2010年12月15日水曜日

セザンヌ サント=ヴィクトール山と大きな松の木







普遍的な内面性を描き刻む芸術性

  セザンヌはキュービズムやフォービズムの画家達に大きな影響を与えたと言われています。ありのまま、見たままを描くのではなく、あくまでも見たものを自分の感性のフィルターに置き換えて、そこから形や色彩を再創造しているからでしょう……。
 こんなことを言ったら失礼かもしれませんが、セザンヌは決して上手な絵描きさんではないと思います。特に人物画は違和感がありますね……。何かカチッとした硬質な感じがつきまとって仕方ないのです。しかも決して美人でもないし、スタイルがいいわけでもないし、笑顔が魅力的なわけでもない……。

  それでも彼の絵は魅力的です。モチーフに内在する存在感や普遍的な内面性を描き刻む芸術性は素晴らしいと思います。セザンヌの場合、あらかじめ自然界や宇宙には見えない法則があって、そこから人間の目に映る視界はさまざまな法則や真理を鏡のように映し出していると捉えていたのではないのでしょうか。セザンヌが自分で再創造した描法や色彩は非常に新鮮で、絵画の世界に新しい可能性を切り開いたことは間違いありません。

 『サント=ヴィクトワール山と大きな松の木』は晩年の傑作です。とにかく、ありきたりのタッチや表情はここには一切ありません。モチーフに内在する生命力、エネルギーや詩情を丹念に注ぎ込み、自分流の翻訳で表現したこの作品は何度観ても飽きない魅力を持っています。

 水彩画のような趣を伝える色面のわずかな塗り残しの新鮮さ。画面全体を円を描くように覆う緑の調和と響き合いが織り成す空気感。そして木の枝を揺らす風や空気や光がさまざまなタッチで溶け込み、奥行きのある表情が生み出されているのです。自信と確信に満ちたタッチはさまざまな要素と共に画面の中で渾然一体となり、風格と気品すら感じさせるのです。

 もし、心にゆとりを持って純粋に素直にセザンヌの絵を観るならば、きっと多くのインスピレーションが与えられるのではないでしょうか。


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