2010年3月10日水曜日

モーツァルト クラリネット五重奏曲










室内楽のジャンルで
例外的にポピュラーな作品

 このところ、寒かったり雨が降り続いたりとかなり不安定な天候の日が続きますね。どこか体調がすぐれないという方も多いかも知れません。しかも、長引く不況の影響で心も身体も冷え切っていると思われる方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。こんな時こそ、心にたっぷりと栄養補給したいものです。

 先日、久し振りにモーツァルトのクラリネット五重奏曲を聴きました。何度も聴いている曲なので、いい加減飽きてるかなと思いましたが、曲を聴き進めるうちにひたひたと身体中に熱い感動が押し寄せてくるのを感じました。本当に至福のひとときでした。

  この作品は不人気と言われる室内楽のジャンルでは例外的にポピュラーな作品です。第1楽章の柔らかく優しく語りかけるメロディ。第3、第4楽章の哀しみを堪えながら無邪気に微笑むメロディ‥。
 そのいじらしいまでの無邪気さや健気さは心をぐっと掴んで離しません。この作品は最初から最後まで人を退屈にさせることがないのです。乾いた土に 染み込む水のように自然に心の養分となり、聴く者をいつのまにか至高の世界に誘ってくれるのです。



疲れた魂を癒す
最高の逸品

   まさに疲れた心を癒し、魂を癒してくれる最高の逸品と言っても過言ではないかと思います。中でも素晴らしいのは第二楽章のアダージョでしょう。ここにはすべての言葉が無力に思われるほど、無限の愛や諦観が色濃く流れています。哀しみをじっと耐えながら、どのような運命をも拒まず受け容れる寛容の心に溢れています。

 音楽の展開は、クラリネットと弦楽器が語り合うように哀しみやわびしさや慰めの感情を奏していきます。その表情は母親が赤ちゃんを懐に抱え、子守唄を口ずさみながら「いいんだよ。何も気にしないでお休み。お前を一生離すことはないから‥」と優しく諭しているようにさえ思えます。

   きっと晩年のモーツァルトは経済的にも苦しく、人間関係においても相当に心に傷を負っていたのでしょう。ここにはすべてのものを失い、悲しみのどん底に喘ぎ、憔悴し切ったモーツァルトの姿が映し出されています。
 けれども寂しさと哀しみに押しつぶされるのではなく、それでも人を信じていこう、愛していこうという気持ちがこぼれているのです。いわば、絶望の中にあっても人を信じたい、愛し愛されたいというモーツァルトの強い想いがこの作品を誕生させ、名作として結実させたのでしょう。




 演奏で忘れられないのはフリードリヒ・フックス=ウィーンコンツェルトハウス四重奏団です。これは1962年の東京文化会館でのライブですが、録音も比較的良く、楽器の音色もきれいに収録されています。甘く切ないクラリネットの表情、ポルタメントを用いた柔らかい弦の響き、本当に夢のようなひとときが流れていきます!モーツァルトのこの名曲を心静かに味わうには最高の1枚と言っていいでしょう!


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