自然に対する深い感謝と愛情
言うまでもなく、ベートーヴェンの交響曲は9曲ともに甲乙つけ難い傑作揃いです。ベートーヴェンの交響曲の本当の素晴らしさはライブでより発見できることでしょう。
なぜなら、尋常ではない緊張感と強い集中力を要求される彼の音楽は生々しい音の響きが炸裂する現場の空気に触れ合うことによって強力なエネルギーを発散させるからなのです。
ですから、お気に入りの指揮者がベートーヴェンの交響曲を振る時は躊躇することなくチケットを購入されることを強くお勧めします。きっと何かしら心に残る名演奏が展開されるのではないでしょうか。
ところで、失意のどん底や孤独、生きる悲しみを描き、人間の生々しい精神の声を表現することにおいてベートーヴェンの交響曲は他に並ぶものがありません。もちろん、そのような苦しみに埋もれるだけではなく、自分を奮い立たせながら希望と勝利への道筋を求めていくベートーヴェンの姿があらゆる人の心に強烈なメッセージを刻み込んでくれるのです。
そんなベートーヴェンが作曲した激しい緊張感や慟哭とは唯一無縁の作品が交響曲第6番「田園です。ただし、底抜けに明るいのとはちょっと訳が違います。深さを湛えながらも、決して重くならず、ゆとりと柔軟さを持った気持ちのいい明るさを保っているのです。この気持ちのいい明るさこそ、ベートーヴェンの自然に対する深い感謝と愛情がにじみ出ている証拠なのではないでしょうか。
何度聴いても感動と発見があるのはきっとそのためなのでしょう!単なる自然の描写ではなく、人間の心のフィルターを通して抽出された自然への体感が崇高に美しく描かれているのです。これを聴くとベートーヴェンという人は音による最高の哲学者でありながら、最高の詩人だったのではないのかと痛感させられるのです。
演奏はカール・ベームがウィーンフィルを振った1976年の録音が大変な名演です。この作品の根底にある雄大さや金管楽器、ティンパニ等の生々しい響きを引き出すことに成功しています。また、ウィーンフィルの持ち味である柔らかさに迫力を付け加えて実に雄弁な演奏を繰り広げています。同じく1977年のウィーンフィルを同行してのライブも素晴らしく、ベームはこの曲に関してはウィーンフィルとの相性が抜群だったのですね。
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