2014年2月25日火曜日

コロー 「モルトフォンテーヌの思い出」











夢の中の出来事を切り取ったかのような詩的な情景

 「あの時は楽しかったな」「小学校の頃に遊んだ光景が今も心に甦る…」「あの頃は見るものすべて輝いていた…」


心にいつまでもしまっておきたい大切な思い出を持っていらっしゃる方はきっと多いことでしょう……。
 コローの『モルトフォンテーヌの思い出』は、そのような誰もが持っている美しい記憶を絵に留めた稀有な作品と言えます。まるで夢の中の出来事を切り取ったかのような詩的な情景がこの絵には広がっているのです。
 コローといえば樹々を揺らす優しい風や柔らかな光が印象的なのですが、本作でもその魅力は充分に伝わってきますね。

たとえば、柔らかで落ち着いた色彩が湖に反射する優しい光を引き立てているし、木漏れ日がグレートーンの色調と美しく響きあってロマンチックな情緒を生み出しているのです。また、左方で小さな木を囲み無邪気に遊ぶ3人の女の子や所々で健気に咲く花々は、何気ない日常を靜かな幸福感で満たしてくれるのです……。


 でも、特に印象的なのは、風にそよぎ、光を浴びて豊かな表情を見せる湖にせり出す大きな木であることはいうまでもありません。この大きな木が見せる様々な表情は、絵に潤いや空気感、温もりを与える大事な要素となっているのです。コローの重要なモチーフとして、また主役として何度も彼の絵に登場する「木」ですが、おそらく彼にとって「木」とは心の機微を反映させる最愛・最高のモチーフだったのでしょう。

 


2014年2月20日木曜日

ブリューゲル 「雪中の狩人」











ストーリー性のある風景画

自然に触れると「心が癒される」という方は多いでしょう。また、美しい風景画を見て癒されるという方も決して少なくないと思います。
でも個性的で様々な仕掛けが施してある風景画を見て癒されるという方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか……。同じ風景を描いたとしても、描く人の個性やポリシーによってまったく違う作品に仕上がるのが絵の面白いところでしょう。

「雪中の狩人」はブリューゲルの晩年の作品ですが、ご覧いただければわかるように決して心が癒される類の絵ではありません。ブリューゲルといえば、聖書の格言を絵にした有名な「バベルの塔」が思い出されます。そこでの気が遠くなるような丹念な描写や迫り来るような存在感は、一度見ると忘れられない強烈な印象を受けたものでした。



とてつもない情報量。
驚きと発見の連続!

「雪中の狩人」は中学の美術の教科書に載っていた気になる絵のひとつでした。とにかく、名画がひしめく教科書の中でも独特の存在感で際立っており、その残像が心の中に強く残っていた覚えがあります。

この絵で驚くのが、とてつもない情報量の多さです。確かな描写力や表現力、ディテールのこだわりが半端ではなく、何時間眺めても飽きることがありません! どこまでこの風景が続くのだろう……と思わせる構図の見事さや拡がりも素晴らしいのですが、多種多様なメッセージ性に満ちていてどの部分を見ても驚きと発見があるのです。

たとえば、狩りで思うような収穫が得られなかったのか、がっくりと肩を落として歩く手前の狩人たちの姿とそれに追従する犬たちの様子を見るだけでも、この絵に引き込まれてしまいます。しかし、遠くに目を移すと凍った池の上でスケートやそりすべりをして楽しむ村の子どもたちが見受けられるのです。人生の不条理を1枚の絵の中で絶妙な対比を加えながら、破綻なく見せているところにブリューゲルの表現力の凄さを感じます。

この絵から伝わってくるのは、そこに住む人々の生活感や喜怒哀楽なのですが、それさえも雄大な自然の前では無力でしかないという趣があります。「もしかしたら人生で体験する様々な喜怒哀楽は、私たちが考えているほど大したことではなく、ほんの些細な事なのかもしれない……」と思えてくるから不思議です。寒々しくはあるけれども、神秘的で深みがある落ち着いた空の色や雪、山々の深遠な姿はとても印象的ですし、微動だにしない存在感を放つ手前の木々や奥行きのある風景がこの絵をますます魅力的にしています。






2014年2月13日木曜日

クラシックの無料コンサート&ワンコイン・コンサート






音楽との出会いが広がるクラシックの無料コンサート




 2011年の5月に、このブログでクラシックの無料コンサートが楽しめる情報を投稿したことがありました。あれから2年半が過ぎましたが、定期的にランチタイムコンサートを開催しているところが各地で急増している事に驚かされます。本当にうれしい限りですね……。前回もご紹介いたしましたように、大体が昼休みを意識した肩の凝らない内容(30分から45分くらいの演奏が多い)のものがほとんどです。そこで無料のコンサートとワンコインで楽しめるコンサートを改めてご紹介したいと思います。時間さえ許せば、「いい時間」、「貴重な気分転換」が期待できそうなこういう機会をドンドン活用したいものですネ!


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【東京芸術劇場】
ランチタイム・パイプオルガンコンサート

東京芸術劇場のランチタイム・パイプオルガンコンサートは、入場無料で12時15分から約30分間ほど演奏をお楽しみいただけます。 お客様のお時間に合わせてゆったりと気軽に音楽を楽しんでいただきたい。
そんな思いで続けてきたこのコンサートは、今年でなんと11年目を迎えました。
約9,000本のパイプから成る劇場のオルガンは世界最大級の規模を誇り、また歴史上異なるスタイルのオルガンをひとつにまとめるという発想から、二面で三つの様式を持つ非常に珍しいオルガンです。
それぞれのオルガニストが紡ぎだす音楽と、演奏者によって音色を変えるオルガンの魅力を是非お聴きください。(サイトより)


【東京オペラシティ】
ランチタイム・コンサート

ヴィジュアル・オルガンコンサート

会場:コンサートホール
入場無料(事前申込などは不要です。直接会場にお越しください。ただし、団体の場合は事前にご連絡ください。)
パイプオルガンは通常客席に背を向けての演奏になります。みなさんは、演奏者がなにやら忙しそうに動いているのを見て、何をしているのか知りたいと思ったことはありませんか?
このコンサートでは、ストップ操作や足鍵盤の動きなど、普段見られないパイプオルガンの演奏の様子が、舞台上のスクリーンでリアルタイムにご覧いただけます。
聴くだけではなく、見て楽しい、これまでとは一味違うオルガンコンサート。
入場は無料です。お気軽にご来場ください。
 *撮影用のカメラは演奏者のそばに設置されます。あらかじめご了承ください。
 *曲目・演奏者等は変更になる場合があります。
 *就学前のお子様の同伴、ご入場はご遠慮ください。
 *団体でのご来場の場合は、事前に[03-5353-0770]までご連絡ください。

東京オペラシティに関するお問合せ 東京オペラシティ商業テナント会事務局
TEL. 03-5353-0700(平日9:00~17:30)



【サントリーホール】
オルガン プロムナード コンサート

木曜日のランチタイムに開催
 サントリーホールは、毎月1回(8月を除く)木曜日のランチタイムに、オルガン音楽を気軽にお楽しみいただく30分間の無料公演「サントリーホール オルガン プロムナード コンサート」を開催しています。この公演は、ホール開館5周年の1991年10月に開始して以来22年にわたり、多くのお客様にご好評をいただいてきました。オルガニストは開始当初からのベテランから新進気鋭の若手まで多彩な顔ぶれで、世界最大級のパイプ数を誇るサントリーホールのオルガンの響きを生かした、オルガニスト自身が企画した自由なプログラムをお楽しみいただけます。2011年からは就学前の小さなお子様連れのお客様にも気兼ねなく楽しんでいただけるよう、ブルーローズ(小ホール)の大型スクリーンで鑑賞していただけるようになりました。また同日開催で、ステージ周辺や楽屋、アーティスト・ラウンジなどを見学する応募型参加のバックステージツアーでは、オルガン プロムナード コンサートをツアー中に鑑賞していただいています。(公式サイトより)




【東京文化会館】
ティータイムコンサート(東京都交響楽団&東京文化会館)

東京文化会館大ホールロビーにて、昼下がりのティータイムコンサート(無料)を開催いたします。(共催:東京文化会館) 
お早めにお越しいただくと、座ってご鑑賞いただけます。(都響サイト)
会場/東京文化会館 大ホール・ホワイエ
毎回13時開演、入場無料  (開場:12時30分)



【森トラスト】
森トラスト ランチタイムコンサート

丸の内トラストシティ/城山ガーデン/虎ノ門2丁目タワー/赤坂ツインタワーでランチタイムコンサートをおこなっています。どなたでもご自由にご鑑賞いただけます。お気軽におこしください。

【週間スケジュール】
丸の内トラストシティ
毎週木曜日/12:10~13:00

城山ガーデン
毎週火曜日/12:10~13:00 
 
虎ノ門2丁目タワー
毎週金曜日/12:10~13:00

赤坂ツインタワー
毎週水曜日/12:10~13:00



【銀座十字屋】
ランチタイムコンサート

ハープやフルートの演奏を気軽に楽しんでいただきたいと、銀座十字屋ハープ&フルートサロン(銀座サロン)にて2006年にスタートしたランチタイムコンサート。毎週水曜日のお昼12時30分から、約30分間のコンサートを無料で開催しております。

演奏者は、プロのハーピストやフルーティスト、将来を期待される若手演奏家、さらには海外からのゲストなど豪華かつ多彩な顔ぶれです。ご来場いただいた多くのお客様に、落ち着いた雰囲気の中で名曲の数々に耳を傾けていただき、大変ご好評をいただいております。銀座松屋向い白い十字屋ビルの8階「銀座サロン」にて、皆様のお越しを演奏者ともども心よりお待ちしております。 ぜひ皆様お誘い合わせの上、お気軽にお越しください。
(公式サイトより)


【日本財団】
ランチタイムコンサート

日本財団では、若手演奏家への発表機会提供のため、また当財団近隣にお勤めの方々に対する地域貢献活動の一環として、昼休みの時間帯に日本財団ビルにて無料コンサートを開催しています。出入り自由のカジュアルなロビーコンサートで、毎回約150人のお客様にお楽しみいただいています。  出演者は公募等で集まった、プロを目指す若手演奏家たち。テーマも演目も出演者が構成し、それぞれの個性を活かした演奏会をお届けしています。どうぞお気軽にお立ち寄りください。(公式サイトより)

日時:毎月第2・4水曜日(祝日の場合は翌日)
    12:10~12:50
場所:日本財団バウ・ルーム
   (東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル1階ロビー)
  ※ 入場無料・予約不要です。
  ※ 昼食持ち込み可です。
ただし、音の出るものなど他のお客様のご迷惑にならないようご注意ください。
  ※ 演奏時間等変更になる場合があります。


【ミューザ川崎】
ランチタイム・ナイトコンサート

多彩なジャンルの音楽をお届けするコンサートシリーズ。
短時間・低価格なので、ぷらっと立ち寄れる気軽さが魅力です!

ランチタイム    各回12:10開演 (40分間のコンサート/休憩なし)
ナイト        各回19:00開演 (1時間のコンサート/休憩なし)
チケット料金    全席自由 ランチタイム500円 ナイト 1,000円
12公演セット券    ランチタイム4,800円 ナイト9,600円
半期6公演セット券   ランチタイム2,700円 ナイト5,400円
発売日        2013年2月12日(火)





2014年2月8日土曜日

ジャン=フランソワ・ミレー「晩鐘」










農民としての実体験が生んだミレーの代表作

 ミレーの「晩鐘」については改めて説明するまでもないでしょう。「落穂拾い」と並ぶミレーの代表作ですし、人気作としても有名ですよね。
 テーマは夕暮れの中で祈りを捧げる素朴な農民たちの姿を描いた、ごくごくありふれたものなのですが、何とも言えない懐かしさや郷愁、優しさが伝わってきます。
 美しい夕暮れを背景に広大なジャガイモ畑に佇む農夫の姿は、まるで感動的な映画のハイライトシーンを見るような趣があります。

 この絵が言葉のない私小説や人間ドラマのような印象を受けるのは私だけでしょうか……? 「晩鐘」が描かれた1857年当時、ミレーはパリを離れフランス北部の村バルビゾンに移住していました。パリでの生活になじめず、生活のために描いた数々の肖像画や風俗画は多くの誤解を生み、かえって彼を苦しめることになります。病弱だった妻の死や相次ぐサロンの落選等がそれにいっそう輪をかけたのでした。おそらくミレーは失意の想いで、バルビゾンにやってきたのかもしれません。

  しかし、バルビゾンはミレーにとって本当の意味で心許せる場所であり、人として生きる意味を確信した場所だったのでしょう。 この時、彼は農民の生活を描いた「落穂拾い」をはじめとする名作を続々と描き上げた時期だったのです。
 農業に従事しながら、絵を描いていたミレーは農民としての苦労や自然とかかわることの感謝や誇りを肌で実感していたのでしょう。

 描かれた農夫の姿にも、ミレーの気持ちが強く反映されているのか、自然と共存して生きる人間としての強さやひたむきさが伝わってきます。 この絵の夫婦(?)らしき二人は一見目立たないようですが、実は大地にしっかりと聳え立つ大木のようにとても強い存在感を放っていますね! 
 あえて人物の個性や特徴を出す表現を抑えることにより、「祈る」という行為が、時間を忘れ、心を通わせ、神に感謝の想いを表す大切な瞬間であることを強く認識させるのです。 そして水平線を軸にしたしっかりした構図がいっそう大地に根ざすエネルギーや緩やかな時間の流れを感じさせるのです。

 いったいこの農夫たちはどのような想いで夕暮れに響く鐘の音を聴いていたのでしょうか……。




2014年2月4日火曜日

ジャン=フィリップ・ラモー オペラ=バレ「優雅なインドの国々」





Rameau: Les Indes Galantes [Box Set, Cd, Import]
Lesarts Florissants/William Christie





Rameau: Les Indes Galantes [DVD]
Lesarts Florissants/William Christie








Deuxieme Entree. Les Incas Du Perou, Scene 5
 Air Et Choeur 'Brillant Soleil'






ラモーの作品はバロックオペラの魅力満載!

 ジャン・フィリップ=ラモーの作品は高い芸術性にもかかわらず、長い間、母国のフランス以外では演奏会のプログラムにとりあげられることが稀でした。特にオペラは、ほとんど歴史の中に埋もれかけていたといっても過言ではないでしょう。しかし、1980年代頃からのオリジナル楽器全盛時にアーティストたちが盛んに演奏会でとりあげるようになると、俄然、ラモーのオペラは息を吹き返したのでした。現在、バロックオペラが盛んに上演されるようになって、ラモーのオペラは間違いなく最も魅力的なプログラムのひとつとして定着したといえるでしょう……。

 それでは、ラモーのオペラで一番親しみやすい作品って何でしょうか? 前回紹介した「カストールとポリュックス」は美しい作品で不朽の傑作ですが、最初に聴き始めるのはもしかしたら少々敷居が高いかもしれません。
 そんな中で、主人公が自分の作った彫像を愛してしまう「ビグマリオン」は一幕だけの構成ですし、ストーリーもシンプルで大変わかりやすく非常に良くまとまった作品と言えるでしょう。しかし、短いがために多少のもの足りなさを感じないわけでもありません……。




見て聴いて楽しいファンタジックな夢の世界

 そこで浮かんでくるのがオペラ=バレ「優雅なインドの国々」です。これは本当に楽しい作品ですね! バレエ音楽や舞踊曲に傑作が多いラモーですが、そこで培われた人を喜ばせる才能はこの「優雅なインドの国々」で最高のエンターテイメントとして結実しているのです。人々の心の動きや喜び、哀しみを生き生きと豊かに描き出し、何でもない日常生活の断片が美しく夢のような空間に変貌する様子が絶品です。管弦楽の素晴らしさや充実感もさることながら、ここでもラモーの無垢な音楽性や色彩感、繊細なニュアンスが光っているのです。

 舞台はプロローグに始まり、第一幕・寛大なトルコ人、第二幕・インカ帝国のペルー人、第三幕・ペルシアの祝祭、第四幕・アメリカ大陸のインディアンたちと続くのですが、それぞれ一幕完結のオムニバス構成になっており、エキゾチックな雰囲気とスペクタクル的なエンターテイメント性に満ち満ちているのです。 

 ストーリーも単純明快です。プロローグで愛の神が争の神によって人間が戦争に心を奪われていくことを憂い、世界各地に愛と平和のキュービットを送るのですが、フィナーレでそれが成就し、愛と平和に満ちた世界が広がっていくという話です。 通常のオペラによくある情念や複雑な人間ドラマに左右されることなく、見て聴いてるだけでワクワクするような展開を実感できるのです。

 それをさらに面白く見応え(聴き応え?)あるものにしているのが、各幕に置かれた舞曲でしょう。例によって劇の様々なポイントに置かれているのですが、これがラモーの秀逸な音楽によって、俄然、エンターテイメントとしての魅力を引き立てているのです。オペラ=バレと言われる所以ですが、たとえ舞台や映像に接しなかったとしても、ラモーの音楽を聴くだけで(特に管弦楽曲)充分に魅力的かもしれません!

 リズミカルで色彩豊かな管弦楽、淡いニュアンスに彩られた雰囲気、民衆の喜び、歓喜を代弁するような金管楽器のファンファーレ等、最初から最後まで贅沢な夢物語を想わせる音楽の力に、いつしか聴く人の心は大きく揺り動かされることでしょう。



夢の世界を演出するウイリアム・クリスティ

 この作品は何と言ってもウイリアム・クリスティ指揮=レザール・フロリサンによるCD(ハルモニアムンディ)が素晴らしいです! この演奏によってラモーの音楽の魅力を知ったという方も少なくないのではないでしょうか? どこもかしこも自信にあふれ、生き生きとしており、とても18世紀のクラシック音楽とは思えないような新鮮さがあります。管弦楽のシルクのような柔らかい響きも美しい限りなのですが、歌手たちも実にラモーの音楽の特質をしっかりととらえた心に染みこむ歌唱を繰り広げています。

 クリスティ盤は映像でも発売されており、これは永遠の名盤として記憶されてもおかしくないような素晴らしいライブですね。切れ味鋭いダンスや趣向を凝らした衣装、夢の世界を演出する練られた美術や透明感あふれる管弦楽、どれもこれも効果満点で息の抜けないシーンの連続なのです! それは通常のオペラというよりは格調高いファンタジックなショーという感じが適当かも知れませんね……。

 とにかく騙されたと思って、一度でいいからこの映像をみてください。「オペラってこんなに刺激的で楽しいものだったのか!」と根底的に考えが変わるかもしれません。













2014年1月31日金曜日

ジャン=フィリップ・ラモー 「カストールとポリュックス」













ラモーの真価を世に知らしめた傑作!

 ラモーはフランスバロックはもちろんのこと、バロック時代および18世紀を代表する作曲家といってもいいでしょう。
 和声を徹底的に研究した人だけあって、その音楽には独特の響きがあります。特に楽器の特徴や響きの本質をとらえた詩情あふれるメロディは見事という他ありません。しんみりとした哀しみの情感も決して重苦しくなりませんし、色彩豊かで繊細に構築されたハーモニーはフランスのエスプリを感じさせ恍惚とさせられます。とにかく音の絵本のようにファンタジックな夢の世界がどんどん拡がっていくのです。 

 カストールとポリュックスはラモーが1737年に書いた作品ですが、台本やストーリーの流れに不備な点があり、当初は思ったほどの評価は得られませんでした。その後音楽共々、大幅に書き替えられ、現在演奏されているのはラモー自身が1754年に改訂版と銘打って発表した5幕構成の版と言って間違いありません。

 おおよそのストーリーはギリシャ神話に基づくもので、双子のカストルとポリュックスの兄弟愛の深さを描いた物語です。二人は美しい太陽の娘テライールを愛していたのですが、許婚ということもありポリュックスと結婚の儀式が交わされようとしていたのでした。しかし、ポリュックスがカストールとテライールが相思相愛であることを知ると、自ら新郎の立場をカストルに譲るのでした。一方、ポリュックスを愛していたスパルタ王女のフェーゼが嫉妬し、敵軍にけしかけて反乱を起こします。その敵軍との攻防に身を投じたカストルが戦死してしまいます。
 ポリュックスはテライールがカストルを失い、あまりにも憔悴していることや、民衆も嘆き悲しんでいる姿に愕然とするのでした。そこで霊界に渡っていき、父ジュピターに向かって何とかカストルを生き返らせてほしいと懇願します。しかし、それを可能にするためにはポリュックスが身代わりに死ななければならない旨を忠告されるのでした。そこで、それを受け入れたポリュックスは霊界に旅立っていくことを決意します。その事を案じたカストールは1日だけテライールに会えば、霊界にまた戻るという約束をするのでした。テライールとの再会を果たしたカストールは喜びや別れを嘆き悲しむ中で自分の宿命を受け入れ霊界に戻ろうとしますが、そのときジュピターが降臨し、「兄弟ともに永遠の生命を生きよ」と告げられるのでした。



洗練された色彩や光のようなイマジネーション

 先日、ヘンデルの「セメレ」でもお話ししたように、この「カストールとポリュクス」も序曲がとても印象的です。運命のいたずらを匂わせるような、ありきたりではない一種独特の響きが様々なイメージを膨らませてくれます。続く、心の葛藤をドラマチックに表現した短い合唱も斬新で美しく、一瞬にして心をとらえてしまいます。

 第3幕で民衆がカストルの死に直面し、哀しみに打ちひしがれる中で歌われる合唱やテライールが歌うアリアはこの世のものとは思えない高貴な響きやデリカシーに満ちています。また、それに対してフィナーレでカストールの復活を喜び、次々と変奏曲のように展開される舞曲の数々も何と喜びにあふれていることでしょうか! 
 ラモーは彼のオペラでメヌエットやガヴォット、タンブラン、パスピエ等の愛らしい舞曲をよく使うのですが、これが大変に効果をあげているのですね! 重苦しいストーリーの展開の中でも、ラモー特有の魅力に満ちた舞曲が現れると、不思議と無垢で洗練された色彩や光のようなイマジネーションが彷彿とされ、希望に沸き立つのですね!
 
 「カストールとポリュックス」のCDは現在のところ大変に少なく、演奏で本当に満足できるのはウイリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサン(ハルモニア・ムンディ)に尽きるといっていいかもしれません。クリスティの指揮は精緻で透明感あふれる素晴らしい演奏です。特に第3幕の民衆が嘆き悲しむ合唱の美しさは最高ですし、フィナーレの舞曲の楽しさも絶品です!
 全曲盤がなければ、ハイライト盤でも良さを充分に味わえることと思います。









2014年1月26日日曜日

音楽を愛し、音楽に愛されたクラウディオ・アバド



アバド氏の死を悼む









 先日、ニュースで指揮者のクラウディオ・アバドさんが亡くなったことを知りました。享年80歳だったそうです。私はこのニュースを聴いて大変にショックを受けました。
 なぜなら、私がクラシック音楽に親しみ始めた1980年当時、アバドさんはまだ若手・中堅のホープと言われた人だったのでした。その頃の若々しく躍動感にあふれた残像や演奏は瞼に焼きついて離れず、今後もいろいろな驚きを与えてくれるだろうと信じていたからです。

 もちろん人並み外れた才能と音楽性の持ち主で、その前途は洋々たるものだったことは間違いありません。。私も近い将来、世界を席巻する大指揮者になる人だろうと思ったのでした……。
 中でも1970年代に録音されたチャイコフスキーの「ロミオとジュリエット序曲」とスクリャービンの「法悦の詩」の何とも言えない正統的なリリシズムに痛く感動したものでした。
 また、チャイコフスキーの「悲愴」もあふれるような歌があり、このように鳴ってほしいというイメージにオーケストラの響きがその如く再現されるのが大変な驚きでした。「亡き王女のためのパヴァーヌ」の美しく透明感に満ちた表情、ブラームス「第2」の既成概念にとらわれない無垢な歌! もちろんヴェルディやロッシーニのオペラの素晴らしさはイタリア人としての強い共感が成せる技だったのでしょう!
 本当に、1970~80年代のアバドさんの音楽はいつも初々しい感動と音楽を聴く喜びを与えてくれたものでした……。

 しかし、1990年のベルリンフィルの常任指揮者、音楽監督就任という名誉ある立場が彼の音楽人生の歯車を少しずつ狂わせてしまったのではないのでしょうか? ベルリンフィルと言えば泣く子も黙る天下の名オーケストラ、世界中の音楽ファンが良くも悪くも注目を寄せるのも無理からぬことです。皮肉なことに彼の持ち味である歌やインスピレーションや躍動感は次第にこの頃から薄れていったのです。

 もしこれがベルリンフィルではなく、ロイヤルコンセルトヘボウやバイエルン放送交響楽団とかであれば、事情は大きく変わっていたことでしょう。  
 ご本人も深く悩まれたのでしょうし、出口のないトンネルをいつもトボトボ歩く感じだったのかもしれません。結局2002年に体調を崩し、ベルリン・フィルを退団されるのですが、それでもこのベルリン・フィルの十数年は後進の育成や音楽環境の整備に多大な貢献をされたと聞きます。
 
 彼は最後の最期まで真の音楽家としての人生をまっとうされたのでしょう。きっと天上界でも美しい音楽を響かせてくれるのではないでしょうか。
 心からご冥福をお祈りします。