ハイドンの音楽の魅力が
充満している作品
すっかり朝晩涼しくなってまいりました。数週間前まで真夏の猛烈な暑さが続いたのが今となっては嘘のようですね。それにしてもここ数日の天気の急変ぶりには戸惑ってしまいます……。晴れているかと思えば、急に雨が降ってきたり、暑いのかと思えば夕方急に冷え込んだりと…、まだまだ油断出来ない気候が続いています。季節の変わり目ですので皆様、くれぐれも体調管理にはお気をつけくださいませ。
さて、今回も前回に引き続きハイドンのミサ曲をとりあげたいと思います。今回は代表曲の一つにも数えられる「テレジア・ミサ」です。
テレジア・ミサはハイドンの数多くのミサ曲の中でも屈指の傑作といえるのではないでしょうか。とにかくキリエからアニュスデイまでの全編が聴き所満載です。そして構成や曲の展開もすこぶる充実しているのです。
特にグロリアの充実感と言ったらどうでしょう! 音楽を聴く喜びと感動で心がいっぱいになります。最初のGloria in excelsis Deo(いと高きところに栄光あれ)はタイトルが示すとおり、格調高く威厳に満ちた響きがまさに天に通じるかのようです!
それに続くGratias agimus tibi(感謝したてまつる)のアルトやテノール、バスの独唱、二重唱、三重唱の絶妙な声の饗宴と変化に富んだ展開はハイドンの大らかで豊かな人間性が最高に表わされたもので、それは合唱を伴いつつさらに深遠な世界を醸し出していきます。続く Quoniam tu solus sanctus(イエス=キリストよ 主のみ聖なり)の明るく優しさに満ちた響きも何とも言えない魅力をふりまきます!
クレドやサンクトゥスの確固とした造型と揺るぎない音楽の展開は唖然とするほどですし、音楽の山場が何度も現れるような気がするほどです!
また、ベネディクトゥスのあふれる希望と幸福感!ハイドンの音楽はいよいよ輝きと深い味わいを増し加えていきます……。
アニュス・デイで厳粛な悲しみが告げられると、まもなく暗雲を吹き飛ばすかのようなフィナーレの合唱がやってきます!「主の平安を与えたまえ」は微笑みにあふれたフーガが活躍する最後の合唱で、中間部の絶妙な転調は広々とした天空の彼方へと連れ去られるようにも思えますね。まさにハイドンの音楽の粋がここにあると言ってもいいのではないでしょうか。
ミサ曲が重苦しくて聴くのが辛いという方は、まずはこのテレジア・ミサをお聴きになられることを強くお薦めします!今までミサ曲に抱いてらっしゃったカトリックの典礼に基づく概念が、もしかしたらいい意味で覆されるかもしれません。それほどこのミサ曲は自由なイマジネーションと無垢な感動、希望にあふれた魅力作なのです!
リリングが辿り着いた
古楽とモダン楽器の長所を
融合した格調高い名演奏
まず驚くのが録音の素晴らしさでしょう。それはただ単に音質がいいというのではなく、合唱とオーケストラのバランスが理想的な音量と臨場感で収録されているのです!
大体このようなオーケストラを伴う声楽曲の場合はどちらかに音質が偏ってしまいがちなのですが、この録音にはそれがありません。
分離の状態がとてもよく、合唱の様々なパートが美しく冴え渡って聞こえるのです。
もちろん肝心の演奏がよくなければどんなに録音が良くても興ざめですが、これは合唱、ソリスト、オケ、指揮者の表現とすべてに素晴らしいのです!
合唱は発声の美しさやハーモニーの透明感も保ちながら、躍動感やダイナミズムが伝わってくるし、何よりも音楽に心地よい流れがあります。
この演奏は前回紹介した戦時のミサと同じアルバムに入っているのですが、戦時のミサが1992年の演奏だったのに対して、それから15年後の2007年の演奏です。この録音のほうがさらに生気にあふれていて素晴らしいと思うのは私だけでしょうか…?
恐らく15年の間にリリングは表現の幅を著しく拡げたのでしょう。古楽器奏法に近いスッキリとした造型と響きを基調にし、ヴィブラートを極力抑えた声楽パートの表現を施しながらも、従来のモダン楽器を踏襲した自然なフレージングやダイナミズムを良しとした表現は古楽かモダン楽器かで論議を呼ぶハイドンの作品のあり方に大きなヒントを与えてくれるようにも思います。
従来通りのオーソドックスな名演奏としてはネヴィル・マリナー指揮ドレスデン・シュターツカペレとライプツィヒ放送合唱団、ワトキンソン(Ar)、マーシャル(S)、ルイス(T)、ホル(B)の録音(EMI)がオーケストラ、合唱の精度が非常に高く、安心して曲に浸ることができます。
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