美しくワクワクするミサ曲
プッチーニは20世紀を代表するイタリアオペラの大作曲家ですが、オペラに比べると宗教曲や声楽曲はあまり知られていません。しかし、このグロリア・ミサは一言ではとても言い尽くせない魅力に溢れた素晴らしい作品です。
何が素晴らしいかというと、一応ミサの形式に準じた曲なのですが、厳粛なグレゴリオ聖歌風ではなく、カトリック的な情感を基調にしたものでもない、あくまでも歌を基調にした創作にあります。つまり一言で言えば、ミサ曲らしくないミサ曲なのです。
形にとらわれないあたりはベートーヴェンと似ているのかも知れませんね。ミサ曲というと室内の薄暗い灯りに照らされた神秘的なイメージが彷彿とされますが、この曲はちょっと違います。
聴いていると密室に閉ざされた雰囲気は微塵も無く、まるで屋外の太陽の光に照らされたとても開放的なイメージが広がっていきます。たとえば夕陽に照らされた海岸を想わせたり、晴れた秋空の心地良い風を感じたり、光と影の美しいコントラストだったり、オペラの情景のように様々な感覚が湧き上がってくるのです。そのことからもこの作品がいかに自由でイマジネーションに溢れているかを如実に示していると言えましょう。この作品を聴くと、後年の素晴らしいオペラへとつながる萌芽がはっきりと出来上がっているのをお気づきになるに違いありません。
演奏はユルゲン・ブッダイが指揮したマウルブロン聖歌隊、バーデンバーデン・フライブルク放送交響楽団とのライブ演奏が最高にエキサイティングで、この曲の魅力をあますところなく伝えてくれます。コーラスの心がこもり、熱のこもったハーモニーは立体的な造形と共に、この作品の深い陰影を浮き彫りにします。
特にグロリアの後半部の見事な盛上がり!それはテクニックや調和、響き云々以上に、作品に心底共感し、表現しているからこそ素晴らしさや感動がひしひしと伝わってくるのです。変化に富み、多彩なテーマが繰り広げられるこのミサ曲の魅力をとことんまで表現するブッダイの力量にも驚かされます。ライブならではの緊張感と共有感がますますこの演奏を生きたものにしているのは、間違いないところでしょう。
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