ベートーヴェン異例の
明るく爽やかな音楽
ベートーヴェンは作曲する際、妥協することなく、どこまでも自分の理想とポリシーを貫き通した人でした。
したがって彼の作品は形式にとらわれたり、人の関心をひくだけの音楽はほぼないと言っていいでしょう。一様にどれも強靭な精神性と革新的な閃きに満ちあふれているのです。
彼の交響曲はどれもこれも傑作揃いですが、その中で一つだけ異質な作品があります。
それが1817年作曲の第8交響曲です。
中期の英雄交響曲、交響曲第5番のような極限の緊張感とドラマチックなソナタ形式に貫かれた作品とは異質の世界がここにあります。ベートーヴェンとしては珍しく最初から最後まで微笑みに溢れ、心地よいゆとりと潤いがあるのです。
とは言うものの、最後の大作、第九の前の交響曲です。ベートーヴェンが単にあっさりとした作品を作るはずがありません。
仮に他の作曲家がこのようなスタイルで、同じように充実した作品が作れるだろうかといえば、それは甚だ疑問です。
ここにはベートーヴェンの卓越した音楽性と豊かな精神性が無理なく融合しているのです。
ユーモアと骨太な
魅力が同居
第一楽章の溌剌としていて、何事にもとらわれずに前進するたとえようのない爽快感!
けれども中間部で見せる真剣な眼差しや格調高い高揚感は中期の傑作にも通じるし、懐の深さを感じざるを得ないのです。
第二楽章のメトロノームの動きを模したといわれる主題は明るく親しみやすく、ベートーヴェンのイメージを一新させてくれます。もちろんそれだけではなく、キリッと引き締まった造形とリズムは一つの方向に向かって熱く燃えあがっていくのです。
第三楽章もそれを継承していて、ユーモアに溢れた感覚が新鮮ですが、粗野で骨太な魅力はベートーヴェンならではです。
第四楽章は第八交響曲の特徴のすべてを結集した密度の濃い音楽となっています。多彩な主題の展開は広々とした世界が彷彿とされますし、高い理想と信念に向かって進行していく格調の高さに心うたれるのです!
この交響曲はいい意味での軽さとベートーヴェンらしい強靱な響きが両立しないと何とも具合が悪いので意外に難しいのです……。 デヴィット・ジンマン指揮チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団(ARTE NOVA)の演奏はストレートな進行と虚飾を排した表現が光ります!
モダン楽器の演奏をオリジナル楽器の演奏のように見立てているところがポイントです。オリジナル楽器の切れ味とモダン楽器の豊かな響きの良さがミックスされた秀逸な演奏と言えるでしょう。ただし、第四楽章だけはストレート過ぎて、やや物足りなさが残ります。
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘンフィルの演奏は相変わらずスローテンポの演奏ですが、しっかりとした足どりのスケール雄大な演奏ですが、間延びしたりしないのはさすがです。特に第4楽章は密度の濃い大芸術となっているのです!
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