2012年10月5日金曜日

ヘンデル 合奏協奏曲集作品6-3(9番-12番)




【合奏協奏曲 第9番 ヘ長調 HWV.327】
 合奏協奏曲作品6の中で最もメリハリがあり、壮麗で典雅なメッセージ性に富むヘンデルらしい魅力に満ちた作品と言っていいでしょう!。第2楽章の舞曲風のリズムをテーマにした陽気でエネルギッシュなアレグロは生き生きとしたドラマを展開していきます。驚くのは長調から短調への転調の自然さとシンプルなテーマから音楽が発展し、輝きを増してくるところでしょうか…。
 最も美しいのはあふれるような悲しみを音楽に託した第3楽章ラルゲットでしょう。このラルゲットはもはや悲しみという範疇を突き抜けた至高の音楽だと思います。これほど深い哀しみを描いた曲なのに不思議と心慰められるのは何故なのでしょうか? おそらく人の心の普遍的な感性に通じるものがあるからなのでしょう……。
 第4楽章の壮麗なフーガも見事ですし、第5楽章の神秘的な和音や第6楽章の広々としたジーグの魅力もなかなかのものです。

Karl Richter

(演奏)この曲はリヒター指揮ミュンヘンバッハ管弦楽団の独壇場です。第2楽章アレグロのメリハリの効いた自在な表情!ラルゲットの曲にひたすら没入する深い哀しみの表現。毅然として格調高いフーガ!晴朗でいて味わいが深い終曲ジーグ等々……。リヒターの表現はこの曲の魅力を最大限に描き出してやみません! 合奏協奏曲作品6の演奏にしては少々重たすぎるのではという懸念はこの曲に関する限りまったくあてはまりません。むしろ、ここまで曲の意味を抉り出し、透徹した響きを生み出したリヒターに拍手を送りたいくらいです。まさに第9番の唯一無二の演奏と言っていいのではないでしょうか。


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【合奏協奏曲 第10番 ニ短調 HWV.328】
 非常に充実した作品です。全体は強靭な精神性と音の塊の中に次々と意味深い主題やメロディが現れます。息もつけぬほど密度の濃い響きの連続に心が大きく揺さぶられますね。孤高で厳しい表情は深まる秋の憂愁や冬の冷たい空気を伝えるかのようです。しかし、曲の内面では絶えず熱い炎が燃え上がっているのです!
 傑作なのはフィナーレのアレグロ・モデラートでしょう。それまでの緊迫した雰囲気とは180度違う(!?)と言ってもいいほどの無垢で明るい主題なのです。正直言ってこのあまりの違いに困惑してしまう方は多いのではないでしょうか? しかしこのような形で曲を終わらせたかったヘンデルの意図は意外と深いものなのかもしれません……。

August Wenzinger(Board Highlights LP)


(演奏)ヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルームの演奏は完璧です。どこにもデフォルメしたり、無理に力を加えたような雰囲気がないのに、あふれる音楽性、深い意味、自然な呼吸。その芸術性の高さにすっかり魅了されてしまいます。どこをとってもこの曲で考え得る限りの最高の味わいを堪能させてくれる演奏と言っていいでしょう。


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【合奏協奏曲 第11番 イ長調 HWV.329】
 まず、愛嬌を振りまくように親しく語りかけるテーマの第1楽章が印象に残りますね…。しかし展開部ではソロヴァイオリンと合奏の緩急の変化が曲を多彩に発展させ盛り上げていきます。

 第3楽章ラルゲットの小鳥のさえずりを聴き、雲の流れを見つめるような叙情的で美しいメロディ……。そしてフィナーレのアレグロの澄みきった青空を無限に飛翔するような自由なメロディと快適なテンポが最高です!





Orpheus Chamber Orchestra
August Wenzinger(Board Highlights LP)

(演奏)現状ではオルフェウス室内管弦楽団かヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルームあたりがベストかと思います。この曲は第4楽章のラルゲットとフィナーレのアレグロが曲の印象を大きく左右します。その点で前記2盤は他を大きく引き離しているのです。

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【合奏協奏曲 第12番 ロ短調 HWV.330】
 この作品は全12曲の中では比較的に馴染みが薄く、特徴が弱いと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、この作品独自の魅力は充分に備わっています! 第1楽章のプレリュードは魂の孤独を切々と訴える深遠な音楽です。そして第2楽章アレグロはヴィヴァルディの協奏曲のメロディによく似ていますが、中間部での目眩く展開される心の嵐が凄く、激しい慟哭さえ感じさせます。
 第3楽章のラルゴは諦観さえ伝わってきます。一切の飾り気を排したしみじみとした心の音楽は見事というしかないでしょう……。中間部のソロヴァイオリンの美しさも心にしみます。


Orpheus Chamber Orchestra


(演奏)オルフェウス室内管弦楽団の研ぎ澄まされたアンサンブルが最高に力を発揮した作品です。とにかく弦のしなやかさ、音楽性の高さ、無駄のない造型に唸ってしまいます。素晴らしい録音がそれに輪をかけます!







2012年9月28日金曜日

ヘンデル 合奏協奏曲集作品6-2(5番-8番)



【合奏協奏曲 第5番 ニ長調 HWV323
 合奏曲集の中では最もヘンデルらしい男性的な迫力を持ち、旋律も親しみやすく覚えやすい曲でしょう。 第1楽章の出だしは弦楽器をファンファーレの合図に見立てて構成されています。この開始によって広々とした土壌が音楽に築かれていることを感じるのではないでしょうか。
フーガの立体的な迫力と爽快感も格別ですね!舞踊風のリズムをテーマにした第3楽章プレストも、ご機嫌な第5楽章アレグロもヘンデル特有の含蓄のある親しみやすさと愛嬌で忘れ難い印象を残してくれるのです! メヌエットはシンプルですが、気品に満ちた印象的な音楽でフィナーレを美しく飾ります。

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karl Richter



(演奏) カール・リヒターの演奏は今でもこの作品の名盤として多くの人に愛聴されています。リヒターの演奏の魅力は強靱な通奏低音の充実や男性的なダイナミズムがまずあげられると思います。しかも曲に取り組む姿勢が一貫して真摯でどこまでも求道的なのです。この曲が持つ格調の高さやヘンデルの求めている精神性には一番近いかもしれません。

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【合奏協奏曲 第6番 ト短調 HWV.324】
 終始厳しく、孤独に沈む魂の安住の地を求めるかのような名曲です。
 第1楽章や第2楽章で耳にする心の葛藤を表す不協和音はベートーヴェンの交響曲の提示部を想い起こさせ、その意味深い旋律は心に突き刺さります! バロックを超えた前衛的な旋律がとても印象的ですね…。しかし、ミュゼットのスケール雄大で荘厳な響きはこの曲の暗い影を振り払ってくれるのです。ここではヘンデルの真摯な魂と懐の深い音楽性が真骨頂を示しており、視界が開け、光が差し込んでくるような感動的な情景が綴られていくのです。


(演奏)ヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団の演奏は素晴らしいのひとことです。特に合奏部分にファゴット等の管楽器の響きをブレンドして、色彩感や実在感に富む音色を生み出しているのには驚かされます!ミュゼットの落ち着き払った深い呼吸…。どこにも軽薄な響きはなくこの作品の魅力をたっぷりと味わえます。

 リヒター盤は厳しい造形と響きをモットーにした演奏で、中でもミュゼットの雄大なスケール感は見事です。ただあまりにも力が入りすぎてしまい、美しさを失っているところが見られるのが少々残念です。

August Wenzinger(Board Highlights LP)



Karl Richter


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【合奏協奏曲 第7番 変ロ長調 HWV.325】
 第1楽章は爽やかな朝の始まりとその感謝なのでしょうか……。最初の麗しい響きに思わず引き込まれます。そしてすぐさま、お茶目で可愛らしい第2楽章に引き継がれるのです。この愛らしい音楽は無邪気で機知に富んでおり、第3楽章以降に重要な橋渡しをするのです。第3楽章のアダージョは前楽章が生気に満ちていたためによけいに一抹の寂しさや哀しみが強く胸に染みますね…。
 第4楽章ラルゲット、第5楽章アレグロはこの作品の白眉です!特にアレグロは無窮動のようなリズムをテーマとして喜びや哀しみを包み込んでいくような強いメッセージがあるのです!


(演奏)やはりヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団の演奏を挙げないわけにはいきません。第1楽章の深い響きにまず引き込まれ、その後に展開する様々なエピソードは終始微笑ましく愛情を持って演奏されています。


August Wenzinger(Board Highlights LP)

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【合奏協奏曲 第8番 ハ短調 HWV.326】
 曲調は深い憂愁に彩られたかなり渋い作品なのですが、聴けば聴くほどに味わいが増す傑作です。全体として良質の弦楽四重奏や崇高なエレジーを聴くような趣きがあります。
第2楽章で心の闇を痛烈に吐露するあたりはヘンデルとしても異例で、この先どうなってしまうのかと心配になってしまいます……。
 その後、曲はますます深みを増し、この作品でヘンデルが伝えたかったのは鎮魂の想いや生きとし生けるものの哀しみだったのだろうか……。と思えてくるのですね。
 作品の中で特に印象的なのは気持ちの高まりや胸の鼓動を伝えるような第3楽章アレグロ。 絶望の淵に立ち、悲しみに打ちひしがれながらも決して希望や微笑みを捨てない第4楽章のシチリアーノあたりになるのではないでしょうか。




(演奏)まずヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム合奏団を挙げたいと思います。安心して聴ける丁寧で本質をしっかりと捉えた演奏、柔らかい響き、自然な音楽の流れ。どれをとっても最高ではないでしょうか。
 リヒターの演奏も鋭く本質を捉えた演奏です。 特にシチリアーノはヴァイオリンのソロや合奏すべてにおいて著しく内面の湧き上がる想いを表現したもので、8番の録音において欠かせない名盤です。

August Wenzinger(Board Highlights LP)





Karl Richter


2012年9月23日日曜日

ヘンデル 合奏協奏曲集作品6-1(1番-4番)







合奏協奏曲作品6 第1番~第4番(HWV.319-HWV.322)




【合奏協奏曲 第1番 ト長調 HWV.319】
 合奏協奏曲作品6を象徴するような作品で、堅苦しさのない爽やかな曲調が印象的です。バッハのブランデンブルク協奏曲第1番の開始と比べると、そのあまりの違いに驚かれるかもしれません。空気のように軽やかで、エネルギーにあふれ自由で多彩なヘンデルの音楽! この1番でも春の到来を想わせるような希望に満ちた弦楽器のパッセージがとても新鮮です。

 第1楽章は短いけれどもはっとするような懐かしさとデリカシーがあります。聴き進むうちに何かが始まるような予感と爽やかな抒情に次第に心が引きつけられのではないでしょうか。
 第2楽章ではさらに広々とした希望の出発のようなテーマが繰り広げられます。第3楽章のアダージョは心の内面を見つめるようなヴァイオリンの音色が印象的。第4楽章のアレグロはこの作品の核心の部分で、自由なフーガによる決然とした曲調が希望や喜び、憧れの想いを更に膨らませていきます。それを受けるフィナーレのジーグも晴朗で快活なメロディが曲を大いに盛り上げていきます!


Orpheus Chamber Orchestra



 (演奏) オルフェウス室内管弦楽団の演奏は指揮者を置かず、各奏者の自発的な感性によって生み出されたものです。この1番はそのような個々のオリジナリティがプラスに出た結果と言えるでしょう。弦楽器の透明感を漂わせた美しさ。モダン楽器なのに野暮ったくならない卓越した音楽性等、本当に素晴らしいです。特に第3楽章アダージョの中間部でソロの弦楽器が歌い交わす美しさは恍惚としたひとときを約束してくれます。

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【合奏協奏曲 第2番 ヘ長調 HWV.320】
 第2番は自然への感謝がテーマになっているとよく言われます。たとえば、第1楽章のみずみずしい楽曲は爽やかな風、穏やかな光を想わせ清々しい余韻を残します。第2楽章のアレグロもシンプルな曲の構成と可愛いらしい主題の進行に胸が高鳴っていきます。
 そして短いけれども曲の核心と言えるのが第3楽章のラルゴ!
 何度も立ち止まり、自然のささやきを聴き入るようなソロヴァイオリンとオーケストラのやりとり! 中間部からは雨上がりの草木が光を浴びて輝きを放つような情感が続きます。ここは何回聴いても素晴らしいですね! まるで自分が瞑想し自然と語りあっているような錯覚に捉われたりもします。
 このチャーミングなラルゴのあと、フィナーレのフーガヘと続きます。このフーガは自然賛歌を締めくくるにふさわしい、宇宙的な意思に貫かれた名旋律と言えるのではないでしょうか。

B. Neel String Orchestra


(演奏)2番はボイド・ニール指揮ニール弦楽合奏団の演奏(1950年盤)が最高です。 ニールはこの作品をとても大切にしているようで1938年盤の演奏も素晴らしい出来ばえでした。情感豊かな演奏で繊細な表情を見事に捉えています。特にラルゴの魅力は筆舌に尽くし難く、ちょっとした気分の変化に敏感に反応し入魂の名演奏を成し遂げています。

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【合奏協奏曲 第3番 ホ短調 HWV.321】
  深い森を想わせる幽玄な響きが印象的です。
 第1楽章序奏で憂いを帯びたもの悲しい弦の調べが回想のシーンのように映し出され、曲の全体的なイメージを彷彿とさせます。
しかし、この曲で最も印象的なのは第3楽章ポロネーズでしょう。 舞踊風の独特のリズムとテーマはそれまでの鬱積した気分を一掃させるような愉しさと生命のエネルギーに満ちているのです。最高に上機嫌で屈託のない笑い声が聴こえてきそうな音楽が何とも心地いいです!

August Wenzinger(Board Highlights LP)


(演奏) LP時代の最高の名盤、アウグスト・ヴェンツィンガー指揮バーゼルスコラカントルーム管弦楽団の名演奏が未だにCD化されてないのは本当に不思議です。CDが発売されることを首を長くして待っているのですが、現在の状況では今後も期待できそうにありません。このままこの録音が時間の流れと共に忘れ去られなければいいのですが……。演奏はどこまでも優雅で滋味あふれる響きがとても心地よく、3番の本質を堪能できます。
 とりあえずCDジャケットはないものの、LPのハイライト盤の画像のみ掲載させていただきます。

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【合奏協奏曲 第4番 ホ短調 HWV.322】
この作品は合奏協奏曲の中で最も芸術的な香り高い作品ではないでしょうか! とにかく各曲が有機的な関係を保ち、ギリシャ彫刻のように高い次元で結晶化されています!つまり、 全4曲がめくるめく感動と驚きの中であっという間に終ってしまうような感じがするのです……。
 第1楽章の美しく澄み切った旋律は崇高な哀しみがひたひたと伝わってきます! さらに第2楽章では目の覚めるような厳しいフーガがとめどなく打ち寄せる波のように展開され、聴く者の心を圧倒します。
 そのような厳しい2つの楽章を受けるのが優美な第3楽章のラルゴです!特別な主題は持ちませんが、天上から降りそそがれる光のヴェールのように、優しく深い充足感を与えてくれることでしょう!第4楽章も誇張された表情はありませんが、その強靭な足どりと安定した曲調は最高です。

August Wenzinger(Board Highlights LP)

Orpheus Chamber Orchestra



(演奏)ヴェンツインガー指揮バーゼルスコラカントルーム管弦楽団はテンポの設定や間の取り方が絶妙で、ストレートにこの作品の美しさや本質を実感できます。特別なことは何もしていないはずなのに音楽から風格や透明な詩情が漂ってくるのです。

 オルフェウス室内管弦楽団の演奏はヴェンツインガー盤に比べるとやや線が細い感じがしないでもありませんが、磨き抜かれたアンサンブルの精緻さが最高に発揮されています。第1楽章の祈りに満ちた表情、第2楽章の雄弁で直線的なフーガは素晴らしく、第3楽章ラルゴの透明感漂う夢のような情緒も素晴らしいです!








2012年9月11日火曜日

ヘンデル 合奏協奏曲作品6(全12曲)

Karl Richter



Orpheus Chamber Orchestra




 合奏協奏曲作品6(全12曲)はヘンデルの作品の中で最も簡潔な作風を基調とした作品です。しかし、尽きない魅力や充実した内容において絶対に省くことのできない作品でもあります。ヘンデルは同じスタイルの合奏協奏曲作品3(全6曲)を1734年に作曲していますが、この作品6では驚くほどの深化が随所に見られ、変幻自在な曲調の多彩さには目を見張るばかりです。しかもこれら12曲の作品をわずか1か月で書き上げてしまうヘンデルの速筆ぶりにはただただ驚くしかありません!

 音楽のスタイルはコレッリの合奏協奏曲によく似ています。あくまでも弦楽器を主体としながら、端正で格調高い作品となっているのです。コレッリの合奏協奏曲や自身の合奏協奏曲作品3との大きな違いはやはり深さでしょう! ドラマティックで劇的な進行があったり、崇高な詩情や翳りの濃い表情など、ヘンデルの音楽の本質が凝縮された作品なのです。
 合奏協奏曲作品6は一方の雄バッハのブランデンブルク協奏曲とよく比較されることが多い作品です。様々な楽器が活躍し、用意周到かつ綿密に曲の構成が施されたブランデンブルク協奏曲と比べると合奏協奏曲作品6はやや荒削りな部分がなくもありません。
 しかし、即興的な面白さと何度聴いても飽きない潜在的な曲の魅力では合奏協奏曲作品6が優っているのではないかと思います。喜びや憧れ、悲しみ等の感情が新鮮な感動とともに洗練された形で曲に反映されているのです。
 ただし、この合奏協奏曲は演奏によって大きく豹変します。しかも感動の質や曲に対する印象だけでなく、演奏が良くないと作品までもがつまらなく聴こえてしまうのでCDを選ぶ時には相当な注意が必要です。

 そのようなことを踏まえた上でCDを選ぶとなると、かなり限定されてしまうことが分かります。やはりヘンデルの作品を熟知し、曲を愛するいわゆるスペシャリストでないと本質を表現しきれないのでしょうか。

 これまで作品6を聴いてきた中で是非推薦したい演奏はアウグスト・ヴェンツィンガー指揮バーゼル・スコラ・カントルーム合奏団(アルヒーフ・廃盤)、カール・リヒター指揮ミュンヘンバッハ管弦楽団(アルヒーフ)、ボイド・ニール指揮ニール弦楽合奏団(DECCA・廃盤)、オルフェウス室内管弦楽団(グラモフォン)あたりになります。 

 特にヴェンツィンガー盤とニール盤は古い演奏ですが、何度聴いても飽きない味わい深い名演で、この作品の魅力を余すところなく伝えてくれます。ヴェンツィンガー盤の典雅で豊かな音の響き。ニール盤の繊細で温もりのある演奏。本当に見事です! しかし残念なことにこの両盤は現在廃盤中です。(※ニール盤はNAXOSミュージックライブラリーで辛うじて全曲再生が可能)ヴェンツィンガー盤に至っては未だにCD化されたことさえありません。こんなに素晴らしい名盤がなぜ陽の目を見ないのか本当に不思議でならないのです。CD化や復刻が待ち遠しいかぎりです……。

 そこで次回からは3回に分けて、4作ごとにこの作品の魅力とそれぞれの名演奏を見ていきたいと思います!





2012年9月1日土曜日

シャルダン展 ― 静寂の巨匠



《食前の祈り》(1740) ルーヴル美術館 油彩 
Bénédicité 1740 (49 × 38 cm)Musée du Louvre (Paris)

白い花瓶の花(カーネーションと月下香とスイートピーが活けられた花瓶)
(Bouquet D'Œillets) 1760-1763年頃 44×36cm | 油彩・画布 | スコットランド国立美術館

《木いちごの籠》1761年頃 油彩、画布 38×46cm 個人蔵
©RMN-GP / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF- DNPartcom








シャルダン展 ― 平凡な日常の普遍的な輝き



 いよいよ18世紀フランスの巨匠、シャルダンの絵が公開されます!場所は丸の内の三菱一号館美術館。シャルダンといえば微笑ましく慎ましやかな家族の様子を描いた人物画「食前の祈り」や「シャボン玉」とかが有名です。
 「食前の祈り」は確かによく描かれた名作ですが、どうも一般的な意味での生き生きとしたメッセージを表した絵ではありません。人物のポーズはあらかじめ準備されたものではなく、日常の何気ない一コマを切り取ったものなのです。
 まるで一瞬のやりとりを永遠に静止させてしまったようなその雰囲気は独特で、下手をすればとても品のないギクシャクした絵になりかねません。しかし、何でもないところに普遍的な輝きを発見するシャルダンはこの絵に深い愛情を降り注ぎ、類例のない魅力に満ちた絵に仕上げています!

 その魅力がさらにはっきりと表現されているのが彼の静物画でしょう。ひとことで言えば西洋絵画史上これほど魅力にあふれた静物画はないかもしれません。奥ゆかしく上品で、それでいてさりげなく強烈な存在感を見る人に認識させるのです。驚くのは一つ一つのモチーフの絵を構成する上での関係性の深さとモチーフそのものに対する愛情の深さです。絵の中に穏やかな空気が流れ静謐な佇まいが脈々と息づいていることに気がつきます!とにかくシャルダンの絵の魅力は一言では語り尽くせない独特の魅力があります。じっくりと絵画の醍醐味を味わう最高の機会になることでしょう。



会期     2012年9月8日(土)~2013年1月6日(日)
休館日    月曜休館 / 12月29日(土)~2013年1月1日(火)
             (但し、祝日の場合は開館し、翌火曜休館 / 12月25日は開館)
主催     三菱一号館美術館、NHKプロモーション、読売新聞社
公式サイト http://mimt.jp/chardin/ 


ジャン=シメオン・シャルダン(1699-1779)はフランスを代表する静物・風俗画家であり、その静謐で堅牢な場面構成はセザンヌ等にも影響を与え、海外では知名度・評価ともにきわめて高い画家です。しかし我が国では熱烈なファンがいるものの、その知名度は決して高くありません。シャルダンの作品は国内ではわずか数点しか所蔵されておらず、海外でも作品をまとめて所蔵しているのはルーヴル美術館のみとなります。本展は、ロココ時代を生きた、この孤高の画家を紹介する日本で初めての野心的な試みとなります。シャルダン研究の世界的権威ピエール・ローザンベール氏(ルーヴル美術館名誉館長)が厳選した作品によりシャルダンの静寂なる世界を心ゆくまでご堪能ください。【公式サイトより】




 シャルダンが好んで描いたのは、実際に使用している身の回りの家庭用具や、食材のモチーフ。みずみずしい果物のほか、狩猟されたばかりの兎や魚など一見すると残酷な描写も、何度も彼の作品に登場している。なかでも、晩年の静物画の最高傑作と言われる『木いちごの籠』は、必見。かごに山積みにされたいちごは、思わず手を伸ばして食べたくなってしまうくらい、とってもジューシーでおいしそう。これからジャムにするのか、ケーキに使うのか、それともみんなで食べるのか…なんて、想像が膨らむ。これは個人所有のため、普段はどこの美術館でも絶対に観ることができないから、これを逃したら鑑賞する機会はなかなか訪れない貴重な機会であることは間違いない。【オズモールより】



2012年8月24日金曜日

国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展


イリヤ・レーピン《休息 ー 妻ヴェーラ・レーピナの肖像》1882年
   油彩・キャンヴァス143.0 x 94.0 ©Text, photos, The State Tretyakov Gallery, 2012

イリヤ・レーピン《作曲家モデスト・ムソルグスキーの肖像》1881年   
油彩・キャンヴァス71.8 x 58.5 ©Text, photos, The State Tretyakov Gallery, 2012


イリヤ・レーピン《思いがけなく》1884-1888年
   油彩・キャンヴァス160.5 x 167.5 ©Text, photos, The State Tretyakov Gallery, 2012



  ロシアの画家、レーピンを扱った作品展がBunkamuraザ・ミュージアムで開催されています。日本で本格的にレーピンの作品展が開催されるのはおそらく初めてではないでしょうか? ずいぶん前からレーピンの名前は聞いておりましたし、かなりの実力派画家であることも承知していました。
 この展覧会では見覚えのある有名な作品もかなり展示されています。たとえば作曲家ムソルグスキーの肖像画であったり、文豪トルストイの肖像画であったり、「ボルガの船曳」等の最下級層の人々の暮らしぶりを描いた作品等です。その並外れた描写力や表現力はオーソドックスな正攻法の表現にもかかわらず、圧倒的な存在感を私たちに植え付けてくれるのです。

 印象的な絵はたくさんありましたが、レーピンは肖像画の世界でひとつの絶対的な領域を築いた人と言えるのではないでしょうか。 特にムソルグスキーの肖像画はモデルが絵の中から飛び出してきそうな臨場感と見事な性格描写によって迫真のドラマを生み出しています!
 また鬼気迫る表現が印象的な「思いがけなく」は流刑になったものの、不意に帰宅することになった男と家族の一様に驚く表情がその場の空気を凍りつかせています。このあとドラマがどのように展開していくのかとても気になりますし、人々の表情があまりにもリアルで映像のハイライトを切り取ったような緊迫感さえあります!構図の素晴らしさも特筆ものと言っていいでしょう!

 これほどの実力がありながらもその画業が世界的な影響を及ぼすことがなかったのはロシア革命以後、ソビエト政府によってレーピンが社会主義リアリズムの急先鋒として崇め奉られてしまったことが大きいようです。
 今回の展覧会はロシア激動の時代に生きた天才画家レーピンの真の実力と精神性を本当の意味で目の当たりにする貴重な機会になるのではないでしょうか!



【展覧会情報 

会場      Bunkamuraザ・ミュージアム 
        東京都渋谷区道玄坂2-24-1
会期      2012年8月4日(土)~10月8日(月) 

入場料      一般=1,400(1,200)円
        高大生=1,000(800)円
        小中生=700(500)円
        *( )内は前売/20人以上の団体料金
        *障害者手帳をお持ちの方は無料

休館日      会期中無休
開館時間     10:00~19:00(金・土曜日は21時まで開館)

        *入館は閉館の30分前まで
問い合わせ   03-3477-9413

主催      Bunkamura
回展      2012年10月16日(火)~12月24日(月・祝)浜松市美術館
        2013年2月16日(土)~3月30日(土)姫路市立美術館
        2013年4月6日(土)~5月26日(日)神奈川県立近代美術館葉山
公式サイト   http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/12_repin.html


2012年8月21日火曜日

フェデリコ・フェリーニ 「道」







 この映画は昔から哀愁に満ちた「ジェルソミーナのテーマ」が有名でした。どことなく気だるい雰囲気で開始されるのですが、明るいメロディとは裏腹に人生の悲哀をギュッと凝縮したようなとても切なく心にしみる音楽ですね!映画の中で音楽がこれほど空気のように浸透し、映像との密接な関係を築きながら名作として結実した作品はあまり例がないかもしれません。  
 この映画において「ジェルソミーナのテーマ」は映像を引き立てるだけでなく、それ自体が情景を浮かび上がらせる主役の一つにさえなっているのです。フェリーニ監督の数々の作品に音楽を書いたニーノ・ロータの最高の音楽の一つと言えるでしょう!

 もちろん、主演のザンパノ役のアンソニー・クインやジェルソミーナ役のジュリエッタ・マシーナも最高の演技を披露しています。粗暴で荒くれ者のサンパノをクインはまさに等身大で演じています。特に最後のシーンで夜の砂浜に佇み一人嗚咽して泣くシーンはクインだからこそこの映画を強烈に印象づけられたのだと思います。
 アンソニー・クインの全身から発する野生的な雰囲気は決して昨日、今日作られた類のものではなく、生まれながらにして持っている魅力なのでしょう!
 ところが、随所で寂しげな表情を垣間見せる様子が実はザンパノという人間がただ単純で野蛮な人間ではなく、どこにでもいる心が弱い人間像として巧みに表現されているのです!

 しかし、何と言っても素晴らしいのはジェルソミーナを演じたジュリエッタ・マシーナでしょう。やや知的障害があるのだけれど、いつも明るく心は天使のように優しく純粋なジェルソミーナ……。軽度の知的障害者とは言え、そのような役を演じきるのは大変に難しいことと思われます。なぜなら言葉や表情で巧みに表現したいと思っても、知的障害者にとって言葉で伝達することはある程度限界があるし、気持ちの表現も健常者とはちがう様々な難しさがあるからです。
 しかし、ジュリエッタ・マシーナは違いました。まるで生まれながらにお人好しで純粋無垢な女性、ジェルソミーナを哀しいくらいに美しく生き生きと表現するのです!まさにマシーナ以外ではこの配役は考えられなかったといっていいでしょう。

 この映画の最大のドラマはジェルソミーナが綱渡り芸人と出会うところから始まります。ある日、綱渡り芸人が弾いていたヴァイオリンの音色に強く惹かれるのですが、それが「ジェルソミーナのテーマ」だったのです。いつもはふざけたことを言ったり、からかったりする綱渡り芸人なのですが、なぜかジェルソミーナとは気が合い、芸で共演するうちに交流が続くようになります。綱渡り芸人もジェルソーミーナといる時は素の自分に戻れるからなのか、心を許していくのです。そしてある日とても尊い言葉を口にするのです……。

 この映画では「人間の存在する意味」、「愚かさと罪」、「愛と許し」のようなキリスト教的な価値観、人間観が実に丁寧に描かれています。そして誰もがその登場人物に自分の姿を照らしあわせて、ある時は深くため息をつき、ある時は心を痛めるのです。