空と雲が織りなす絶妙な表情
ブーダンという画家は日本ではあまり知られていません。しかしモネに描法を教授した人だけあって、光や空や空気感を描くことができた印象派の先駆けのような人だったのでしょう。
国立西洋美術館の常設展でひっそりと佇むように展示されているブーダン作の「トルーヴィルの浜」はサイズも決して大きくなく、色彩、描法もどちらかと言えば地味な絵です。しかしメッセージ性の強い絵を見たあとでこの絵の周辺に来ると不思議とほっとします。
この絵の主役は上部の大半の面積を占める空の表情です。スカッと晴れた青空ではありませんが、空と雲が織りなす絶妙な表情が実はこの絵に気持ちのいい空間を作っていることに気づかされます。空や雲に生命が吹き込まれ、全体の風通しも良くなり、さわやかな雰囲気がさりげなく作られているのです。
そして構図の見事さも忘れてはならないでしょう。上空と海岸でくつろぐ人々を貫く水平線が非常に強い意味を持っています。この水平線の効果により、絵全体に静寂とやわらいだ雰囲気が生まれているのです。ですから海岸でくつろぐ人の数は多いけれど、芋を洗うように狭い、騒々しい感覚がまるでありません。それはまるで午後の心地よい憩いの時を演出しているように見え、この平和な時間がいつまでも続くようにさえ思えるのです。
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