2013年4月18日木曜日

映画「舟を編む」


地味でマニアックだが面白い映画




 先日、映画「舟を編む」を見てきました。原作は三浦しをんさんの同名の小説です。 
 この小説は2012年の本屋大賞を受賞したということですが、映画を見ると「なるほどね!」と思わず納得してしまいます…。
 辞書編纂に没頭する人たちの物語で、とにかく一風変わった面白い映画でした。ここには凄腕の編集者やディレクターという類いの方々は出てきません。皆ちょっと個性的な愛すべき変人たちの集まりなのです。しかし、彼らは三度の飯より辞書の言葉集めや用語の注釈をすることが好きでたまらない人たちなのです!

 辞書の発刊は大変だということは漠然と分かっていたつもりだったのですが、その気が遠くなるような長期の作業期間には正直驚きました。映画の中でも出てきますが、「少なく見積もっても10年、長ければ30年もかかる」という発刊までの作業工程はおそらく常人ではできる作業ではないでしょう。要するにそこまで念入りな作業を経ないと世には出せないということなのかもしれません。この映画はいわゆる感動的とか人間の深い心の交流を描いたものではありませんが、地道に作業に没頭する姿からはこんな生き方もあるんだなと別の意味で感心させられる不思議な映画ですね。

 現代もこのような超アナログ的な作業が脈々と受け継がれていることへの新鮮な驚き……。もしかしたらこういう人たちこそ、文化の底流を支え絶やさないように苦心惨憺される方々なのかもしれないと思うことしきりでした。

 キャストはとてもいいですね!コミュニュケーション能力がなく営業をクビになり、辞書編纂部に配属された真面目一徹の馬締光也に扮する松田龍平がいい味を出しています。それを取り巻く配役も魅力的で、ベテランの編集者で辞書をライフワークのようにしてきた荒木役の小林薫、先輩で軽いノリだが渉外がうまい西岡役のオダギリ・ジョー、片時も用例採集カードを手放さない学者役の加藤剛、それぞれが本当に役にハマっていて、いささかも違和感が無く見事に演じきっているのに驚かされました。



2013年4月13日土曜日

マルケ 「ナポリ湾」






 この人の絵を見るたびに卓越した情景描写の持ち主だなあと感心してしまいます……。絵の描法そのものにはまったく無理がないのですが、細かな空気感、光の柔らかさ、波の穏やかさ、空の厚み等々、口ではなかなか説明できない見たままの感動や写真では伝わらない臨場感が見事に伝わってくるのですね!人間の目や心に伝わる情報量というものをマルケは熟知していたのでしょう。マルケ独特の感性のフィルターを通して取捨選択された線やフォルム、色彩が実に説得力があるし潔いです…。

 この「ナポリ湾」も初期の素晴らしい作品のひとつと言っていいでしょう。1909年にイタリアのナポリを旅したときの連作かと思われるのですが、生き生きとした波のタッチや空や雲の表情、省略された人々の姿がこの光を浴びたナポリ湾の一瞬の情景を静かに感動的に伝えてくるのです。




2013年4月10日水曜日

モーツァルト ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲K.364






 これは本当によく出来た作品ですね。モーツァルトにしてはかなりナイーブな曲調で叙情的なメロディを多分に持った作品と言っていいかもしれません。そのため、「モーツァルトらしくない」とか「どうも気が重くなる」と仰る方もいらっしゃるようです……。
 しかしヴァイオリンとヴィオラがお互いに言葉を交わすように、ある時は互いの楽器の音色を補ない相乗効果を出したり、ある時は寄り添うような芳醇なロマンの詩であったり……、まさに楽器の持ち味を知り尽くしたモーツァルトならでの名曲と言えるでしょう。  
 特に第二楽章の悲しみを堪えた切々とした響きはヴァイオリンとヴィオラの組み合わせだからこそ出し得た名旋律ですね!

 第一楽章冒頭で軽やかな管弦楽の響きに、ささやくようなヴァイオリンとヴィオラの響きが絡むと既にそこには柔らかな光や風が満ち溢れているではありませんか!曲が進むと色調や装いを少しずつ変えながら内省的になったり、光と影のコントラストを表出しながら曲は次第に深化していくのです。

 それが更に徹底されたのが第二楽章アンダンテでしょう!前述のようにヴァイオリンとヴィオラはモーツァルトには珍しくロマンティックな響きと言ってもいいくらい哀愁と憂いに満ちたメロディを奏でています。それは心にぽっかり空いた穴を埋めることができないまま悲しみに打ちひしがれるモーツァルトの姿のようでもあるし、崇高なエレジーのようでもあるのです。ここではモーツァルトは詩人のようにあらゆるものにきめ細やかな感情移入をしながら豊かなニュアンスの花を咲かせているのです。

 第三楽章プレストは前楽章の沈鬱な雰囲気を振り払うような明るく軽快なリズムに支えられた楽章です!前の二つの楽章に比べるとあまりにもあっさりしているのでは……と思う方がいらっしゃっても決して不思議ではありません。しかし決して軽い音楽なのではありません。いい意味で吹っ切れているのです。希望を捨てず、あるがままの自分を受け入れようとするモーツァルトの確固とした意思の力があらゆるフレーズに漲っているのです。

 この作品はギドン・クレーメルのヴァイオリンとキム・カシュカシャンのヴィオラ、ニコラウス・アーノンクール指揮&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(グラモフォン)がフレッシュな響きがたまらない最高の名演奏です!クレーメルやアーノンクールは本来クールな表現が持ち味だけに、この作品も本質的には近未来的なモダンな演奏となっています。
 しかしその表現に何の違和感もないどころか、新しい発見や魅力をもたらす結果となり、さらには新しいモーツァルト像を鮮明に打ち出しているところが素晴らしいですね!クレーメル、カシュカシャンのソロももちろん素晴らしいし、アーノンクールの指揮もよそよそしいところがなく最高のエンターテイメントを成し遂げているのです。




2013年4月5日金曜日

アーウィン・ブルーメンフェルド 美の秘密









  かつてアメリカの女性ファッション誌「ヴォーグ」の表紙写真やファッション・ポートレート等で全盛時代を築き、その後も多くの写真家に影響を与え続けたブルーメンフェルドの個展が東京都写真美術館で開催されています。
  今回展示している作品(特にファッション写真)はカラー写真の色あいが経年劣化しているということらしいのですが、復元加工されたらしくまったく気になりませんでした。むしろ当たり前のことかもしれませんが、構図のとりかたが秀逸で静寂の中にも動きがあり、古さをまったく感じさせません。色彩も華美にならないかわりに、ときおりハットするような美しいアクセントが置かれているのです。とにかくシンプルであり、エレガントなのです。
  ダダイズムの表現を取り入れた前衛的な手法を撮影の基本に置いた彼ですが、そのような時代を先取りした感覚がハイセンスなイメージをモットーとするファッション誌の表現にはよくマッチしていたのかもしれませんね……。
  ヴォーグの表紙は1950年代前半ぐらいからの表紙イメージが展示されているのですが、正直言って現代のものよりもずっと洒落ていて魅力を感じます。皆さんはいかがでしょうか?

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アーウィン・ブルーメンフェルド美の秘密

会 期  2013年3月5日 ( 火 ) ~ 5月6日 ( 月・祝 )
休館日  毎週月曜日(休館日が祝日・振替休日の場合はその翌日)
            ※4月30日(火)は臨時開館
料 金  一般 800(640)円/学生 700(560)円/
            中高生・65歳以上 600(480)円

           ( )は20名以上団体および東京都写真美術館友の会、当館の映画鑑賞券ご提示者、
            上記カード会員割引(トワイライトカードは除く)/ 小学生以下および
     障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料/第3水曜日は65歳以上無料


『ハーパース・バザー』や『ヴォーグ』等のファッション誌を中心に、第一次、第二次世界大戦を挟んで活躍した、アーウィン・ブルーメンフェルド(1897-1969年、独→米)の国内初の個展を開催します。欧米ではファッション・ポートレイト全盛期の旗手としてポンピドゥー美術館(パリ、1981年)、バービカンセンター(ロンドン、1996年)の個展などで高い評価を得ているブルーメンフェルドですが、重要な作品が各国の美術館に散在していることから、これまで日本国内で全貌をご紹介する機会がありませんでした。今回、ブルーメンフェルドのご遺族、関係者によって、1930年代のヴィンテージ・プリントや作家自身が選出した名作100点、カラー復元された美しいファッション写真などが集められました。本展覧会はパリのジュ・ドゥ・ポーム美術館に先んじて、それらの資料から独自の視点で構成した約290点(資料含む)の作品群をご紹介する貴重な機会です。シュルレアリスムからヌード、ファッションまで網羅し、多くの写真家に影響を与えたブルーメンフェルドの表現ですが、その陰には二大戦に翻弄され、時代に応じて活動の場を選択せざるを得なかった作家の苦悩が存在します。作家の活動を通し、時代背景、思想などに視点を向けると、美しい表現の根底にある精神が見えてくるのです。華やかな作品に隠された美の秘密をぜひ探してみてください。(公式サイトより)



2013年4月1日月曜日

ベートーヴェン 交響曲第2番ニ長調作品36






 ベートーヴェンの交響曲といえば大抵の方は俗に「運命」と呼ばれる第五や第六の「田園」、第九あたりを思い浮かべることと思います! 哲学的な第五、人類愛的な第六、宇宙的、形而上学的な第九……、前記の作品が名曲中の名曲であることはもはや議論の余地がありません。
 これらの作品に共通しているのは音楽の常識を塗り替えた自由な主題の展開や崇高な精神性が息づいていることでしょう。つまりベートーヴェンの個性があらゆる面で全開しているということなのです!

 今回取りあげる2番はベートーヴェンが失意のどん底から立ち直り、新しい1歩を踏み出した記念すべき作品です。前作の第1番とは比べものにならないくらいベートーヴェンの意思が浸透し、熱いハートと躍動感を持った魅力作なのです。もちろん、ベートーヴェンらしいなだれこむような迫力や燃え上がる情熱も充分です。

 特に第1楽章のハイテンポで刻まれるリズムは大変印象的ですね。曲は次第に雄大な曲想に発展していきます。展開部での地の底から雄叫びをあげるような管楽器、弦楽器の合奏がとても勇壮で胸をすきます。2番は「英雄」、「運命」とは違い小型の作品ですが、引き締まったダイナミズムが素晴らしいですね!しかも古典的な格調も備えているのです! 

 第2楽章の懐かしく愛に満ちた主題も非常に魅力的ですし、第3楽章に初めて導入されたスケルツォの存在感と雄弁さも大変印象的です。そして第4楽章はスフォルツァンドのリズムが大変個性的ですね。このスフォルツァンドを基調として真実味にあふれた様々な感情を吐露しつつ力強いフィナーレを迎えるのです。

 CDは今なお、ブルーノ・ワルターがコロンビア交響楽団を指揮したステレオ録音(CBS)が最高の名盤です。特に第2楽章はこれ以上不可能なくらい叙情的に愛の主題を歌い抜いています!ベートーヴェンが託した想いはこのワルターの演奏を聴かずしては始まらないともいえるのではないでしょうか。もちろん他の楽章も素晴らしく最高の気迫と有機的な音の響きが一貫しており、この作品の素晴らしさを改めて伝えてくれるのです!






2013年3月30日土曜日

音楽祭「東京・春・音楽祭-東京のオペラの森-」









 こんなクラシックコンサートイベントが始まっていたとは知りませんでした!
 タイトルは「東京・春・音楽祭-東京のオペラの森-」。これまでのような正統的クラシックコンサートとは一線を画した、幅広い年齢層や初心者にも優しいコンサートイベントのようです。会場は上野公園の施設をメインとするだけあって、野外コンサートあり、ミュージアムコンサートあり、トークショーありと結構バラエティに富んだ内容のようですね!しかも、今回はワーグナーのオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」も聴けるとのこと……。プログラムからするとかなり本格的なコンサート・イベントのようですね!
 約1か月間に渡って繰り広げられる音楽イベントだけあって、主催者側の気持ちの入れようも並大抵ではないようです。是非ともこれから末長く人々に愛され、人々が待ち焦がれるような季節のイベントになって欲しいですね!期待しています。

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充実のラインナップでクラシック音楽初心者も愛好家も満足!
上野の春の風物詩、東京・春・音楽祭。


一流アーティストから躍進めざましい若手たちまで、幅広いジャンルの音楽家達が春爛漫の上野の森に集結し、1ヶ月間に渡って繰り広げられる音楽祭「東京・春・音楽祭-東京のオペラの森-」。2013年の目玉は、ワーグナー指揮者としても名声を築いているセバスチャン・ヴァイグレ指揮による≪ニュルンベルクのマイスタージンガー≫(演奏会形式・映像付)。世界中の名門歌劇場から引く手あまたのバス・バリトン、アラン・ヘルドを筆頭に、2012年新国立劇場「ローエングリン」で喝采を浴びたクラウス・フロリアン・フォークトなど豪華歌手陣と、N響、東京オペラシンガーズが、ワーグナー生誕200年のメモリアルイヤーを華やかに彩る。

その他、オーケストラ、バレエ、室内楽といった上質なクラシック音楽に加え、ブーレーズが設立したフランス国立音響音楽研究所(ircam)とタッグを組む新しい試みや、元NHKアナウンサーによる「語りと音楽」、美術館・博物館を会場とした数々のミュージアム・コンサート、ジャズピアニスト小曽根真とビックバンドによる野外コンサートなど、今回もバラエティに富んだ公演が満載だ! 春の心地よい時期に、上野恩賜公園の桜とあわせて、お好みの音楽に浸りませんか?(公式サイトより)

期間      2013年3月15日(金)~4月14日(日) 
会場      上野恩賜公園(東京)
          東京文化会館、上野学園 石橋メモリアルホール、
            旧東京音楽学校奏楽堂、 
          国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、
            国立西洋美術館、上野の森美術館、水上音楽堂 /他 
主催      東京・春・音楽祭実行委員会 
共催      東京文化会館 (公益財団法人東京都歴史文化財団) 
後援      東京都、台東区 
協力      上野観光連盟、上野の山文化ゾーン連絡協議会 
認定      公益社団法人企業メセナ協議会




2013年3月23日土曜日

「東京オリンピック1964デザインプロジェクト」



東京オリンピックを支えたデザイナーたち





 今年に入ってから2020年東京オリンピック実現ヘ向けての招致運動が盛り上がってきています。ここ数年日本は国内外ともに元気をなくしていると言われることが多くなりました。けれども、もし東京でオリンピックが開催されることになれば経済効果だけでなく自ずと未来への展望が様々なかたちで開けてくるのではないでしょうか……。

 さて半世紀ほど前の東京オリンピック(1964年)は高度経済成長の真っ只中に開催された一大イベントでした。このオリンピック開催に向けてありとあらゆる日本の叡智や技術が総結集されたように思います。その一例として夢の超特急・新幹線の開通がありました。また地下鉄、高速道路、住宅等の整備も急ピッチで進められていったのです。1964年はまさに日本が未来へ向けて大きく生まれ変わった年といってもよかったのかもしれません。

 しかし忘れてならないのはこの一大イベントを支えたデザイナーたちの活躍です!「東京オリンピック1964デザインプロジェクト」は亀倉雄策、原弘、河野鷹思、柳宗理、勝美勝をはじめとする日本の錚々たるデザイナーたちが結集して作られたプロジェクトでした。この展覧会ではデザインプロジェクトのオリンピックの前、開催中、終了後と時系列で区切って作品やその工程を紹介する興味深いイベントです。それぞれの作品から伝わる活力、エネルギー、オリジナリティはデザイナーたちが繁栄の象徴でもあった東京オリンピックの陰の立役者であったことを物語っているのではないでしょうか。 

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東京オリンピックは、日本の戦後史の重要イベントとして記憶されています。オリンピックとはいうまでもなくスポーツの祭典ですが、1964(昭和39)年に開催された東京オリンピックは、第二次世界大戦で大きな打撃を受けた日本が、その終結からおよそ20年を経て、奇跡的な経済復興を成し遂げたことを国際社会に示す、日本の威信をかけた国家イベントであり、戦後日本のデザイナーが総力を挙げて取り組んだ一大デザインプロジェクトでもありました。
東京でのオリンピック開催が決定すると、1960年には「デザイン懇談会」が組織され、まずデザインポリシーが決められました。そして、デザイン評論家勝見勝の指揮のもと、シンボルマークとポスターを亀倉雄策、入場券および表彰状を原弘、識章バッジを河野鷹思、聖火リレーのトーチを柳宗理が担当したほか、田中一光をはじめとする当時の若手デザイナーたちが施設案内のためのピクトグラム、プログラムや会場案内図などの制作に組織的に取り組みました。その一連のデザインワークはその後の国際イベントのモデルともなり、国民はオリンピックを通じてデザインの力を身近に感じることになったのです。
2020年のオリンピック招致にむけた機運が高まるいま、あらためて1964年の東京オリンピックを振り返り、一連のデザインワークの全体像を追跡します。(公式サイトより)


東京オリンピック1964 デザインプロジェクト

会場  東京国立近代美術館 
    〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1 
期日  2013年2月13日(水)~2013年5月26日(日)

料金  一般 420円/大学生 130円
    ※当日に限り、「MOMATコレクション」もご覧いただけます。
    ※高校生以下および18歳未満・65歳以上・MOMATパスポートをお持ちの方
    キャンパスメンバーズ・障害者手帳をお持ちの方とその付添1名は無料。
    割引、無料には学生証、年齢のわかるもの、障害者手帳等の提示が必要です。
休館  毎週月曜日(3月25日・4月1日・4月8日・4月29日・5月6日は開館)
    5月7日(火)