親しみやすく
内容の濃いオード
ヘンデルのオラトリオというと、劇的でスケールの大きい作品を連想しがちなのですが、「アレクサンダーの饗宴」はちょっと違います。元々この作品は通常のオラトリオではなく、頌歌(オード)として作曲されたようです。
オードとはいうものの、そこはヘンデルのことですから単に襟を正した生真面目な曲を作るはずがありません。清澄で格調高い曲調を充分に保ちながらも、やりたいことをやりつくしているのです。親しみやすく覚えやすいアリアや合唱が連続して出てくるのもヘンデルならではですし、聴く者は自然にその音楽の懐に引き寄せられるともいえるでしょう…。
合奏協奏曲第3番にも転用されている同名のタイトル「アレクサンダーの饗宴」を第2幕の前に置いたのも当時の聴衆を飽きさせないためのヘンデルの巧みな戦略だったのでしょう。何とこの合奏協奏曲は間奏曲としては珍しい3楽章形式になっており、ヘンデルがあらかじめ合奏協奏曲に転用するのを見込んで作られたと言えなくもないですね。
ヘンデルの音楽の多彩な魅力と
構成のうまさ
この作品を通して聴いて改めて感じるのはヘンデルの音楽の多彩な魅力と構成のうまさです。序曲にしても一度聴いた限りでは単純明快な音楽かと思いきや……、実は非常にこなれていて自然な高揚感を演出する魅力作ですし、合唱にしても立体的で様々な表情を生み出します。アリアにしても間奏曲にしても音楽は終始変化に富んでいて、生き生きとしたリズムやメロディが弾けるのです。
印象深いのは合唱の効果的な配置とアリアや伴奏等の型にはまらない奔放な魅力にあふれていることです。ヘンデルは声や楽器の響きの特徴・性質とか、全体を俯瞰する音楽的な構成力が際立って優れていたのでしょう!それはこの「アレクサンダーの饗宴」でも充分に生きているようです。
特に印象深いのは前述の序曲と第一幕の栄光を現す合唱「The many rend the skies with loud applause」と微笑みに満ちたソプラノのアリア「With ravish'd ears」、第2幕フィナーレの合唱「Your voices tune」の大河の流れのような壮大な叙情詩です。
ガーディナーの独特のテンポと
音楽を聴かせる術
この作品のCDとして真っ先に挙がるのが、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮イギリス・バロック管弦楽団 モンテヴェルディ合唱団、ドナ・ブラウン(S)、キャロリン・ワトキンソン(Ms)、アシュリー・スタッフォード(C―T)、ナイジェル・ロブソン(T)、スティーヴン・ヴァーコー(Br)らによるドイツ・ゲッティンゲンでの1988年ヘンデル音楽祭ライブのCD(フィリップス)です。
これは当時ヘンデルのオラトリオを続々と演奏・録音していたガーディナーの貴重な記録と言っていいでしょう。テンポが比較的速く、リズムも切れ味鋭く、従来のヘンデル像とは大きくかけ離れた演奏で随分と話題になったものでした。
とにかく聴かせ上手で、リズムはガーディナー独特のものなのですが、音楽の本質とぴたりとはまっているために違和感がありません。合奏協奏曲での独特のテンポとリズムはガーディナーだからこそ表現できたものでしょう。
スタイリッシュでスマートな造型は新しい時代の幕開けを告げるにふさわしいものだったでしょうし、合唱の精緻でバランスのとれた美しさ、歌手たちのガーディナーの解釈に寄り添う表現も見事です!
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