2010年9月8日水曜日

シベリウス 交響曲第6番


 


神秘的な自然の情景と透明な響き


 シベリウスはフィンランドの国民的な作曲家です。フィンランドは地理的にはロシアに近いのですが、生活、文化、習慣はロシアとは大いに違います。それは音楽の傾向にも顕著に表れていて、特にメロディの扱いひとつにも大きな違いが出てきます。たとえば骨太で重量感たっぷり、ムード満点のロシア音楽に対し、より楽器の響きや和音を重視するフィンランド音楽。よりオリジナリティが育まれてきたという観点ではフィンランド系の音楽に分があるのかもしれません。とにかく西洋音楽の中では独自の文化を育んできた土地柄なのです。

  そんなフィンランド音楽の顔ともいうべきシベリウスの音楽には他の西洋の作曲家とはちょっと違う独特の響きがあるのは言うまでもありません。特にシベリウスの交響曲はチャイコフスキーやブラームス、マーラー、ブルックナーのいずれの作曲家の特徴とも同類に語れない独特のものです。土俗的な要素があるかと思えば、とてつもなく透明でチャーミングなテーマも随所に現れたりしてなかなか一言でこうだと述べるのは難しいのです。それでも全体を一貫している重要なテーマは大自然と人間との関係が神への感謝と畏敬の念の中で渾然一体となり、幸福な融合へと導かれることでしょう。
 交響曲第6番はそのようなシベリウスの重要なテーマが無理なく、バランスよく最高度の次元で結集された名作だと思います。交響曲第6番の第1楽章の冒頭部分は霧に包まれた神秘的な自然の情景を思わせます。すると、間もなく弦の美しいユニゾンやハーモニーが自然の息吹を伝え、それに呼応するように木管楽器の瞑想に満ちた旋律が小鳥のさえずりや心のざわめきのように響きます。このようなパッセージを北欧的と言ってしまえばそれまでなのですが、透明感があり、心洗われるような弦のピッチカートやハープの響きに乗せながら絶妙に美しく絡む響きはシベリウス独特のものなのです。決して、大言壮語しないのに、心をグッとつかんで離さないこの魅力とは一体何なのでしょうか?
 第2楽章からフィナーレまでも充実した楽想がますます神秘的で雄大な自然の情景を表出していきます

 演奏はパーヴォ・ベルグルンドが1980年代の中頃にヘルシンキフィルと録音したEMI盤が最高です。奥行きののある表現と瑞々しい響きがシベリウスの持つ瞑想や詩情をものの見事に刻印しています。特に木管楽器の瞑想に満ちた音色が印象的で、時間の流れを忘れてしまいそうです。



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