2010年11月24日水曜日

アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然





  上野の国立西洋美術館で開催されているデューラーの版画・素描展に行ってきました。まず驚いたのはデューラーがキリストの受難を扱った書物のために何枚も描いた版画の完成度の高さです!それはまるで中世の頑固なまでに質を重視した職人気質を強く感じさせます。そして、ひたすら美に奉仕するプロテスタント精神を絵の世界で体現しているかのようにも思えます。モチーフに対してはある一定の距離を置いているようで、客観的な眼の確かさと知的なアプローチの鋭さは驚くほどです。
 レンブラントやエル・グレコがモチーフに完全に感情移入し、情緒的な精神美を引き出したイメージとは少々わけが違うようですね。
 レンブラントに比べるとデューラーの絵は装飾的で、あらかじめ設計図のように計算されたフォルムやディテールが印象的です。

  それぞれの版画は極めてクオリティが高いのですが、決して自分自身を表立って主張しない画風なのです。しかし生来は職人気質なのでしょう。ひたすら描出するなかで魂を震わせる雄弁な線の表情が自然と生み出され、有無をも言わせぬ存在感を獲得しているのです。
 受難の物語がこのように精度が高く、厳然と存在感みなぎる絵が要所要所に組み込まれたら、それだけでも充分に価値ある書物となることは間違いないでしょう。あくまでも職人気質としての偉大さとアカデミックな普遍性と異彩を放つ存在感とで今後も歴史に輝かしい名を刻むことは間違いないでしょう。


【アルブレヒト・デューラー版画・素描展
◯会期 2010年10月26日(木)〜2011年1月16日(日)
◯開園時間 午前10:30〜午後5:30(金曜日は午後8時まで)
◯休館日 月曜日(ただし、2011年1月3日・10日は閉館)
12月28日(火)~2011年1月1日(土)、1月4日(火)・11日(火)は休館)
※2011年は1月2日(日)から開館します。

◯入場料 一般850円(600円)、大学生450円(250円)
※ ( )内は20名以上の団体料金
※ 高校生以下および18歳未満の方は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるものをご提示ください。)
※ 心身に障害のある方及び付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)
※ 本展の観覧券で常設展示も併せてご覧いただけます。

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2010年11月19日金曜日

メンデルスゾーン 交響曲第3番イ短調『スコットランド』






音の風景画家メンデルスゾーンの面目躍如




 少しずつ朝晩の気温が下がり始めてきました。皆さん風邪など引かれていないでしょうか?ただ、秋は深まってきているはずなのに日差しの強さだけは相変わらずです。日中は暑くて汗ばむことも珍しくないですよね。通りの街路樹もあまり色づくことなく、「一体今の季節は何!?」と言いたくなってしまうような不思議な感覚にとらわれる昨今です。こんな時だからこそ、心にだけはあふれるような感性や希望の泉を持っていたいものですね……

 ところでメンデルスゾーンは自然から感じた抒情を大切にする作曲家でした。彼はフィンガルの洞窟序曲やイタリア交響曲等、目に見える情景を扱った作品が多いことは皆さんご存知でしょう。実際に彼自身、絵画の腕前はプロ並みだったようです。特に風景をテーマにした水彩画あたりは詩情豊かで、どこか憂いを帯びたキメの細かい画風が魅力的ですね。
 そんなメンデルスゾーンですから、陽光煌くイタリアよりも絶えず曇り空で寂寥感漂うスコットランドの方が彼のインスピレーションを刺激したのでしょう。実際に交響曲第3番「スコットランド」は音の風景画家メンデルスゾーンの面目躍如と言える出来映えで、ロマン派を代表する傑作に仕上がっています。
 しかしこれほど美しく哀愁に満ちたメロディを格調高く作りあげる才能は並大抵のものではないでしょう。途中10年余りの中断があったにもかかわらず、この作品が完成にこぎつけられたのはメンデルスゾーンのただならぬこだわりがあったからに違いありません。全4楽章とも変化に富んでいて、さまざまなヴァリエーションの中で生き生きとセンス満点にスコットランドの抒情が奏でられます。


 演奏は最近の演奏では残念ながらあまりいいものはありません。マーラーやブルックナーでは最近次々に素晴らしい演奏が現われてきましたが、スコットランド交響曲はなかなかいい録音に巡り会えません。結局はスローテンポで堂々と細部を謳い上げたクレンペラー盤をあげるしかないようです。 でも隅々まで磨き上げられた造形とよく歌われた弦の響き、管楽器の音色はやはり最高です。どんなにロマンティックなメロディでも、スローテンポを守り抜く彼の強いポリシーがこの作品の隠れた魅力を伝えてくれているのでしょう。


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2010年11月15日月曜日

エリアフ・インバル=都響 ブルックナー:交響曲第6番他



1129日 月 |  開演 7:00 PM  東京文化会館
1130日 | 火 |  開演 7:00 PM  サントリーホール
2010年11月 都響定期ABシリーズ

モーツァルト / ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調K.216 
ブルックナー / 交響曲第6番イ長調
指揮|エリアフ・インバル
ヴァイオリン|四方恭子
演奏|東京都交響楽団

東京都交響楽団 http://www.tmso.or.jp/index.php





   これは楽しみな演目です。そもそも、私がブルックナーの6番を聴くきっかけになったのはこの人の演奏からでした。フランクフルト放送交響楽団を振っての明晰で叙情性豊かな演奏はこの曲の素晴らしさをストレートに伝えてくれました。きっと当日も円熟した名演を披露してくださることでしょう。


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2010年11月9日火曜日

国立西洋美術館8





空と雲が織りなす絶妙な表情

 ブーダンという画家は日本ではあまり知られていません。しかしモネに描法を教授した人だけあって、光や空や空気感を描くことができた印象派の先駆けのような人だったのでしょう。
 国立西洋美術館の常設展でひっそりと佇むように展示されているブーダン作の「トルーヴィルの浜」はサイズも決して大きくなく、色彩、描法もどちらかと言えば地味な絵です。しかしメッセージ性の強い絵を見たあとでこの絵の周辺に来ると不思議とほっとします。

 この絵の主役は上部の大半の面積を占める空の表情です。スカッと晴れた青空ではありませんが、空と雲が織りなす絶妙な表情が実はこの絵に気持ちのいい空間を作っていることに気づかされます。空や雲に生命が吹き込まれ、全体の風通しも良くなり、さわやかな雰囲気がさりげなく作られているのです。
 そして構図の見事さも忘れてはならないでしょう。上空と海岸でくつろぐ人々を貫く水平線が非常に強い意味を持っています。この水平線の効果により、絵全体に静寂とやわらいだ雰囲気が生まれているのです。ですから海岸でくつろぐ人の数は多いけれど、芋を洗うように狭い、騒々しい感覚がまるでありません。それはまるで午後の心地よい憩いの時を演出しているように見え、この平和な時間がいつまでも続くようにさえ思えるのです。




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2010年11月8日月曜日

注目の第九コンサート


今年もあっという間に11月、そしてこれからのシーズンは年末にかけてすっかり日本の冬の風物詩として定着した感のあるベートーヴェンの第九演奏会があちこちで行われます。ここでは注目の第九コンサートをとりあげたいと思います。

1222日 水 |  開演 7:00 PM  NHKホール
ベートーヴェン「第9」演奏会

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学


1223日 木 |  開演 3:00 PM  NHKホール
ベートーヴェン「第9」演奏会

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学



1225日 土 |  開演 3:00 PM  NHKホール
ベートーヴェン「第9」演奏会 

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学
本公演はNHK厚生文化事業団主催のチャリティーコンサートです


1226日 日 |  開演 3:00 PM  NHKホール
ベートーヴェン「第9」演奏会

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学


1227日 月 |  開演 7:00 PM  サントリーホール
FUJITSU Presents N響「第九」 Special Concert

J.S.バッハ / カンタータ第29番「神よ、あなたに感謝をささげます」から 1曲、第2
ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125 「合唱つき」
指揮|ヘルムート・リリング
ソプラノ|タマラ・ウィルソン
アルト|ダニエラ・シントラム
テノール|ドミニク・ウォルティヒ
バリトン|ミヒャエル・ナジ
合唱|国立音楽大学

1221日 | 火 |  開演 7:00 PM  日本武道館
SUZUKI Presents 夢の第九コンサート
in日本武道館

ベートーヴェン / 交響曲 9 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮|西本智実
ソプラノ|大岩千穂
アルト|竹本節子
テノール|小原啓楼
バリトン|宮本益光
オーケストラ|東京交響楽団

TOKYO FMは、第九を通して、感動と共感溢れるメモリアルコンサートを12月21日に開催します。
指揮者には、世界各国で活躍する西本智実さんを迎えます。
また、西本智実さんがTOKYO FMの番組で初心者の方にわかりやすく、丁寧にアドバイスを行いますので、
ラジオを聴けばどなたも気軽に合唱参加が可能となるドリーム企画です。アーティストの誰もが憧れる夢の会場、
日本武道館で一夜限りの最高のステージを共に実現しましょう!
■TOKYO FM 開局40周年記念プログラム
『SUZUKI presents 夢の第九コンサート in 日本武道館』

リスナーと共に平和への願いを込め謳いあげるこのコンサートを、
TOKYO FMで生中継!番組を通じて、あなたも日本武道館と共に
2010年を壮大な音楽で締めくくりませんか?
『SUZUKI presents 夢の第九コンサート in 日本武道館』は、
12月21日(火) 夕方7時から生放送!

東京FM「夢の第九コンサート」 http://www.tfm.co.jp/daiku/



1231日 金 |  開演 1:00 PM  東京文化会館大ホール
ベートーヴェンは凄い!全交響曲連続演奏会2010 






ベートーヴェン:交響曲第1番
ベートーヴェン:交響曲第2番
(休憩)
ベートーヴェン:交響曲第4番
ベートーヴェン:交響曲第3番
(休憩)
ベートーヴェン:交響曲第6番
ベートーヴェン:交響曲第5番
(休憩)
ベートーヴェン:交響曲第8番
ベートーヴェン:交響曲第7番
(休憩)
ベートーヴェン:交響曲第9番
指揮|ロリン・マゼール
ソプラノ|中丸三千繪
アルト|坂本朱
テノール|佐野成宏
バリトン|福島明也
合唱|晋友会合唱団
演奏|岩城宏之メモリアル・オーケストラ
(コンサートマスター:篠崎史紀)

料金
プラチナ:100,000 S:35,000 A:28,000 B:21,000 C:14,000 D:7,000(6月25日発売)

お問合せ メイ・コーポレーション 03-3584-1951





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2010年11月5日金曜日

ラモー レ・ボレアド



Rameau: Les Boreades by John Eliot Gardiner(CD)

Rameau: Les Boreades by Willam Christie(DVD)


手垢がついてない宝の山・ラモーの傑作




音の絵具箱のようなラモーの音楽

 フランスバロックの巨匠、ラモーのオペラは1990年代以降、盛んにレコーディングされるようになりました。私にとってそれは本当にうれしい事実です!こんなに楽しくて生気にあふれた音楽は、めったにはないからです。理屈っぽさはどこにも見あたらず、その音楽は雄弁で洗練された味わいを持っています。しかも少しも軽薄にならず、しっとりとした哀愁も随所に感じさせるのです。

 ラモーの音楽はまるで音の絵具箱のようです。あるときは透明なパステルカラーのようであり、また時にはかすれた水彩の滲みを想わせたりします。その色合いは本当に変幻自在です。そうかと思えば、小鳥のさえずりや季節の香り、新鮮な空気の漂う様子が充実した和音の中で繰り広げられます。ラモーは自然の情趣を気負い無く奏でるミューズの詩人なのだと思います。その美しさはファンタジックでメルヘン的な要素を伴い絶品です。


注目され始めたラモーのオペラ

 ラモーの音楽は1980年代の後半まで芸術性の高さの割には正当に扱われることがありませんでした。とかくクラシック音楽と言えば格調高く神秘的な要素を持たなければならないとか、重厚で難解であることが傑作の条件であるかのように思われがちです。けれども、あけっぴろげで純粋で見通しのいい音楽は一段下のものと思われることも少なくありません。そういう意味ではラモーは不遇な作曲家の部類に入るのかも知れませんね。

 クラブサン曲に限ればバロック音楽の大きな流れのひとつという意味で以前からレコーディングはされてきていました。しかしオペラに関してはほとんど無視されるか正当に採り上げられることはありませんでした。ラモーのオペラに接すること(演奏面、演出面)は、いわば手垢がついてない埋もれた宝の山を掘り当てるのに近い世界があるのではないかと思います。もちろん、ラモーのオペラは後の古典派やロマン派のオペラの構成や作曲法とは異なります。ストーリー性や心理的なドラマにはあまり目を向けてはいないものの、それを上回る抜群の雰囲気があるのです。

 ラモーのオペラが盛んにレコーディングされるようになった1980年代の後半は、奇しくもオリジナル楽器の演奏が市民権を獲得して、モダン楽器にはない透明な響きを伝えようとした時期と重なります。既に様々な演奏で語り尽くされた感があった大作曲家の作品に比べ、ラモーの作品は非常に新鮮だったのは間違いありません。ラモーのオペラはオリジナル楽器を演奏するアーティストたちによって魅力の扉が開かれ、陽の目を見るようになったといっても過言ではありません。

 オペラとして視覚的な要素を抜きにしても音だけでも充分に楽しい……。では何故これほど素晴らしいラモーのオペラが長年評価されなかったのでしょうか? おそらくそれはモダン楽器の演奏では響きが濁ってしまい、ハーモーニーが鈍重に聞こえてしまうからなのではないかと思うのです。あくまでも彼のオペラは無垢で優雅な表情が全面に引き出されなければならないし、ハーモニーは透明でなければ魅力が半減するといっても過言ではありません。


晩年の傑作「レ・ボレアド」

 このレ・ボレアドはラモーの晩年の傑作です。「北風の神ボレアスを信奉する人々(ボレアド)」の女王が、身分を超えた愛をついにつかみ取る愛の勝利を描いた物語です。アリアの美しさ、透明感溢れるピュアなサウンド、立体的な音の構築等、至る所にみずみずしいデリカシーや美しい旋律が溢れています。
 演奏ではまずガーディナーを筆頭にあげなければならないでしょう!ガーディナーはラモーとの相性がかなりいいようで、この作品でも自由自在に曲を操り、ラモーの無垢でファンタジックな要素を見事に引き出しています。とりわけ合唱とメリハリの利いた管弦楽が素晴らしく、ラモーが伝えたかった表情がセンス満点に表現されています。
 映像で素晴らしいのはカーセン演出、クリスティ指揮のパリ・オペラ座での2003年公演です。とにかくカーセンの色彩豊かな舞台に息をのみます。そして隅々にまで神経が注がれた稀有なエンターテインメント性に驚かされます。ボニー、アグニュー、ナウリらを揃えた歌手もベストマッチで夢のような舞台を盛り上げます。踊り、歌、ドラマ、色彩のハーモニーの中で演じられる、時代を超えたエンターテインメントとして今後も語り継がれることになるのではないでしょうか。





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2010年11月1日月曜日

コンサート情報




20101120日[土]15:00 コンサートホール
内田光子&ヴィヴィアン・ハーグナー デュオコンサート
~日本オーケストラ連盟青少年育成基金チャリティコンサート~

(会場)東京オペラシティコンサートホール


既に発売中のプログラム。どんな演奏になるのか、非常に楽しみですね。
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(演奏)
ピアノ:内田光子
ヴァイオリン:ヴィヴィアン・ハーグナー

(曲目)
○モーツァルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ ホ短調 K304
○バルトーク:無伴奏ヴァイオリンソナタ Sz117から「シャコンヌのテンポで」
○J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004から「シャコンヌ」
○ブラームス:ヴァイオリンソナタ第1番 ト長調 op.78《雨の歌》
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[料金](全席指定・税込)
S:¥7,000 A:¥6,000 B:¥5,000 C:¥4,000 D:¥3,000
[チケット取り扱い]
東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999

チケットぴあ
 0570-02-9999(Pコード:112-977)
イープラス http://eplus.jp/
ローソンチケット 0570-000-407(Lコード:39399)
CNプレイガイド 0570-08-9990