愛情を持って見つめ、描かれていることが画面からひしひしと伝わってくるのです。この絵の満ち足りた雰囲気を見る限り、よほどシャルパンティエ家とルノワールの信頼関係は厚かったのでしょう。
 三角形の安定感のある構図も見事ですが、何より柔らかで温かみのある色調と家庭的な和やかな雰囲気に魅了されます。





2015年5月20日水曜日

モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」ハ長調K.551(2)

















「キチッと正装したフォーマルスタイル」の
モーツァルトの交響曲

 モーツァルトにとって交響曲は彼の作品の中でどのような位置づけだったのでしょうか? ベートーヴェンの場合だったら交響曲は最重要なジャンルと考えて間違いありません。第3「英雄」、第5「運命」、第6「田園」、第9のような歴史的傑作をはじめとして、彼が作曲した9つの交響曲は西洋音楽史を語る上で絶対に外せない交響曲ばかりですね! 

 モーツァルトの交響曲は全部で41曲と言われています。この中には初期のセレナーデのようなあっさりとした形式の物もあれば、後年の形式・内容ともに充実した作品に至るまで様々です。ただし、よく知られた交響曲となると25番、29番、35番、36番、38番、39番、40番、41番あたりに限定されることでしょう。それ以外の作品は演奏会で採りあげられることも稀ですし、知っている人も少ないのではないでしょうか……。
 また、モーツァルトファンの中には「彼の音楽の真骨頂はオペラだよ」とおっしゃる方も少なくありません。確かに『フィガロの結婚』、『魔笛』、『ドン・ジョバンニ』、『コジ・ファン・トゥッテ』等の人物描写は卓越していますし、まるで劇中から登場人物が抜け出してきそうな音楽的な魅力とリアリティに溢れています。それはモーツァルトのインスピレーションが冴えに冴え、生き生きとした感性が縦横無尽に発揮されているからなのでしょう。

  それではモーツァルトの交響曲の魅力とは何でしょうか?
 以前このブログで「彼の交響曲はプライベートなカジュアルスタイルではなく、キチッと正装したフォーマルスタイル」と表現したことがありました。モーツァルトにとって交響曲とはオペラや協奏曲、管弦楽曲とは少々違った特別な領域だったのです。それはザルツブルクやウィーンの聴衆に向けて正統的な作品を作ろうという意識の表れだったのかもしれません。

 とは言うものの、晩年の交響曲はモーツァルトが本当に書きたい音楽だけを書いたと言ってもいいでしょう。特に40番ト短調と41番「ジュピター」は天才的な技巧・音楽性が高い芸術性と結びついて誕生した空前の傑作です!
 41番「ジュピター」が作られた頃はモーツァルトが生涯で最も辛く苦しい時代だったとも言われています。しかし音楽の完成度、精神性の高さはそんなことを一変に忘れさせてしまうのです。



屈強で揺るぎない第1楽章
天上の調べを映すフィナーレ

 この交響曲の偉大なところは、まず第1に内容がはち切れんばかりに盛り沢山なのにもかかわらず、音楽の流れが遮断されることなく展開され、しかも造形が一切崩れていないことでしょう! そして第2にどこもかしこも澄み切った精神や深い人生の意味が音楽として表現されていることですね。一音一音の持つ意味が非常に神秘的で深いです!第4楽章のフーガを「奇跡だ」という音楽学者の方は大勢いらっしゃいますが、この交響曲はすべての楽章が奇跡だと評してもおかしくないくらいです!

 たとえば、第一楽章の印象的な三連打のリズムで開始される第一主題ですが、何と堂々とした足どりと確信に満ちたテーマでしょうか! しかも屈強で揺るぎない前進する力に溢れたこの楽章は悲しみや苦悩といったさまざまな人間感情と共存しながら、それらを受け容れる大きな度量も備えているのです!

 第2楽章アンダンテは歌うような旋律を基調としています。しかし、その彩りは大変に翳りが濃く、人生の秋がひたひたと伝わってくるようです。
 第3楽章メヌエットは非常にシンプルで大胆な和声によって構成されています。第4楽章へと続く重要な橋渡し的役割を果たす楽章ですが、もちろんそれだけではありません。緊張感に満ち、充分に力強く宇宙的な拡がりを持った主題が印象的ですね。

 第4楽章フィナーレは間然すべきところがない驚くべき音楽です!まるで宇宙意志に貫かれているのでは……と思うくらい、対位法の素晴らしさや主題の展開と発展が音楽に広々とした空間を生み出していきます! 特に中間部で弦楽器とオーボエ、クラリネット、ホルンらが交わす付点のリズムと下降音型によって生まれるその独特の空間の拡がりは天上の調べを感じますね。ここは音階のリズムやバランスがちょっとでも崩れると奇妙な音楽になってしまう危険性をはらんでいるので、よほどモーツァルトの精神と肉体は研ぎ澄まされた高い境地にあったのでしょう!




圧倒的な感動を約束してくれる
カザルスが遺した名演奏!

 第4楽章の奇跡のフーガ、第1楽章の引き締まった造形、第3楽章の形而上的なメヌエットとくれば、ともすれば形の立派さだけが鼻についてしまうのがこの交響曲演奏の最大の盲点であり難しさでしょう。ワルター、トスカニーニ、クレンペラー、カラヤン、バーンスタイン、クーベリック、最近ではラトル、ブリュッヘン、アーノンクール、インマゼールらの素晴らしい演奏がありますが、でもこれらが絶対か……と言われれば何かもう一つ食い足りない感じがして仕方ないのです。

 しかしこの作品から深い意味と感動を伝えてくれる演奏もあることはあります。その代表格がパブロ・カザルス=マールボロ祝祭管弦楽団のライブ演奏です。カザルスの演奏は温かな人間味を感じさせ、モーツァルトが伝えたかったメッセージがどの楽章からもひしひしと伝わってくるのです。
 「ジュピター」では出だしから気迫みなぎる音に圧倒されます。第1楽章の怒涛のように押し寄せる感情の波は苦しみを乗り越えるべく必死にあえでいるかのようですし、第2楽章の深い呼吸で奏されるカンタビーレは魂の鎮魂歌のような趣さえも湛えていきます。第3楽章の緊張感と自在感に満ちた表現や第4楽章のなりふり構わず前進する演奏の凄さ。これはカザルスが残したベストパフォーマンスの一つと言えるでしょう!

 カール・ベーム指揮ベルリンフィルハーモニーの演奏もオーソドックスですが、安定した響きと強固な造形感覚は安心して聴くことが出来ます。フィナーレのフーガの音響的な迫力や威力はカザルス以上かも知れません。
 カール・シューリヒト指揮パリオペラ座管弦楽団の演奏は個性的で、第1楽章のテンポは早すぎるほどですし、せかせかした感じが否めません。しかし、第4楽章フィナーレの翳りの濃い響きはとても味わい深く、壮麗な「ジュピター」の別の魅力を教えてくれた忘れ難い演奏です。




2015年5月7日木曜日

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015「熱狂の日々」の公演を聴いて








普段聴けない
魅力のプログラム満載の
クラシックイベント

 ゴールデンウイークは皆様いかがお過ごしだったでしょうか……。私は今年もラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015「熱狂の日々」の公演を聴きに東京・有楽町の国際フォーラムに行ってきました。
 このイベントのいいところはたくさんあります。まずクラシックだからといって気どらずに普段着で入場できること!そして入場料がリーズナブルなこと!そして国内外の一流アーティストが集結していることでしょう。

 今回は3日と4日の公演を聴いたのですが、強烈な印象が残ったのは4日の午後のプログラムでした。
 それはダニエル・ロイスさんが指揮するローザンヌ声楽・器楽アンサンブルとのバッハのミサ曲ト短調とヘンデルのディキシット・ドミヌス(主は言われた)です。
 ロイスさんといえば思い出すのが、ヘンデルのオラトリオ『ソロモン』(ハルモニア・ムンディ)で示した名演奏です。この録音はガーディナー盤(フィリップス)やマクリーシュ盤(アルヒーフ)の名演奏で一躍評価が高まった『ソロモン』をさらに新鮮な感覚でアプローチしたもので、作品の充実度を改めて印象づけたと言ってもいいほどの素晴らしい演奏でした。

 ロイスさんの演奏を聴くのは今回が初めてですが、見るからに地味な印象の人でちょっとビックリしました。まるで職人さんか、研究に没頭する学者さんのような風貌で、とても「音楽、情緒、感動」のようなキーワードがあてはまるタイプには見えなかったのです……。(失礼(^^;;)



感動的だった
ダニエル・ロイスの
バッハとヘンデル

 しかし、音楽はとても生き生きとしていて感動的でした!   指揮姿はカリスマ的な凄みはないものの、非常にしなやかで無駄がなく、その音楽性の素晴らしさからなのか楽員の心をしっかりと掴んでいるようにも見えます。
 プログラム前半のバッハのミサ曲ト短調は短い作品ですが、ロイスさんの指揮は合唱にも管弦楽にも実に細やかに神経を行き渡らせていて、終始バッハを聴く醍醐味と満足感で満たしてくれました。合唱の響きが豊かに溶け合い、内声部も立体的で充実していましたね。久しぶりに聴いたバッハの精神と本質を捉えた見事な演奏だったように思います。

 後半のプログラム、ヘンデルのディキシット・ドミヌスは宗教曲ですが、変化に富んでいるために様々な解釈や表現が可能な作品です。この作品は指揮者や演奏家に深い洞察力や音楽センスがないと平凡でつまらない演奏になりやすいものです。しかし、ロイスさんの指揮はそんな不安を一気に消し去ってしまいました。
 精緻で内声部が豊かな合唱のハーモニー、管弦楽の絶妙の音色のバランス感等、すべてのパート、曲が意味を持って鳴り響いたのがうれしかったです。
 
 本当にあっという間の70分で、音楽を聴く楽しさ、歓びを再認識した至福の時間でした。今後ますますダニエル・ロイスさんの活動から目が離せなくなりそうです。




2015年5月1日金曜日

パブロ・ピカソ 『泣く女』










20世紀を象徴する
天才画家

 ピカソは20世紀最大の天才画家であり奇才でした。様々なエピソードにも事欠かなくて、ピカソの作品や生き様を見ると混乱と不安に揺れた20世紀をそのまま象徴する画家であることを痛感したものです。

 とにかく描くことにかけては天才的な能力を発揮し続けた画家でした。生涯10万点以上の油彩や版画、挿絵を描いたのも、持って生まれた天性の絵心と驚くべき創作力の現れといっていいでしょう。多くの画家がスランプや苦悩、葛藤で描けない時期を抱えたとしても、ピカソの場合は融通良く立ち居振る舞い巧みに画風を変えながら、まるでカメレオンのように美術界に君臨したのでした。
 しかもピカソは芸術家としては珍しくマネジメント能力にもすこぶる長けていて、自分の絵画を販売路線に乗せる戦略や画商との交渉術にも稀有の才能を発揮したようです。

 また1956年にフランスのサスペンス映画の巨匠、アンリ・ジョルジュ・クルーゾーに「ピカソ~天才の秘密」の撮影を許可したのも、考えてみればピカソが自分を売り込むという意味合いや宣伝効果を引き出したい想いが多分にあったのかもしれません。
 ピカソがひたすら「描く」という至極単純なテーマを扱った映画でしたが、即興的で緊張感漂うドキュメンタリータッチの本作はカンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞したのでした。この映画ではピカソの創作という行為そのものがミステリアスであるということから大いに注目を浴び、映画は大成功を収め、改めてピカソの創作の天才性を世間にアピールすることとなったのです。 


「泣く」という行為に心惹かれたのか
強烈な創作のヒントとなったのか……。

 ところで『泣く女』は20世紀最大の傑作とも問題作とも言われた有名な『ゲルニカ』の後に描かれた作品でした。モデルはピカソの愛人でもあったドラ・マールという写真家です。
 ピカソは女性の「泣く」という行為によほど心惹かれたのか、または強烈な創作のヒントとなったのか、その後もこの『泣く女』を何枚も描き上げています。中でも一番傑作として有名なのがロンドン・テートギャラリーに飾られているこの絵ですね。

 これを見るとすぐに気づくのが女性の表情が一方向からではなく、様々な角度から見た表情が同じ平面上に表現されていることです。
 その表情は連続する映像的効果も醸し出し、ただならぬ存在感と迫力で見るものに訴えてきます。鋭角的な線とそれぞれの色彩をかたどる黒い輪郭線は、女性がハンカチを噛んで口惜しがる様子を強烈なインパクトと共に表現してみせているのです。

 また、一見、支離滅裂に見えるこの絵をピカソは彼一流の造形感覚で構成し直し、崩された絵から意味のある絵へと再創造しているのです。リアルな形を単純な線や色彩、構図でまとめ、なおかつピカソの強烈な個性で味付けした『泣く女』は他愛のないテーマからでも、充分に絵が成立できることを証明してみせたのです。


2015年4月27日月曜日

メンデルスゾーン 「パウロ」


















早熟で天才的な創作力を
発揮したメンデルスゾーン

 メンデルスゾーンは早熟で天才的な創作力を発揮した作曲家として有名ですが、ではメンデルスゾーンの作品といえば皆さんは何を思い出されるでしょうか?
 おそらく『ヴァイオリン協奏曲』、『交響曲第4番イタリア』、『交響曲第3番スコットランド』、『弦楽八重奏曲』、管弦楽曲『真夏の夜の夢』をあげる方が多いことでしょう。
 もちろんそれらがメンデルスゾーンの重要な作品であることに違いはありません。しかし、ただひとつ重大なレパートリーが欠けていることにお気づきになりませんか? それは声楽曲なのです。特に宗教的オラトリオや聖歌集は絶対に省くことの出来ないメンデルスゾーンの重要な作品群なのです!

 メンデルスゾーンは生涯3曲のオラトリオを作曲しました。そのうちの1曲はいうまでもなく『エリヤ』ですが、あと2曲は『エリヤ』の10年前に作曲された『パウロ』と晩年に作曲された未完の『キリスト』です。さすがに『キリスト』は録音が限られていますが、『パウロ』はかなりの数がCDとして発売されており、オラトリオ、宗教曲としてはもちろん、声楽曲としても重要な位置を占める作品です。お気づきの方もいらっしゃることと思いますが、『パウロ』は新約聖書の使徒行伝に出てくるユダヤ教からキリスト教に改心したパウロの物語です。さまざまな迫害を乗り越えてイエス・キリストの福音を堂々と述べ伝えていくまでが劇的に描かれています。

 メンデルスゾーンの『パウロ』は後年の『エリヤ』のように壮大なスケール感やドラマチックな展開こそありませんが、メンデルスゾーン独特の清廉な語り口や誠実で気高い人間性が溢れ出た名曲です。また、バッハのカンタータのように要所要所にコラール(ルター派の賛美歌)が組み込まれており、それがアリアや合唱との絡みの中で一編の美しい詩のように光を放っているのです。
 『パウロ』は決して難解な作品ではありません。全曲を通して聴いたとしてもおよそ2時間強ですし、親しみやすく気の利いた曲が次々と続くのもこのオラトリオの魅力でしょう。若書きの宗教曲(26歳で初演)ということで敬遠される向きもあるようですが、もっともっと聴かれて然るべき曲だと思います。 


徹頭徹尾、聖書に忠実で
清新な美意識に貫かれている作品

 このオラトリオの良さは芸術ぶった傲慢さや癖がなく、徹頭徹尾、聖書に忠実で清新な美意識に貫かれていることです。曲中のアリアも格調が高いし、無類の優しさが際立っていますね。
 たとえば第一部に登場するソプラノのアリア「エルサレムよ」の何と甘く優しさに満ちたメロディでしょうか! その余韻と情感は幼い頃に聴いた懐かしい子守歌が彷彿とされます……。パウロの歌う第36曲レチタティーヴォ「ふたりの使徒は、これを聞いて」と合唱が絡む「あなたがたが神の神殿であることを」は全曲の核心の部分で、力強く威厳に満ちた表情が心にしみます。

 また合唱もそれぞれに趣向が凝らされており魅力がいっぱいです。多彩な変化と表現で惹きつける第一部最終合唱「おお、なんと深く豊かな神の英知とご洞察だろう」。壮麗で輝かしい第二部最初の合唱「世界はいまや主のものであり」。 民衆の殺意を叫ぶ声(合唱)に対して許しと愛が憂愁のように漂うコラール、第二部第29曲の「あの男はエルサレムでこの名を呼ばわる者をみな」。確固たる信頼と涼やかな余韻が印象的な第二部43曲の「見よ、なんという愛を」。いずれもメンデルスゾーンだからこそ作り得た秀逸なナンバーばかりと言っても過言ではないでしょう。


美しいメロディラインを
最良の形で再現した
ベルニウス盤

 演奏は勢いに任せた力ずくの表現をするのではありませんし、これといった効果を狙っているわけでもありません。ちょっと聴いただけではパンチ力に不足し、平穏無事に淡々と進行しているだけのように感じることでしょう。しかし、『パウロ』という作品の性格を考慮すれば、これは本質を的確に捉えていますし、これほど音楽の喜びがひたひたと迫ってくる演奏も少ないでしょう。
 作品に対するベルニウスのポリシーがソリストたちの表現や楽器の響きにも現れていて、全編が豊かな音楽で満ちていることに気づかされます。特に素晴らしいのが合唱でしょう。精緻で、純度の高いハーモニーは心に素直に染み込んできます。メンデルスゾーンの美しいメロディラインが最良の形で再現されていると言っても過言ではないでしょう。ソリストたちの心のこもった演奏も大変に好感がもてます。

 何と言ってもライプツィヒ放送合唱団のハーモニーが美しく彫りが深いですね。しかも、旋律に心が通い、ともすれば薄味になりがちな合唱曲に深みを与えています。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の響きもコクがありますし、ヤノヴィッツ、アダムらの独唱陣も存在感があり、名曲に花を添えています。安心して音楽に浸ることが出来ます! 






2015年4月24日金曜日

誕生60周年記念 ミッフィー展







『ちいさなうさこちゃん』(第2版)原画 1963年







絵本『ちいさなうさこちゃん』(第1版、1955年)より




60周年を迎えた
ミッフィーの魅力の
原点に迫る!

 オランダの絵本作家ディック・ブルーナ氏の手によって生まれた世界的人気のキャラクター、ミッフィー。日本では「うさこちゃん」の愛称でも親しまれてきました。
 本展では、家族や友だちなど「ミッフィーの大切なもの」をコンセプトに選りすぐった人気絵本7作品やブルーナ氏の初期作品など、原画やスケッチ、制作資料など約300点を展示。1955年に初めて描かれたミッフィーの原画を世界で初めて公開します。さらにスペシャル展示として、オランダと日本を舞台に始まる60周年企画「ミッフィー・アートパレード」から、日本人クリエーター15組が手がけた、高さ180センチのミッフィー像が初めてお披露目されます。展覧会グッズも400点以上。楽しさいっぱいの会場で、ミッフィーの60周年をお祝いしましょう!
(Design Pocket Newsトレンド情報より)



■ 誕生60周年記念「ミッフィー展」(巡回スケジュール)
松屋銀座 8階イベントスクエア (東京・銀座)
 4月15日(水)~5月10日(日)
青森県立美術館
 6月6日(土)~7月20日(月・祝)
大丸ミュージアム<神戸> 大丸神戸店9F
 8月5日(水)~8月17日(月)
福岡三越 ※1月1日(金・祝)は休館日
 12月29日(火)~2016年1月11日(月・祝)
松坂屋美術館 松坂屋名古屋店 南館7F
 2016年3月12日(土)~4月10日(日)
大丸ミュージアム<梅田>大丸梅田店15F
 2016年4月27日(水)~5月9日(月)
島根県立石見美術館
 2016年9月17日(土)~10月31日(月)