ベートーヴェンの唯一無二の魅力
フルトヴェングラーがこの世を去ってから既に60年ほどの歳月が流れました。返す返すも残念なのは、彼がステレオ録音時代に入る前に世を去ってしまったということです。もしせめて、あと5年だけでも生きていてくれたならば、おそらくステレオ録音の名演奏も数多く残していてくれたのだろう……という無念な想いがいつも胸をよぎるのです。
私にとってフルトヴェングラーという人は巨匠、天才指揮者という以上に、演奏芸術や指揮の奥深さを実感させてくれた水先案内人という印象が強いのです。彼が残した数々の名演奏の中でも圧倒的に素晴らしいのは、やはりベートーヴェンの交響曲でしょう。特に第9と第5、第3「英雄」は今もなお比較する盤がないくらい別格的な演奏と言っても過言ではありません。
第9は有名なバイロイト盤をはじめとして、ライブ演奏も含めると何と8回も録音しており、いかにこの曲の本質を理解し、共感していたかを物語っているといえるでしょう。
第9の魅力を教えてくれたフルトヴェングラーの名演
この曲の最大の関門は抽象的で神秘的な第1楽章です。この楽章が最初にあるため「第9は難しい」と敬遠される方も少なくないのではないかと思います。「哲学的」であるとか「形而上学的」と評されるように、理屈で音楽を表現しようとしても何も語りかけない難解な音楽で、多くの指揮者が表現に苦心惨憺するところなのです。
バーンスタインやカラヤンが指揮した第1楽章を聴いた時はまったく意味が理解できず、ますます第9は遠い存在になってしまったことを覚えています……(^_^;)。
ところがフルトヴェングラーの第9の第1楽章はまったく違いました! それは今や伝説的とも評される有名なバイロイト盤との出会いでした。冒頭からまるで別世界で音が鳴っているような苦渋に満ちた重々しい響きやスケール雄大な独特の雰囲気に満たされ、一瞬にして私の心をつかんで離さなくなったのです…。
この時初めてベートーヴェンの第9の本当の偉大さを実感しましたし、また、こんなにも芸術的に第9を振る指揮者が世の中にいたのか!という驚きと感動が心の中を熱いもので満たしていったのです。
この時初めてベートーヴェンの第9の本当の偉大さを実感しましたし、また、こんなにも芸術的に第9を振る指揮者が世の中にいたのか!という驚きと感動が心の中を熱いもので満たしていったのです。
以来、ベートーヴェンの第9の第1楽章は大好きになり、俄然フルトヴェングラーの芸術は心の奥深くに記憶されたのでした。 今なおこの第1楽章を深遠に意味深く伝えてくれた人は後にも先にもフルトヴェングラーしかいません。もちろん第2楽章のテンポの流動を伴う強靱な意志力の表出、時間の経過を忘れるような第3楽章の深い瞑想と崇高な祈り、そしてコーラスと管弦楽が渾然一体となった恐るべき第4楽章等の素晴らしさは言うまでもないでしょう!
(第2回に続く)
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