2014年8月14日木曜日

マネ 「笛を吹く少年」









絵画の概念を覆す
画期的な作品

 マネの代表作「笛を吹く少年」は、現在東京・国立新美術館で開催されているオルセー美術館展(2014年7月9日~10月20 日)に展示されています。この絵はちょっと見るとアカデミックで正攻法の代表的な絵のように見えるかもしれません。
 しかし、よく見ると空間の処理や輪郭線の扱い等に大胆で個性的な処理が施されていることにお気づきになるのではないでしょうか。

 背景の扱いについては17世紀スペインの巨匠ベラスケスが描いた「道化師パブロ・デ・バリャドリード」に強い影響を受けていると、マネ自身も語っています。
 形に左右されるのではなく、空気のように人を包み込む大きさと拡がりを持つ背景の表現をベラスケスの絵を見て大いに共感したからなのでしょう。この絵でも背景の処理の的確さが現実世界に埋没してしまいかねないところを救っているようにも見えますね……。
 


際立つ構図と輪郭線

 目を引くのは輪郭線の存在感と構図の見事さでしょう! ひとこと付け加えておくならば、マネは決して明確な輪郭線を描いたわけではありません。 というよりは黒い帽子から黒い制服、そしてズボンの黒いライン、黒い靴に至るまでの巧みな黒いラインの誘導が輪郭線を感じさせるのです……。
 このことが意外に平面的で凹凸がなく、写実的な描写を極力排したピンポイント的な少年の姿を強く浮かび上がらせるようになるのです。

 また、頭のほうから足先に向かって弓のようにしなやなかに導き出される複数のカーブはこの絵によりいっそう動きと安定感を与えていますし、笛と笛、そして足先に至る三角形の直線的な構図は緊張感が漲り、存在感を際立たせています!
 無邪気で元気な笛を吹く少年の姿を伝えようとしたマネの画期的な描画は、さまざまな試みによって今なお私たちの目と心に新鮮に語りかけてきます……。




2014年8月8日金曜日

フランク・キャプラ 「素晴らしき哉、人生!」カラー版









それでも色づけするのか…
不朽の名作

 1946年の映画「素晴らしき哉、人生!」は家族愛や人間にとって大切なものは何かを謳った誰もが認める名作中の名作ですが、実はこの作品、アメリカでは既にカラー版が発売されていたそうですね!!……。

 でも、古いモノクロ映画をカラーでデジタル処理をするという話を聞くと、正直なところあまりいいイメージはないですよね。おそらく無理やり色をつけたような人工着色のような安っぽい印象になるのではないのか……、と思ってしまうのは当然のことでしょう。
 もし着色に失敗して上記のような出来上がりになっていたら、映画そのものの価値や評価さえ下がってしまうのではないか……という余計な心配さえしてしまいます。



驚きと感動に心が震える
名作のカラー版!

 それで恐る恐るyoutubeのサンプル動画を視聴してみたのですが……。これが本当にびっくり! カラーの美しさはもとより、本当に70年ほど前の映画なのか…と見まごうくらい綺麗な仕上がりになっているではありませんか!!
 もちろん、現代の美しいデジタル映像に比べて劣るのは当然ですし、古さゆえ、カラーとして甦ったとしても当然ながら限界があることは否めません。

 でも、それを考慮したとしても、この仕上がり具合は本当に素晴らしいと思います。何より映像が自然ですし、違和感がまったくありません。色を付けたことによるマイナスポイントは見当たらず、この映画を見る楽しさと喜びが格段に増したと言ってもいいのではないでしょうか! 私はサンプル動画を見ただけなのですが、驚きと感動で胸がいっぱいになってしまいました……。

 おそらく技術スタッフの方々の労力は想像を絶するものだったに違いありません。きっとこの映画を心から愛し、その価値と芸術性を熟知している方々なのでしょう……。映画に対する愛情が画面から浮かび上がってくるような気がいたします。
 残念なのは、このカラー版は日本ではまだ発売されていません。作品が作品だけに、首を長くして待ちたいところですね。


youtube動画   素晴らしき哉、人生!  



2014年7月30日水曜日

モーツァルト クラリネット協奏曲イ長調K.622












「遊び」の要素が集約された
モーツァルトの名曲

 作曲家にとって「遊び」はインスピレーションにあふれた創作をし、作品のヴァリエーションの引き出しを拡げる上でとても大事な要素です。「遊び」の要素がないと、大抵は堅苦しく理屈っぽい作品になりやすいのです。
 誤解がないように申しますと、作曲上の「遊び」は決して羽目を外したハチャメチャな作曲をするという意味ではなく、音楽に新鮮な驚きや閃き、ときめきを加味することであったり、既成概念にとらわれない、型にはまらない自由な発想をすることなのです。言うなれば一つの潤滑油のようなものとして捉えることができるかもしれませんね。

 モーツァルトはそのような「遊び」の要素をふんだんに持ち合わせた作曲家でした……。特にモーツァルトの晩年の名作、クラリネット協奏曲は「遊び」の要素が集約された作品と言ってもいいのではないでしょうか。

 クラリネットはモーツァルトがピアノと共に最も愛した楽器のひとつでした。そのことはクラリネットの響きにまるで人の声やおしゃべりのような多彩な表情を施したことでも充分に伺い知ることができます。クラリネットの音色の特性を知りつくしていたからこそ、こんなにも融通無碍で美しい名曲が生まれたのでしょう。



クラリネットと管弦楽
絶妙な対話によって開かれる
心の扉

 モーツァルトの心の想いを素直に反映するクラリネットの響きとそれを優しく包み込む管弦楽の響き……。両者は絶妙な対話によって心の扉を少しずつ開放していくのです。
 中でも前述した「遊び」の要素が顕著に現れるのは第3楽章でしょう。主題らしい主題がなく、道化師のような滑稽なリズムとフレーズで歌われるクラリネットパート……。そしてそれを受け継ぐオーケストラパートのやるせない響き…。何とも意味深い主題の提示方法ですね。哀しみを背負いながら、表面は努めて明るく振る舞ってみせるというモーツァルト流の音楽がここではいつになく胸に染みます。

 音楽的な効果を狙わず、あえて抑制するように静かに開始される第1楽章は、華やかで愉悦感に満ちたいつものモーツァルトの音楽とは大いに違います。無垢ではあるけれども、理想に満ちた人間感情ではなく、変幻自在に光と影、陽と陰を往来するような透明な詩情が肉体を超えた魂の歌のようにも鳴り響いてくるのです。

 第2楽章では遠くを見つめ、涙をためながら立ちつくすモーツァルトの姿が目に浮かぶようです。走馬燈のように様々なエピソードが心に去来するのですが、ここではすべてを達観した澄みきった心境が優しいメロディや美しい記憶となって甦ってくるのです。物思いに耽るクラリネットの多彩で深い表情とクラリネットを温かく包み込む管弦楽の響きが忘れられません。

 推薦したいCDはトーマス・フリードリ(クラリネット)、 チューリヒ室内管弦楽団 =エドモン・ド・シュトウツ(指揮)による録音です。フリードリのクラリネットの表情は深く、とても豊かでまろやかです。クラリネットを受ける管弦楽の響きも素晴らしく、心の嘆き、つぶやき、瞑想等のさまざまな感情がクラリネットと管弦楽のやりとりの中に見事に浮かび上がってくるのではないでしょうか!




2014年7月20日日曜日

国立新美術館 「オルセー美術館展 印象派の誕生―描くことの自由―」









 先日、六本木の国立新美術館で開催されている「オルセー美術館展2014」に行ってまいりました。
 平日の午後というのに大変な混雑ぶりで、今日は何か特別なイベントの日なのか…と思ってしまうほどでした。
 改めてオルセー美術館と印象派の粋を集めた作品の日本での人気の高さを物語るようです! ところで作品全般についてですが、何度も日本で公開されたり、本の解説等で有名な作品が目白押しで、なかなか密度の濃い展覧会だったと思います。

 マネの絵が11点、セザンヌの絵が8展、モネの絵が8展、それぞれが代表作にあげてもおかしくないほどの充実した作品揃いでした。本音としては1回だけではどうしても良さを味わえないので、会期中にもう1回来てもいいかな…と思ったほどです。

 それでは印象に残った作品を簡単にご紹介したいと思います。
 まず、マネの「笛を吹く少年」。
 あまりにも音楽関係の本やサイト等で扱われる事が多い有名な絵ですが、純粋に絵として見てもその完成度の高さに目を奪われます。特に素晴らしいのが大胆なタッチで描かれた輪郭線と空間表現の巧さでしょう!また、シンプルな姿態に隠される秀逸な構図も素晴らしいの一言に尽きます。




 セザンヌの「レスタックから望むマルセイユ湾」は代表作サント=ヴィクトワール山を思い出させるとても密度の濃い作品ですね!絵としてよくこなれていてますし、空気や光等のさまざまな要素が画面の中で渾然一体となり、風格と気品すら感じさせます。おそらくこの絵は何度見ても飽きないのではないでしょうか……。





 モネの「かささぎ」ですが、この人は自然の移り変わる瞬時の出来事にとても心惹かれるのでしょう。この絵でも光を浴びて様々な表情に変化する雪の美しさを実に見事に描いていますね!何気無い日常の風景に発見と喜びを見出した画家の創造性豊かな感性が伝わってきます。





 シスレーの「ルーブシエンヌの道」の華のある風景画もいいですね。明るい陽光と色彩の美しさに思わず魅入ってしまいそうです。







  ミレーの「晩鐘」ももちろん穏やかな情緒を描ききった名画ですが、この作品はできればじっくりと一人で味わいたい(絵と対話すると言ったらいいかもしれません)作品ですね……。どうしても人が多いとこの絵の良さを充分に堪能できないような気がします。

 とにかくこの展覧会は画家のエネルギーが伝わってくる素晴らしい展覧会だと思います。10月まで開催されているので、また少し時間を置いてからもう一度行ってみたい気もしますね……。


オルセー美術館展 印象派の誕生 -描くことの自由-
会期  2014年7月9日(水)~10月20日(月)
場所  国立新美術館 企画展示室2E
住所  東京都港区六本木7-22-2
休館日 毎週火曜日、9月24日(水)
※8月12日(火)、9月23日(火)、10月14日(火)は開館
時間:10:00~18:00 (金は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
※8月16日(土)以降の毎週土および10月12日(日)以降毎日20:00まで
料金  一般¥1,600(¥1,400)、大学生¥1,200(¥1,000)、
    高校生¥800(¥600)、中学生以下無料
    ※()内は前売り・団体料金
TEL  03-5777-8600
URL  http://orsay2014.jp/index.html






2014年7月6日日曜日

アルブレヒト・デューラー 「野うさぎ」











圧倒的な存在感


 ルネサンス期のドイツの巨匠デューラーは聖書の連作や神話をテーマにした絵を描いたスケールの大きい画家ですが、皆さんは彼の代表作といえば真っ先に何を思い浮かべますか?

 私は「アダムとエヴァ」の凛とした表情や「四人の使徒たち」の目ヂカラの強さにも惹かれるのですが、すぐに思い浮かぶのは分かりやすいグワシュと透明水彩で描かれた「野うさぎ」です。
 デッサン力の凄さは言うまでもありません。ひとことで言えばちょっと見ただけで画面に惹きつけられてしまう圧倒的な存在感の凄さと言ってもいいでしょう。デッサンでモチーフからこれだけの存在感を出せる人ってなかなかいません。
 ウサギの柔らかそうな毛並みやピンと立った耳はもちろんのこと、ゴツゴツとした骨格までリアルで違和感がないのですね……。とにかく、この絵からは「狙った獲物は離さない!」的な並々ならないデューラーの気迫が伝わってきます!

 この「野うさぎ」も実は巧みな仕掛けやデフォルメがされています。たとえば、空間を感じさせる構図の素晴らしさ! 絵の右下の方から逆三角形に拡がる構図は今にも動き出しそうなうさぎの様子を効果的に引き出しています。
 また、グワッシュや透明水彩のように性格の真反対の画材を使用しながらも、それを完璧に馴染ませている画力! ひとつひとつの描線に神経を通わせ、細心かつ大胆に描き分けることによって生命力を注ぎ込むことにも成功しているのです。




2014年7月1日火曜日

キャスリーン・バトル 「クリスマスを歌う」










楽器にはない
人間の声の魅力

 昔から人間の声には素晴らしい魅力が備わっているとよく言われます。究極的にはいかなる楽器の響きも人間の歌声には、やはりかなわないとも言われています。しかも似ている声質の人はいても、まったく同じ声質の人は地上に誰もいないということを考えると、人間の声、特に歌声は神様が人間に与えてくださった最高の賜物なのかもしれません。

 声楽家にもいろいろなタイプがあって、たとえば声量で圧倒する人もいれば、豊かな感情表現で魅了する人もいます。そうかと思えば、完全無欠のテクニックで聴かせてしまう人もいますし、声の美しさで魅了する人もいますよね……。
 聴く人は自分の相性に合う様々な個性や声質の歌手たちの歌声に魅力を発見し、聴く喜びや感動を共有するのだと思います。

 1980年代の後半から1990年代にかけて活躍し、一世を風靡したソプラノ歌手のキャスリーン・バトルの存在は間違いなく私にとって心を鷲掴みにされた歌手の一人でした。日本ではウイスキーのCMで披露されたヘンデルの「オンブラ・マイフ」の歌声や雰囲気があまりにもセンセーショナルだったこともあって、覚えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか? 「オンブラ・マイフ」もそうですが、彼女が歌うレパートリーの曲って、ほとんど完全に何の違和感もなく自分の歌として聴かせてしまう驚くべき才能の持ち主だったんですね……。



バトルの声に酔う
クリスマスアルバム

 特に1989年に発表されたクリスマスアルバム、「クリスマスを歌うーきよしこの夜ー」は絶品でした。歌手にはいろいろな持ち味のタイプがあると言いましたが、おそらくキャスリーン・バトルは上記の魅力をほぼ過不足なく持ち合わせていた人と言ってもいいと思います。
 バトルの歌の魅力として、ピアニッシモの美しさがまず挙げられると思います。しかも発声に無理がないため、聴く人は自然な呼吸のリズムに合わせて音楽を味わうことができるのです。つまり、聴き手は歌手の発声上の癖や呼吸の苦しさ等に左右されないで、土に水が染みこむように音楽を堪能できるので気持ちがいいのですね! 類稀な美声と音域の広さもバトルの歌の魅力を引き立てています。

 しかし、何と言ってもバトルの素晴らしさは天性の音楽性と情感の豊かさに尽きるのではないでしょうか。それはこのクリスマスアルバムに最高に発揮されていると思います。

 オープニングの「神の御子は今宵しも」から、抜群の音楽性と歌い回しの自然さに魅了されてしまいます!
 その他、透明感に満ちた真摯な歌声が光る「エサイの根」、七色の声と感情の豊かさに惹かれる「幼な子イエス」、遠くへ連れさられるような深い感情移入と繊細な表情が素晴らしい「私は驚きながらさまよう」、とろけるような優美なピアニッシモの「マリアの子守歌」!等々、挙げればキリがありません。
 アルバムとしての完成度も高く、レナード・スラットキン指揮の聖ルカ交響楽団や合唱団のサポートも素晴らしいの一言です。一般的な寄せ集めのクリスマスソング・オムニバス集とは一線を画した、すべてにバランスがとれた名アルバム、クリスマスアルバムと言えるでしょう。




2014年6月25日水曜日

「こども展 / 名画に見るこどもと画家の絆」を見て






モーリス・ドニ「トランペットを吹くアコ」
1919年 油彩・厚紙 52×35㎝ 個人蔵




優しいまなざしの
巨匠たちの絵

 先日、六本木の森アーツセンターギャラリーで開催されている「こども展」を見てまいりました。率直な感想としては、とにかく良かったですね。いつもは大作や意欲作を描く巨匠たちの絵の何という微笑ましさでしょうか……。どの絵にも共通して言えるのは絵に気負いがなく、優しさに満ちていることでしょう…。

 こんなに肩の力を抜いて見ることが出来た展覧会って久しぶりかもしれません! いつもは展覧会に出向くとヘトヘトになって帰ることが多いのですが、今日はいい意味で例外だったようです。

 私が一番印象に残ったのがモーリス・ドニが描いた3枚の絵です。「トランペットを吹くアコ」や「サクランボを持つノエルの肖像」、「海辺の更衣室」はいい絵本を見たときの子どもたちの夢や豊かな詩情の世界を思い起こさせてくれました。ドニは子供たちが可愛くて可愛くて仕方なかったのでしょう。その表情や仕草からも子供たちが持っている無邪気な雰囲気がよく伝わってくるのですね。

 またあのキュービズムの大巨匠ピカソの絵も、通常の絵とは一味も二味も違う子ども目線での描画を残しているのには驚きました。特に切り絵は遊び心満載で、何だか見ていてとても楽しくなってきます。
 この展覧会の楽しみかたは人それぞれでしょうが、ぜひとも既成概念を持たないで行ってみてください。思わぬ絵との出会い、発見があるかもしれませんよ……!?。 とにかく心に残るいい展覧会でした‼

公式サイト http://www.ntv.co.jp/kodomo/