この映画は昔から哀愁に満ちた「ジェルソミーナのテーマ」が有名でした。どことなく気だるい雰囲気で開始されるのですが、明るいメロディとは裏腹に人生の悲哀をギュッと凝縮したようなとても切なく心にしみる音楽ですね!映画の中で音楽がこれほど空気のように浸透し、映像との密接な関係を築きながら名作として結実した作品はあまり例がないかもしれません。
この映画において「ジェルソミーナのテーマ」は映像を引き立てるだけでなく、それ自体が情景を浮かび上がらせる主役の一つにさえなっているのです。フェリーニ監督の数々の作品に音楽を書いたニーノ・ロータの最高の音楽の一つと言えるでしょう!
もちろん、主演のザンパノ役のアンソニー・クインやジェルソミーナ役のジュリエッタ・マシーナも最高の演技を披露しています。粗暴で荒くれ者のサンパノをクインはまさに等身大で演じています。特に最後のシーンで夜の砂浜に佇み一人嗚咽して泣くシーンはクインだからこそこの映画を強烈に印象づけられたのだと思います。
アンソニー・クインの全身から発する野生的な雰囲気は決して昨日、今日作られた類のものではなく、生まれながらにして持っている魅力なのでしょう!
ところが、随所で寂しげな表情を垣間見せる様子が実はザンパノという人間がただ単純で野蛮な人間ではなく、どこにでもいる心が弱い人間像として巧みに表現されているのです!
しかし、何と言っても素晴らしいのはジェルソミーナを演じたジュリエッタ・マシーナでしょう。やや知的障害があるのだけれど、いつも明るく心は天使のように優しく純粋なジェルソミーナ……。軽度の知的障害者とは言え、そのような役を演じきるのは大変に難しいことと思われます。なぜなら言葉や表情で巧みに表現したいと思っても、知的障害者にとって言葉で伝達することはある程度限界があるし、気持ちの表現も健常者とはちがう様々な難しさがあるからです。
しかし、ジュリエッタ・マシーナは違いました。まるで生まれながらにお人好しで純粋無垢な女性、ジェルソミーナを哀しいくらいに美しく生き生きと表現するのです!まさにマシーナ以外ではこの配役は考えられなかったといっていいでしょう。
この映画の最大のドラマはジェルソミーナが綱渡り芸人と出会うところから始まります。ある日、綱渡り芸人が弾いていたヴァイオリンの音色に強く惹かれるのですが、それが「ジェルソミーナのテーマ」だったのです。いつもはふざけたことを言ったり、からかったりする綱渡り芸人なのですが、なぜかジェルソミーナとは気が合い、芸で共演するうちに交流が続くようになります。綱渡り芸人もジェルソーミーナといる時は素の自分に戻れるからなのか、心を許していくのです。そしてある日とても尊い言葉を口にするのです……。
この映画では「人間の存在する意味」、「愚かさと罪」、「愛と許し」のようなキリスト教的な価値観、人間観が実に丁寧に描かれています。そして誰もがその登場人物に自分の姿を照らしあわせて、ある時は深くため息をつき、ある時は心を痛めるのです。
この映画では「人間の存在する意味」、「愚かさと罪」、「愛と許し」のようなキリスト教的な価値観、人間観が実に丁寧に描かれています。そして誰もがその登場人物に自分の姿を照らしあわせて、ある時は深くため息をつき、ある時は心を痛めるのです。
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