2012年11月2日金曜日

野生のエルザ






 ずいぶん前のことになりますが、かつてテレビで大自然や動物の生態を描いた「野生の王国」や「驚異の世界」等のドキュメンタリー番組がたくさん放映されていました。これらの番組はどれも面白くて、毎回胸をワクワクしながらテレビに釘付けになって見ていたのを思い出します!考えてみればあの時代は今ほど簡単に情報を手に入れることなどできなかったし、ましてや遠い異境の地の映像を見るなど簡単ではなかったのでした……。
 それだけに毎回放映される自然の出で立ちはとても新鮮かつ驚きの連続で、「人間の常識を超えた世界が確実にあるんだな」ということをひしひしと感じたりもしたのです!

 野生のエルザ(1966年制作)はちょうどそのような動物の生態系に関心が注がれる時代に封切りされた作品でした。この映画はジョイ・アダムソンの自伝「Born Free」に基づく人間とライオンの心の交流を描いた作品で、リアリティあふれる映像は深い感動を呼び起こします。動物と人間の交流を描いた映画はたくさんありますが、「野生のエルザ」は今もって最高の感動作と言ってもいいでしょう。

 この映画の成功は全編ケニアロケを決行し、作り物ではない真実味にあふれた映像を獲得できたことが大きいのではないかと思います。特に子ライオンのエルザを育てたあげく、「自然の中で生まれたものは自然に帰すのが一番」と決心するところは大きな苦悩を伴い胸をうちます。その後、何度も挫折しながら野生に帰す試みをするアダムソン夫妻の姿はまるで実の子どもを一人立ちさせる親の姿のようです。エルザを野性に戻すことが成功し、数年後にアフリカを訪れた二人は感動の再会を果たすのでした……。

 この映画で何よりも印象に残るのは主演のビル・トラヴァースとヴァージニア・マッケナの自然な演技でしょう。二人はライオンを抱っこしたり撫でたりするのですが、どのシーンもスタントマン無しでやりきっており、その役者魂には感服いたします!
 彼らは実生活においても夫婦で、この映画を機に野生動物保護運動を精力的に始めたというのですから、役作りやアダムソン夫妻の生き方への共感の度合いも並大抵ではなかったということなのでしょう。

 ジョンバリーの音楽も壮大かつ余情の伝わってくる音楽で画面を暖かく満たします。この映画にこそふさわしい最高のスタンダードナンバーと言えるでしょう。


2012年10月29日月曜日

巨匠たちの英国水彩画展



英国水彩画の魅力を探る「巨匠たちの英国水彩画展」






 水彩画は親しみやすく描きやすい絵の道具であることは誰もがご承知のことと思います。油彩の下書きとして描かれたり、建築や室内インテリアの完成予想図として描かれることも多いですよね!
 しかし実際に描いてみると水彩は結構難しい材料なんですよね。特に透明水彩で描くとそれは顕著に現れます。にじみやかすれ、おもしろい表現を狙ったりと水彩独自の効果が出やすいのですが、失敗するととても見られない(!?)状況になってしまいます。(^_^;

 とにかく油彩のように塗り直しが一切効かないし、一発勝負の感じが強いため確かなデッサン力が要求される場合が多いのです。
 でも水彩画の心安らぐ、あの手触り感の強いタッチや優しいイメージはやっぱり捨てがたいですね……。
 前置きが長くなってしまいましたが、現在東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで「巨匠たちの英国水彩画展」が開催されています。誰もがよく知っているターナー、ウィリアム・ブレイク、ロセッティ等の水彩画が一堂に集った展覧会で、その内容は改めて水彩画の素晴らしさと可能性を示してくれるものになっています。
 かつては「国民的美術」と言われた英国の水彩画。英国の自然のように繊細でありながら独創的なスタイルを模索した輝かしい水彩画の数々が目白押しです!
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 英国マンチェスター大学ウィットワース美術館は、近代美術を中心とした作品を所蔵していますが、中でも4,500点以上の英国の水彩画と素描のコレクションは世界的に有名で、高い評価を得ています。
本展では、ターナーをはじめとする英国水彩画を代表する多くの画家たちの作品を展覧します。
さらにラファエル前派の画家であるロセッティ、ミレイ、ハントやバーン=ジョーンズら日本でもよく知られる人気の画家たちにも焦点をあてます。18世紀から19世紀の英国の巨匠たちの水彩画を中心とした約150点の作品により、繊細かつ緻密な彩色がほどこされた気品と優しさあふれる英国水彩画の全盛期をご紹介します。(公式サイトより)

【巨匠たちの英国水彩画展概要】
会場     Bunkamuraザ・ミュージアム 
       東京都渋谷区道玄坂2-24-1
会期     2012年10月20日(土)~12月9日(日)
入場料    一般=1,400(1,200)円
       高大生=1,000(800)円
       小中生=700(500)円
       *( )内は前売/20人以上の団体料金
       *障害者手帳をお持ちの方は割引制度有り
休館日    会期中無休
開館時間   10:00~19:00(金・土曜日は21まで開館)
       *入館は閉館の30分前まで
問い合わせ先 tel. 03-3477-9413
主催     Bunkamura、マンチェスター大学ウィットワース美術館、
       朝日新聞社



2012年10月26日金曜日

モーツァルト ピアノソナタ第8番イ短調K.310









 モーツァルトはピアノをとても愛していました(ピアノというよりもフォルテピアノというほうが正しいのかも…)。 そして彼とピアノの関係は切っても切り離せない重要な作曲の源泉だったということはほとんどの方がご存知ではないかと思います。中でもピアノソナタk310は短調の曲ではありますが、昔から日本ではとても人気がありました。

 この作品はモーツァルトのピアノソナタの中でも特別な位置にある作品といっていいでしょう。それは人を喜ばせたり楽しませるよりは自分の心に忠実に、そして心の張り裂けるような想いを素直に音楽に託したといっていいかもしれません。

 有名な交響曲第40番や交響曲第25番のイメージをそのままピアノソナタに置き換えたような雰囲気があります。しかし、ピアノソナタという性格上、管弦楽曲や交響曲よりもっと自由な表現が可能で、デリカシーに満ちた表情が出やすいジャンルであることも間違いありません。それがはっきりと確認できるのが第3楽章プレストでしょう。

 とにかくこの第3楽章はいつ聴いても凄いですね! モーツァルトの数多くのソナタの中にあってもとりわけ豊かさにあふれ至高の輝きを放つ傑作と言えるでしょう。一音符ごとに様々な想いや感情が込められており、繊細で透明感に満ちた旋律が心を揺さぶります。
 涙に濡れながら駆け抜けていくテーマではありますが、メロディはたおやかな表情を保ちながら忘れ難いニュアンスを残していきます。そして中間部での天国的な優しさ……。それは永遠の母性とも言えるような安らぎが顔を覗かせる瞬間でもあるのです! 

 第2楽章アンダンテ・カンタービレも凄い音楽です。そして恐ろしい音楽でもあります。多くのピアニストの方々にとってもその感情表現はかなり苦心されることでしょう。とにかく音楽が純粋無垢であるがために却って感情表現が難しいのです。
 出だしは穏やかで平静を装っているように見えるのですが、既にとめどもなくあふれる涙をどうすることもできないモーツァルトの姿が瞼に浮かんでくるのです。吐息や諦観が絡み合いながらしみじみとした味わいを醸し出していくあたりは筆舌に尽くせません!中間部の激しい慟哭の中で、心がどうにかなってしまうのでは……という寸前でまた現実に引き戻されます。

 もちろん第1楽章も有名な悲劇的なテーマをはじめとして充実し変化に富んだエピソードが無垢な魂の中で次々に展開されます。この作品からもわかりますが、モーツァルトの偉大なところはドラマティックな曲といえども決して感情に溺れることなく、高い次元で結晶化された響きや澄み切った表情を生み出しているところでしょう。

 K310は演奏が難しく、CDの名演奏は現在のところかなり限られているように思います。その中ではディヌ・リパッティの最後の録音リリー・クラウスのCBS盤が双璧でしょう。
 リパッティの演奏は1950年ブザンソン音楽祭でのライブ録音で彼の最後の録音です。もちろんモノーラルで決して良好な録音状態ではありませんが、本質をしっかり捉えた演奏は今でも深い感動を与えてくれます。何よりも飾らず外連味のない清廉な語り口がモーツァルトにはぴったりです。

 クラウスの演奏はリパッティに比べると演奏の振り幅が大きく、この曲にモーツァルトが託した思いがどのようなものであったかが伝わってくるような演奏です。特に第2楽章、第3楽章の深い感情移入と引き締まった表現は他のピアニストからはなかなか聴けません。クラウスは1956年のEMI盤(モノーラル)もありますが、そちらも即興的で深い表情が印象的な素晴らしい名演奏です。


2012年10月10日水曜日

メトロポリタン美術館展 大地、海、空―4000年の美への旅



メトロポリタン美術館展 大地、海、空―4000年の美への旅



 この展覧会は普通の展覧会とは少々趣が違います。それは一般的に絵画が展示物のメインの場合が多いのですが、この展覧会は工芸品や写真等の数がかなり多く、むしろ博物館的な面白さやカテゴリーの広さを持った展示会になっているのです。
 もちろん純粋に絵画を見る面白さにも事欠きません。たとえば、レンブラントの「フローラ」やゴッホの「糸杉」、セザンヌの「レスタックからマルセイユ湾を望む」等、その時代に重要な足跡を残した作品が展示されているのです。
 自然の姿に人間はどのようにインスピレーションを受け、作品として表現し結実させてきたのかをメトロポリタン美術館の膨大なコレクションの中から光をあてる、ちょっとユニークな展覧会です。




フィンセント・ファン・ゴッホ「糸杉」1889、油彩


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 東京都美術館は、2012(平成24)年にリニューアルオープンを迎え、メトロポリタン美術館(通称:メット)所蔵の珠玉の作品の数々による特別展を、同年秋より開催いたします。テーマは「西洋の美術において、風景(大地、海、空)や動植物が、どのように捉えられてきたか」というもの。メットの17の学芸部門のうち12の部門を横断して構成される本展では、紀元前2千年の古代メソポタミア文明の石彫から、中世ヨーロッパの工芸品、イスラムの写本、銀器やガラス製品、テキスタイル、西洋美術を代表する巨匠たち、レンブラントやターナー、ゴッホらの油彩画、そして19世紀から現代までの写真作品の数々によって、自然をモチーフとした表現の変遷を振り返ります。
 万物の源であり、神秘的な計り知れぬ力をもつ世界に向けて、人間はどのような眼差しを注ぎ、輝かしい創造へと導かれる霊感を得てきたのか──。本展の主題は、メットを訪れる世界中の人々を魅了してやまない、まさに「人類の美の遺産」のエッセンスといえるものです。[美術館サイトより]



会場                東京都美術館 
                       東京都台東区上野公園8-36
会期               2012年10月6日(土)~2013年1月4日(金)
入場料           一般=1,600(1,300)円
                      学生=1,300(1,100)円
                      高校生=800(600)円
                       65歳以上=1,000(900)円
                       *( )内は20人以上の団体料金
                       *中学生以下は無料
                      *障害者とその介護者1名は無料(要障害者手帳)
休館日           月曜日(ただし、10/8、12/24は開室)、
                      年始年末休館(12月31日 1月1日)
開館時間       9:30~17:30(金曜日は20時まで開館)
                      *入館は閉館の30分前まで
問い合わせ    tel. 03-3823-6921
主催              東京都美術館、メトロポリタン美術館、読売新聞社
公式サイト    http://met2012.jp/





2012年10月5日金曜日

ヘンデル 合奏協奏曲集作品6-3(9番-12番)




【合奏協奏曲 第9番 ヘ長調 HWV.327】
 合奏協奏曲作品6の中で最もメリハリがあり、壮麗で典雅なメッセージ性に富むヘンデルらしい魅力に満ちた作品と言っていいでしょう!。第2楽章の舞曲風のリズムをテーマにした陽気でエネルギッシュなアレグロは生き生きとしたドラマを展開していきます。驚くのは長調から短調への転調の自然さとシンプルなテーマから音楽が発展し、輝きを増してくるところでしょうか…。
 最も美しいのはあふれるような悲しみを音楽に託した第3楽章ラルゲットでしょう。このラルゲットはもはや悲しみという範疇を突き抜けた至高の音楽だと思います。これほど深い哀しみを描いた曲なのに不思議と心慰められるのは何故なのでしょうか? おそらく人の心の普遍的な感性に通じるものがあるからなのでしょう……。
 第4楽章の壮麗なフーガも見事ですし、第5楽章の神秘的な和音や第6楽章の広々としたジーグの魅力もなかなかのものです。

Karl Richter

(演奏)この曲はリヒター指揮ミュンヘンバッハ管弦楽団の独壇場です。第2楽章アレグロのメリハリの効いた自在な表情!ラルゲットの曲にひたすら没入する深い哀しみの表現。毅然として格調高いフーガ!晴朗でいて味わいが深い終曲ジーグ等々……。リヒターの表現はこの曲の魅力を最大限に描き出してやみません! 合奏協奏曲作品6の演奏にしては少々重たすぎるのではという懸念はこの曲に関する限りまったくあてはまりません。むしろ、ここまで曲の意味を抉り出し、透徹した響きを生み出したリヒターに拍手を送りたいくらいです。まさに第9番の唯一無二の演奏と言っていいのではないでしょうか。


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【合奏協奏曲 第10番 ニ短調 HWV.328】
 非常に充実した作品です。全体は強靭な精神性と音の塊の中に次々と意味深い主題やメロディが現れます。息もつけぬほど密度の濃い響きの連続に心が大きく揺さぶられますね。孤高で厳しい表情は深まる秋の憂愁や冬の冷たい空気を伝えるかのようです。しかし、曲の内面では絶えず熱い炎が燃え上がっているのです!
 傑作なのはフィナーレのアレグロ・モデラートでしょう。それまでの緊迫した雰囲気とは180度違う(!?)と言ってもいいほどの無垢で明るい主題なのです。正直言ってこのあまりの違いに困惑してしまう方は多いのではないでしょうか? しかしこのような形で曲を終わらせたかったヘンデルの意図は意外と深いものなのかもしれません……。

August Wenzinger(Board Highlights LP)


(演奏)ヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルームの演奏は完璧です。どこにもデフォルメしたり、無理に力を加えたような雰囲気がないのに、あふれる音楽性、深い意味、自然な呼吸。その芸術性の高さにすっかり魅了されてしまいます。どこをとってもこの曲で考え得る限りの最高の味わいを堪能させてくれる演奏と言っていいでしょう。


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【合奏協奏曲 第11番 イ長調 HWV.329】
 まず、愛嬌を振りまくように親しく語りかけるテーマの第1楽章が印象に残りますね…。しかし展開部ではソロヴァイオリンと合奏の緩急の変化が曲を多彩に発展させ盛り上げていきます。

 第3楽章ラルゲットの小鳥のさえずりを聴き、雲の流れを見つめるような叙情的で美しいメロディ……。そしてフィナーレのアレグロの澄みきった青空を無限に飛翔するような自由なメロディと快適なテンポが最高です!





Orpheus Chamber Orchestra
August Wenzinger(Board Highlights LP)

(演奏)現状ではオルフェウス室内管弦楽団かヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルームあたりがベストかと思います。この曲は第4楽章のラルゲットとフィナーレのアレグロが曲の印象を大きく左右します。その点で前記2盤は他を大きく引き離しているのです。

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【合奏協奏曲 第12番 ロ短調 HWV.330】
 この作品は全12曲の中では比較的に馴染みが薄く、特徴が弱いと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、この作品独自の魅力は充分に備わっています! 第1楽章のプレリュードは魂の孤独を切々と訴える深遠な音楽です。そして第2楽章アレグロはヴィヴァルディの協奏曲のメロディによく似ていますが、中間部での目眩く展開される心の嵐が凄く、激しい慟哭さえ感じさせます。
 第3楽章のラルゴは諦観さえ伝わってきます。一切の飾り気を排したしみじみとした心の音楽は見事というしかないでしょう……。中間部のソロヴァイオリンの美しさも心にしみます。


Orpheus Chamber Orchestra


(演奏)オルフェウス室内管弦楽団の研ぎ澄まされたアンサンブルが最高に力を発揮した作品です。とにかく弦のしなやかさ、音楽性の高さ、無駄のない造型に唸ってしまいます。素晴らしい録音がそれに輪をかけます!







2012年9月28日金曜日

ヘンデル 合奏協奏曲集作品6-2(5番-8番)



【合奏協奏曲 第5番 ニ長調 HWV323
 合奏曲集の中では最もヘンデルらしい男性的な迫力を持ち、旋律も親しみやすく覚えやすい曲でしょう。 第1楽章の出だしは弦楽器をファンファーレの合図に見立てて構成されています。この開始によって広々とした土壌が音楽に築かれていることを感じるのではないでしょうか。
フーガの立体的な迫力と爽快感も格別ですね!舞踊風のリズムをテーマにした第3楽章プレストも、ご機嫌な第5楽章アレグロもヘンデル特有の含蓄のある親しみやすさと愛嬌で忘れ難い印象を残してくれるのです! メヌエットはシンプルですが、気品に満ちた印象的な音楽でフィナーレを美しく飾ります。

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karl Richter



(演奏) カール・リヒターの演奏は今でもこの作品の名盤として多くの人に愛聴されています。リヒターの演奏の魅力は強靱な通奏低音の充実や男性的なダイナミズムがまずあげられると思います。しかも曲に取り組む姿勢が一貫して真摯でどこまでも求道的なのです。この曲が持つ格調の高さやヘンデルの求めている精神性には一番近いかもしれません。

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【合奏協奏曲 第6番 ト短調 HWV.324】
 終始厳しく、孤独に沈む魂の安住の地を求めるかのような名曲です。
 第1楽章や第2楽章で耳にする心の葛藤を表す不協和音はベートーヴェンの交響曲の提示部を想い起こさせ、その意味深い旋律は心に突き刺さります! バロックを超えた前衛的な旋律がとても印象的ですね…。しかし、ミュゼットのスケール雄大で荘厳な響きはこの曲の暗い影を振り払ってくれるのです。ここではヘンデルの真摯な魂と懐の深い音楽性が真骨頂を示しており、視界が開け、光が差し込んでくるような感動的な情景が綴られていくのです。


(演奏)ヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団の演奏は素晴らしいのひとことです。特に合奏部分にファゴット等の管楽器の響きをブレンドして、色彩感や実在感に富む音色を生み出しているのには驚かされます!ミュゼットの落ち着き払った深い呼吸…。どこにも軽薄な響きはなくこの作品の魅力をたっぷりと味わえます。

 リヒター盤は厳しい造形と響きをモットーにした演奏で、中でもミュゼットの雄大なスケール感は見事です。ただあまりにも力が入りすぎてしまい、美しさを失っているところが見られるのが少々残念です。

August Wenzinger(Board Highlights LP)



Karl Richter


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【合奏協奏曲 第7番 変ロ長調 HWV.325】
 第1楽章は爽やかな朝の始まりとその感謝なのでしょうか……。最初の麗しい響きに思わず引き込まれます。そしてすぐさま、お茶目で可愛らしい第2楽章に引き継がれるのです。この愛らしい音楽は無邪気で機知に富んでおり、第3楽章以降に重要な橋渡しをするのです。第3楽章のアダージョは前楽章が生気に満ちていたためによけいに一抹の寂しさや哀しみが強く胸に染みますね…。
 第4楽章ラルゲット、第5楽章アレグロはこの作品の白眉です!特にアレグロは無窮動のようなリズムをテーマとして喜びや哀しみを包み込んでいくような強いメッセージがあるのです!


(演奏)やはりヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団の演奏を挙げないわけにはいきません。第1楽章の深い響きにまず引き込まれ、その後に展開する様々なエピソードは終始微笑ましく愛情を持って演奏されています。


August Wenzinger(Board Highlights LP)

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【合奏協奏曲 第8番 ハ短調 HWV.326】
 曲調は深い憂愁に彩られたかなり渋い作品なのですが、聴けば聴くほどに味わいが増す傑作です。全体として良質の弦楽四重奏や崇高なエレジーを聴くような趣きがあります。
第2楽章で心の闇を痛烈に吐露するあたりはヘンデルとしても異例で、この先どうなってしまうのかと心配になってしまいます……。
 その後、曲はますます深みを増し、この作品でヘンデルが伝えたかったのは鎮魂の想いや生きとし生けるものの哀しみだったのだろうか……。と思えてくるのですね。
 作品の中で特に印象的なのは気持ちの高まりや胸の鼓動を伝えるような第3楽章アレグロ。 絶望の淵に立ち、悲しみに打ちひしがれながらも決して希望や微笑みを捨てない第4楽章のシチリアーノあたりになるのではないでしょうか。




(演奏)まずヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団を挙げたいと思います。安心して聴ける丁寧で本質をしっかりと捉えた演奏、柔らかい響き、自然な音楽の流れ。どれをとっても最高ではないでしょうか。
 リヒターの演奏も鋭く本質を捉えた演奏です。 特にシチリアーノはヴァイオリンのソロや合奏すべてにおいて著しく内面の湧き上がる想いを表現したもので、8番の録音において欠かせない名盤です。

August Wenzinger(Board Highlights LP)





Karl Richter


2012年9月23日日曜日

ヘンデル 合奏協奏曲集作品6-1(1番-4番)







合奏協奏曲作品6 第1番~第4番(HWV.319-HWV.322)




【合奏協奏曲 第1番 ト長調 HWV.319】
 合奏協奏曲作品6を象徴するような作品で、堅苦しさのない爽やかな曲調が印象的です。バッハのブランデンブルク協奏曲第1番の開始と比べると、そのあまりの違いに驚かれるかもしれません。空気のように軽やかで、エネルギーにあふれ自由で多彩なヘンデルの音楽! この1番でも春の到来を想わせるような希望に満ちた弦楽器のパッセージがとても新鮮です。

 第1楽章は短いけれどもはっとするような懐かしさとデリカシーがあります。聴き進むうちに何かが始まるような予感と爽やかな抒情に次第に心が引きつけられのではないでしょうか。
 第2楽章ではさらに広々とした希望の出発のようなテーマが繰り広げられます。第3楽章のアダージョは心の内面を見つめるようなヴァイオリンの音色が印象的。第4楽章のアレグロはこの作品の核心の部分で、自由なフーガによる決然とした曲調が希望や喜び、憧れの想いを更に膨らませていきます。それを受けるフィナーレのジーグも晴朗で快活なメロディが曲を大いに盛り上げていきます!


Orpheus Chamber Orchestra



 (演奏) オルフェウス室内管弦楽団の演奏は指揮者を置かず、各奏者の自発的な感性によって生み出されたものです。この1番はそのような個々のオリジナリティがプラスに出た結果と言えるでしょう。弦楽器の透明感を漂わせた美しさ。モダン楽器なのに野暮ったくならない卓越した音楽性等、本当に素晴らしいです。特に第3楽章アダージョの中間部でソロの弦楽器が歌い交わす美しさは恍惚としたひとときを約束してくれます。

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【合奏協奏曲 第2番 ヘ長調 HWV.320】
 第2番は自然への感謝がテーマになっているとよく言われます。たとえば、第1楽章のみずみずしい楽曲は爽やかな風、穏やかな光を想わせ清々しい余韻を残します。第2楽章のアレグロもシンプルな曲の構成と可愛いらしい主題の進行に胸が高鳴っていきます。
 そして短いけれども曲の核心と言えるのが第3楽章のラルゴ!
 何度も立ち止まり、自然のささやきを聴き入るようなソロヴァイオリンとオーケストラのやりとり! 中間部からは雨上がりの草木が光を浴びて輝きを放つような情感が続きます。ここは何回聴いても素晴らしいですね! まるで自分が瞑想し自然と語りあっているような錯覚に捉われたりもします。
 このチャーミングなラルゴのあと、フィナーレのフーガヘと続きます。このフーガは自然賛歌を締めくくるにふさわしい、宇宙的な意思に貫かれた名旋律と言えるのではないでしょうか。

B. Neel String Orchestra


(演奏)2番はボイド・ニール指揮ニール弦楽合奏団の演奏(1950年盤)が最高です。 ニールはこの作品をとても大切にしているようで1938年盤の演奏も素晴らしい出来ばえでした。情感豊かな演奏で繊細な表情を見事に捉えています。特にラルゴの魅力は筆舌に尽くし難く、ちょっとした気分の変化に敏感に反応し入魂の名演奏を成し遂げています。

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【合奏協奏曲 第3番 ホ短調 HWV.321】
  深い森を想わせる幽玄な響きが印象的です。
 第1楽章序奏で憂いを帯びたもの悲しい弦の調べが回想のシーンのように映し出され、曲の全体的なイメージを彷彿とさせます。
しかし、この曲で最も印象的なのは第3楽章ポロネーズでしょう。 舞踊風の独特のリズムとテーマはそれまでの鬱積した気分を一掃させるような愉しさと生命のエネルギーに満ちているのです。最高に上機嫌で屈託のない笑い声が聴こえてきそうな音楽が何とも心地いいです!

August Wenzinger(Board Highlights LP)


(演奏) LP時代の最高の名盤、アウグスト・ヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルーム管弦楽団の名演奏が未だにCD化されてないのは本当に不思議です。CDが発売されることを首を長くして待っているのですが、現在の状況では今後も期待できそうにありません。このままこの録音が時間の流れと共に忘れ去られなければいいのですが……。演奏はどこまでも優雅で滋味あふれる響きがとても心地よく、3番の本質を堪能できます。
 とりあえずCDジャケットはないものの、LPのハイライト盤の画像のみ掲載させていただきます。

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【合奏協奏曲 第4番 ホ短調 HWV.322】
この作品は合奏協奏曲の中で最も芸術的な香り高い作品ではないでしょうか! とにかく各曲が有機的な関係を保ち、ギリシャ彫刻のように高い次元で結晶化されています!つまり、 全4曲がめくるめく感動と驚きの中であっという間に終ってしまうような感じがするのです……。
 第1楽章の美しく澄み切った旋律は崇高な哀しみがひたひたと伝わってきます! さらに第2楽章では目の覚めるような厳しいフーガがとめどなく打ち寄せる波のように展開され、聴く者の心を圧倒します。
 そのような厳しい2つの楽章を受けるのが優美な第3楽章のラルゴです!特別な主題は持ちませんが、天上から降りそそがれる光のヴェールのように、優しく深い充足感を与えてくれることでしょう!第4楽章も誇張された表情はありませんが、その強靭な足どりと安定した曲調は最高です。

August Wenzinger(Board Highlights LP)

Orpheus Chamber Orchestra



(演奏)ヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム管弦楽団はテンポの設定や間の取り方が絶妙で、ストレートにこの作品の美しさや本質を実感できます。特別なことは何もしていないはずなのに音楽から風格や透明な詩情が漂ってくるのです。

 オルフェウス室内管弦楽団の演奏はヴェンツインガー盤に比べるとやや線が細い感じがしないでもありませんが、磨き抜かれたアンサンブルの精緻さが最高に発揮されています。第1楽章の祈りに満ちた表情、第2楽章の雄弁で直線的なフーガは素晴らしく、第3楽章ラルゴの透明感漂う夢のような情緒も素晴らしいです!