2011年8月9日火曜日

ハイドン 交響曲第92番ト長調「オックスフォード」




懐が深く、格調高い演奏



 先日、最近のハイドンの演奏はオリジナル楽器の演奏が大多数を占め、演奏スタイルも含めてつまらなくなってきた旨を書きました。しかし最近、朝比奈隆がベルリン・ドイツ交響楽団を振ったハイドンの交響曲第92番「オックスフォード」&交響曲第99番の放送用録音(1971年、1974年録音)が発売されたのです。この録音は衝撃でした!

 朝比奈というと、ブルックナーやベートーヴェンの大家としてよく知られていますよね! ブルックナーは比較的昔から演奏会でとりあげてきましたが、交響曲全集は3回録音していますし、ベートーヴェンに至っては何と7回も全集を録音しているのです。これは他の指揮者に比べても圧倒的な録音回数(もちろん演奏内容も充実している)であることは言うまでもありません!
 朝比奈のレパートリーはブラームスやチャイコフスキー、マーラーあたりも充実しており、ハイドン、リヒャルト・シュトラウスもなかなかの素晴らしさです。とにかく朝比奈はドイツ古典派からロマン派にかけての骨格のしっかりした作品を指揮するとムラのない素晴らしい演奏を繰り広げたものでした!

 そのことはこの録音でも実証してくれました。ここで耳にするハイドンの2曲の交響曲は、本当に音楽を聴く歓びを素直に感じさせてくれます!久々に現れたハイドンの名演奏(録音は随分古いのですが…)と言ってもいいのではないでしょうか。特に驚いたのは交響曲92番「オックスフォード」の緩抒楽章(第2楽章)の有無をも言わせぬ出来栄え!オリジナル楽器の演奏ではどうしてもさらっと流れてしまい、物足りなさを感じたり、薄味の演奏になりやすいところです。

 ところが朝比奈の演奏はまったく違いました。まず雰囲気が豊かで、懐が深く格調高いのです!ハイドンの息づかいがそのまま聴こえてくるような豊かな音色は、隠れた音楽の魅力を浮き彫りにしてくれます。内声部の見通しも良く、それぞれの楽器の織りなすニュアンスが無上に愉しいコントラストとなって響きます。
 もちろん他の楽章も素晴らしく、第1楽章の翳りの濃い響きで始まる序奏部は、それだけでも演奏の見事さを確信できます!あわてず、かといって重くなりすぎない一本芯が通った安定感抜群の演奏は終始理想的なテンポと造型を保ちつつ曲が進行します!第3楽章のこぼれるような繊細な表情を奥行きある演奏としてまとめあげる手腕。第4楽フィナーレの主題や展開部での光と影を見事に映し出す表現力。ただただ頭が下がりまます!

 朝比奈の造型はハイドンのようないくぶんゴツゴツとして純粋素朴な作品にまさにピッタリなのだと思います。頭で考えた形跡はまったくありませんし、自然体の飾らない音楽作りもツボにはまっています!録音も大変良く、ハイドンの音楽をとことん堪能させてくれます。

 このような名演奏に接して改めて思うのは、ハイドンの作品は大らかで楽観的な音楽というイメージがありますが、それはあくまでも表向きだけと言うことです。つまり朝比奈の演奏で随所に見られる生きる歓び、情熱、翳りの濃さはハイドンの魅力であるし、音楽としての包容力の大きさとして伝わってくるのです。
 せっかくですから……。朝比奈に限らず、もっともっといい意味でハイドンの音楽の魅力を再認識させてくれる演奏にも出会いたいものです!




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